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【たかが1団体のチャンピオンベルトかもしれない。しかし、されど尊いチャンピオンベルトなのだ】

「ドロー判定なら延長だというのを、『防衛成功』とリングアナが間違えて言ってしまったらしい。
王座は空位だから、近いうちに再戦を……」
「それは無理です。今はやる気になりません」

私は一呼吸置いて続けた。

「王者として、防衛戦ならやります」
「OK、わかった。今、プロモーターのジョーさんが会場からこちらに向かっているので話をしてみる」

再びドアを閉め、私は部屋の明かりをつけた。
荷物は部屋に入ったときのままだった。
試合用具の入ったトランクは部屋の真ん中に置かれ、試合会場から羽織ってきたバスタオルは床に落ちていた。
中身を取り出す気にはならなかったが、とりあえずは部屋の隅にトランクを寄せ、バスタオルは洗面所に持って行った。

ドローなら延長のところをリングアナが間違えて「防衛成功」と言ってしまった?

私がリング中央に行く前、判定結果の紙を持ったリングアナと目が合った。
彼は私に向かって小さくガッツポーズした。
あれは一体……。
私はあのとき、

「俺の勝ちでいいんですね」

と思った。
誰だってそう思うだろう。

photo:02


【右前方にいたリングアナのあの小さなガッツポーズとアイコンタクトは一体…】

しかしながら、ドローでも全く納得いっていないが、少なくとも負けでは無かった。

少なくとも負けでは無かった

私はまたベッドに倒れこんだ。
明かりのついた部屋で、仰向けになって天井を再び見上げた。
ほとんどの感情を失っていた私は、目尻から耳の上部に、涙がつたうのを感じ取った。

このまま何かの間違いだったと言ってくれ。
私の勝ちに変えてくれ。
心から神に祈った。

日本に残る妻に再びメールを送る。

「負けが間違いで引き分けになった。それでも納得いかないから更に抗議してみる」
「まだ会場なの?襲われたら危ないからやめときなよ」
「いや、もうホテル。しばらくしてから浅田さん(マネージャー)から伝言を聞いた。このまま勝ちに変われ。頼む。変えてくれ」
「もうそんなのどうでもいいから早く日本に帰って来なさいよ。体調悪い中、よくやったじゃないの」
「イヤだね。絶対に俺の勝ちだもの。言いたいことは全て言わせてもらう。じゃなきゃ何のために中国に来たのかわからん」

再び涙がこぼれた。
悔し涙だ。
メンタルの振り切れた茫然自失の状態から、少しはまともな人間の感情をようやく取り戻したようだった。

photo:03


【試合前のストレッチ。緊張は直前までしないと自分を洗脳している】

すると部屋のノックが鳴った。
扉を開けると英雄伝説のプロモーターのジョーさんがいた。
横には通訳兼アテンドの岩熊さん、マネージャー、そして神妙な面持ちの小森会長も立っていた。

ジョーさんは私に手を差し出した。
私はその手をすぐに握り返すことができなかった。

2014年深セン遠征『英雄伝説』①

2014年深セン遠征『英雄伝説』⑩
2014年深セン遠征『英雄伝説』⑪
2014年深セン遠征『英雄伝説』⑫
2014年深セン遠征『英雄伝説』⑬

明るく生こまい
佐藤嘉洋

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