平成14(2002)年12月以降、E351系とE257系という、JR世代の車両で運転されてきた「スーパーあずさ」「あずさ」「かいじ」。
近年になって、E351系は「スーパーあずさ」での酷使が祟ったのか、老朽化が顕著になってきました。また5編成しかない振子式車両のメンテナンスも、現場の負担になってきていました。
そのような折、富士山の世界遺産登録がなされたことで観光客の増加が予想され、それを機にJR東日本は、山梨側からの富士山へのルートとなる中央東線のテコ入れを意図し、中央東線への新型特急車両の投入をアナウンスしました。
その「新型特急車両」こそが、今回取り上げるE353系です。
スペックは以下のとおり。

① 編成は基本9連(うちグリーン車1両)+付属3連の構成。付属編成も独立して運転が可能(E257系とは異なる)。
② 基本+付属12両の編成両端の先頭車は非貫通式、中間に組み込まれる先頭車は貫通式だが、同じようなデザインがされている(E259系に類似)。
③ 車体傾斜装置を採用(振子式ではない)、曲線通過速度をE351系と同等とする。
④ メカニックはVVVFインバーター制御だが、車両情報管理システム(TIMS)をE257系よりも深度化。
⑤ 車体色は白をベースに(アルパインホワイト・南アルプスの雪のイメージ)、屋根肩部を紫色(あずさバイオレット・沿線の特産品ブドウのイメージ)、窓周りを黒に近い濃いグレー(キャッスルグレー・松本城のイメージ)。
⑥ 各車両の各デッキに防犯カメラ、1編成あたり1台のAEDを装備。

編成は全12連、E351系ともE257系とも異なる編成構成となっており、しかもE257系とは違い、3連の付属編成も独立して運転が可能となっています(①)。グリーン車はE257系の半室から全室に戻されましたが、身障者対応の多目的室などが併設されているため、定員は多いわけではなく、半室であったE257系より4人多いだけ、しかも横4列という「詰め込み仕様」。このあたり、JR東日本のグリーン車に対する考え方が伺えるような気がします。
また、デザインは「成田エクスプレス」用のE259系の流れを汲み、貫通式・非貫通式とも同じようなものに仕上げられており、両者の差異が目立たないようになっています(②)。カラーリングにもE259系との共通性が垣間見えます(⑤)。
E353系の一番の特徴は、E351系のような振子式を採用せずとも、空気バネを用いた車体傾斜装置の採用によって、E351系と同等の曲線通過速度を確保していることです(③)。車体を傾斜させるのはカーブで遠心力を打ち消し減速の必要をなくすためであり、そのために従来は振子式が採用されていたのですが、振子式は車両のイニシャルコストが高く、かつ軌道に与えるダメージが大きいなどのデメリットがありました。そこで、振子式ほどイニシャルコストが高くなく、軌道に与えるダメージも少ない方法として、空気バネの作用により車体を傾斜させるという装置を採用しています。このような装置の発想は、既に小田急SE車の設計段階からあったのですが、当時はカーブに従って適切に車体を傾けることのできる技術的な裏付けがなく、採用はなされないままでした。それが、エレクトロニクス技術の長足の進歩により、技術的な裏付けがなされ、めでたく採用されるに至った次第です。現在は振子式よりも、空気バネによる車体傾斜装置の採用が主流になっています。
車体色はE259系のデザインの流れを汲む塗り分けですが、色使いは全く異なっています(⑤)。正面に黒(キャッスルグレー)を大胆に配したデザインは、甲冑に身を包んだ戦国武将のようでもあり、沿線の甲斐国の武将・武田信玄を彷彿とさせるものがあります。
最後に、昨今の防犯対策の重要性に鑑み、デッキに防犯カメラを設置したことは、いかにも今日的な仕様です(⑥)。この種の問題は、プライバシーとの関係で問題視されることが多いのですが、実際に一昨年、新幹線のデッキで「自傷テロ」を仕掛けた者がおりましたから、防犯対策という意味ではやむを得ないと思われます。

E353系の現車は、基本+付属の12連1編成が昨年夏に落成し、試運転が行われていましたが、その後不具合が発生したため、しばらく試運転は行われませんでした。
しかし、今年に入ってから、2月に付属の3連が大糸線へ入線したり、6月には東京地区まで入線したりするなど、試運転が再開されています。同系の大糸線への入線は特筆されるところで、近年とみに元気がない大糸線直通列車ではあるものの、同系に置き換えた後も継続するという、JR東日本の意思表示とみることができます。

このE353系、ゆくゆくは「あずさ」「かいじ」の全列車を置き換えるのだそうです。
それではそこから押し出されるE257系はどうなるのか。勿論、耐用年数からいっても退役するわけはないのですが、何と東海道の「踊り子」を置き換えるために転用されるということです。
この話題は以前、当ブログでも取り上げたことがありますが、E257系を「踊り子」に投入する場合、

(1) 修善寺乗り入れの付属編成をどうするのか(この問題は修善寺直通を維持するか否かにもかかわる)
(2) グリーン車の定員が少なすぎる

という問題があります。
(1)に関しては、乗り入れ先の伊豆箱根鉄道の沿線の観光協会や旅館組合などが、修善寺直通列車の廃止には強硬に反対しており、存続を前提とするならば、4~5連の付属編成は用意せざるを得ません。
(2)に関しては、E257系のグリーン車は半車ですから、改造した全室型を用意し、現在のグリーン/普通合造車を付属編成に回すなどの手を打たないと、現行185系と同等の定員は確保できません。
ただ、付属編成に関しては、房総特急の減便で5連の500番代に結構な数の余剰が出ており、これを転用すればよいのでは、という考えもあり、動向が注目されるところです。

このように、E353系への統一がアナウンスされた「あずさ」「かいじ」。
次回は最終回として、「あずさ」「かいじ」、それと新幹線に姿を変えた「あさま」の将来像を探ってみようと思います。

その18(№3664.)へ続く