今回から何回かに分けて、観光用に特化した車両を取り上げます。
予告編では、今回は「タンゴエクスプローラー」を取り上げる予定でしたが、そちらは次回といたします。予告編とは順番を違えますが、悪しからずご了承ください。

バブル期の車両の特徴として、とにかく贅を尽くした車両である、ということは何度も指摘していますが、中でも「観光用に特化した」車両が多いことも特筆されます。これは当時、国鉄末期からJR発足の初期にかけて、それこそ雨後の筍の如く各地に登場した「ジョイフルトレイン」の設計思想がフィードバックされたものと見ることができるでしょう。

そのような、「観光用に特化した」車両の中で、特筆されるのは、伊豆急行(伊豆急)の2100系です。
既にこの車両に関しては何度か取り上げていますので、今回は前回の東武100系同様、内装面を中心に取り上げていきます。以前の記事と重複するところもあろうかと思いますが、ご容赦ください。
2100系は、以下のような特色がありました。

1 編成両端にシアター状の展望席を設置。
2 一般客席は、海側の座席を窓に向けたベンチシートとし、山側はボックス席を配置。
3 外装は日本初の両側面非対称の塗り分けとし、海側は赤の、山側は青のストライプが入る。

言うまでもないことですが、これらのスペックは、それまでの100系とは全く異なるもので、特に1と2に関しては、大きな話題を呼びました。このような座席配置を採用したのは、伊豆急ではほぼ全線にわたって相模湾~太平洋の雄大な海の景色を楽しめるため、その景色を存分に堪能してもらおうという意図によるものでした。そして山側にグループ席を配したのは、グループ客は得てして車窓を楽しむのは二の次である(管理人の実体験)ことにもよるのでしょう。

というわけで、これだけでもかなり豪華な車両であることがお分かり頂けると思いますが、伊豆急の太っ腹なところは、この車両を特別料金を充当する列車には充当せず、乗車券だけで乗れる普通列車に充当してしまったところ。つまり、この車両を使用した列車に乗る際には、一切の特別料金が要らないことになりますが、これはいうまでもなく普通列車としては破格過ぎるサービスでした。
そして愛称は、21世紀を意識したものなのか、「リゾート21」とされ、これがこの車両を示すものとして、時刻表などの案内に使われるようになっています。
「リゾート21」こと2100系は、このような破格過ぎるサービスが評価された結果、昭和60(1985)年度の第29回鉄道友の会ブルーリボン賞受賞の栄誉に輝いています。
その後、「リゾート21」の好評に気を良くした伊豆急は、同車の増備を行います。昭和63(1988)年に3編成まで増え、この年全車指定席の快速「リゾートライナー」として、初めてJR東京駅まで乗り入れています(この乗り入れは翌年から特急『リゾート踊り子』に変更、その後現在まで継続)。
平成4(1992)年には第4編成が登場しますが、第4編成はグリーン車に相当する「ロイヤルボックス」と名付けた特別車両を連結して登場しました。この「ロイヤルボックス」は、ゆったりしたリクライニングシートが展開、アテンダントが常駐して茶菓のサービスなどを行っていましたが、これも普通列車としては異例のことでした。「ロイヤルボックス」は、後に全編成に連結されています。
さらにこの翌年、「リゾート21」としては最終編成となる、第5編成が登場しています。この編成は、リゾートシリーズにプラスアルファするという意味か、「アルファ・リゾート21」という愛称がつけられました。この編成の登場以後、「リゾート踊り子」としての東京駅乗り入れは、主にこの編成が務めるようになっています。
結局、「リゾート21」は5編成まで増えましたが、同系の増備はこれで打ち止めとなりました。

その後の伊豆急は、バブルの崩壊と美白ブーム到来による海水浴客の激減というダブルパンチにより乗客が激減し、収益が悪化してしまいました。乗客の激減により、ご自慢の「ロイヤルボックス」にも閑古鳥が鳴く状態が出来しました。また、「リゾート21」は1編成7連と、地方路線としては大編成であり、このような大編成は観光シーズン以外では輸送力が過剰である問題も指摘されるようになりました。
そのため、伊豆急は平成15(2003)年3月限りで、特急運用以外での「ロイヤルボックス」使用を停止し、編成から外されています。「アルファ・リゾート21」の最終編成にしても、普通列車として使用する際には「ロイヤルボックス」を連結しないようになりました。
そして、伊豆急が「リゾート21」の大編成を持て余すようになったことと、初期の2編成が100系の機器を再利用していたことから機器の老朽化の問題が無視できなくなったことにより、遂に平成18(2006)年に第1編成が退役、その3年後に第2編成が退役しています。第1編成の退役は、登場後僅か20年ちょっとでのことでしたが、海辺を走ることによる塩害の問題が顕著で、車体の老朽化も進んでいたことが、早すぎる退役の要因でもありました。
「リゾート21」の一部編成が退役したのは、元東急の8000系を導入したことによるものですが、実は8000系が思いのほか観光客に不評だったことも影響したのか、廃車予定だった第3編成の廃車計画が撤回され、現在まで現役で活躍しています。

実は「リゾート21」が観光客から絶大な支持を受ける一方、沿線の日常利用者によるこの車両の評価は、必ずしも芳しいものではありませんでした。特に通学の高校生などからは、「落ち着かない」として不評だったそうです。その一方で、8000系は沿線の日常利用者には評判がいいらしいのですね。しかしこちらは、元東急の車両ということもあって、観光客はこの車両を見ると「何で伊豆まで来て東京の電車なんだよ…」と落胆するのだとか。
こういう話を聞くと、日常利用者と観光客との相克は実に深刻な問題であり、かつ両者を止揚するのがいかに難しいことかと思います。

現在「リゾート21」は3編成が在籍し、「日本一豪華な普通列車」として、熱海-伊東-伊豆急下田間を日夜走っています。最新の第5編成「アルファ・リゾート21」でも車齢は20年を超えますが、これからもしばらくの間、伊豆急のフラッグシップとして君臨するのでしょう。

次回は、同じ観光用に特化した車両として、第三セクターが投入した特急形気動車を取り上げます。