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写真は、昨年8月に品川駅で捉えたN700系試作車です。

このときは、小田原での仕事を終えて帰ったとき、22番線ホームの発車案内板に「試運転」という怪しさ満点の表示が出たことから待ちかまえていたところ、首尾よくN700系の姿をゲットできたのです。


その後、量産車も現れ、いよいよ今年7月から「のぞみ」でデビューします。さしあたっては東京(品川)-博多間直通の「のぞみ」3往復に投入されます。


N700系は、以下のような特徴があります。

1 最高速度は、東海道区間270km/h、山陽区間300km/h。

2 車体傾斜装置を装備。これによって東海道区間のカーブで減速する必要をなくし、東京-新大阪間の所要時間を5分短縮。

3 座席にコンセントを装備(普通車は車端部と窓側の席、グリーン車は全席)。

4 東海道・山陽新幹線で初めて客室を全面禁煙化(喫煙ルームを設置)。

5 デッキに防犯カメラを装備。


一言でいって、「よりビジネス仕様に特化した」という感じです。

以前の記事でも触れていますが、東海道新幹線は東京-大阪間の膨大な輸送需要に応える必要がありますが、その需要の多くはビジネスでの移動です。ライバルの輸送機関としては航空機がありますが、航空機内では携帯電話やパソコンが使えません。そこで、これらが使えることを新幹線のアドバンテージとして売り込もうと、N700系はパソコン用のコンセントを大幅に増設しています。現在では、新幹線車内で無線LANが使用できるように地上設備を整備しているようです。

私自身も、月に何回か関西方面に出かけますので(決してなだ万の黒糖プリンを食べるためではない)、仕事での移動が快適になるのはとても嬉しいことです。


しかし、仕事を離れてみると、本当にこれでいいのかな…と思わずにはいられません。


確かに、東海道新幹線の上客はビジネスマンですから、彼らの欲求を最大限に満たすような施策を採ることは、営利企業として余りにも当然のことです。

しかし、現在でさえ「ビジネスマンにあらずんば客に非ず」という風潮が見えるのに、さらにそのような風潮が助長されるようで、私としては疑問も感じます。だって、新幹線の乗客はビジネスマンばかりではないでしょう。東京・横浜から京都や神戸に向かう観光客、関西から横浜・東京や浦安の某テーマパークに向かう観光客だっています。そのような客が肩身の狭い思いをさせられるのはどうなのでしょう。これは特に平日朝の下り列車で顕著なのですが、車内にはえもいわれぬ緊張感が漂い、会話をするのも憚られるそうです。

これと関連しますが、東海道新幹線に家族連れの姿を見かけなくなったのは、果たして少子化のせいだけでしょうか。上記のような緊張感漂う車内であれば、子供連れでの乗車を諦めることだってないとはいえないでしょう。事実、東京-大阪間では航空機のシェアがじわじわと増えているそうですが、これは、新幹線車内の重苦しい雰囲気を嫌った観光客や家族連れが流れたためともいわれています。管理人も3月末、東京-大阪間を航空機で往復しましたが、往復ともビジネスマンらしき人はあまり見かけず、観光客や家族連れが多かったように思います。

私が何故、子供の乗客が少ないことを問題視するかといえば、「人間は、よほどの強い動機付けがない限り、自己の経験したことがない行動をしようと思わない」ということなんですよ。つまり、ある子供が新幹線に乗ったことがないまま大人になっていくとすれば、新幹線の利用という子供時代の原体験がないために、いざ自分が旅行に出る際、新幹線がファーストチョイスにならないということです。これは、将来の利用層の拡大という点では禍根を残す営業戦略ではないでしょうか。


食堂車や個室の廃止によって、新幹線から「旅を楽しむ」要素が失われてしまったように思います。そして、このN700系の就役によって、500系の東海道区間からの撤退がアナウンスされていますが、500系は「かっこよさ」という点で、「夢を与える」車両です。

「旅を楽しむ」要素がなくなった上、さらに「夢を与える」要素までなくなってしまったら、新幹線はただの「人を運ぶ機械」に成り下がってしまうような気がします。愛好家としては、余りにも残念です。


それでも私は、N700系は優れた車両だと思います。「ビジネスマン偏重」はJR東海の営業戦略ですから、そこのところが僅かでも修正されれば、N700系は広く人気を博すようになることは間違いありません。

辛口になってしまいましたが、期待しているんですよ(^^)


5/31 一部加筆