10月下旬特選映画【25】★映画のMIKATA「永い言い訳」★映画をMITAKA | 流石埜魚水の【特選映画】、★映画のMIKATA★映画をMITAKA・・・

流石埜魚水の【特選映画】、★映画のMIKATA★映画をMITAKA・・・

都市生活者の心と言葉を掌にのせた小説、電脳化社会の記号とイルージョンを巡る映画、都市の孕むシンボルと深層を探るエッセイ、街の風景と季節の色を彩る短歌…。小説と映像とエッセイと短歌をブログに・・・掲載します。




10月下旬の特選映画をアップロードします。今回5本を映画館で観賞、今月10月は通算で、『真田十勇士』、『好きにならずにいられない 、★『ハドソン川の奇跡』、『リトル・ボーイ 小さなボクと戦争』、『ジェイソン・ボーン』、★『グッドモーニングショー』、『SCOOP!』、『淵に立つ』、『はじまりはヒップホップ 』、『ロング・トレイル!』、『人間の値打ち』、『ミモザの島に消えた母』、★『永い言い訳』・・・13本を観賞しました。私はつまらないと思う映画を決してオベンチャラで「面白かった」とは褒めません。また、観なかった映画をストーリだけを恰も観たかのようには決して書きません…。その中で私が選んだ特選映画1本は、西川美和監督の『永い言い訳』でした。高齢者がラスベガスで開かれる世界のヒップホップダンス選手権に挑戦するという、いかにも高齢化社会の中で「生き甲斐とは何か?」という現代的なテーマを提示した『はじまりはヒップホップ 』も捨てがたい魅力がありました。でも、最近手を抜いた下らない映画が多い日本映画の中で、『永い言い訳』は、しばし私を考えさせる秀作でした。トラック運転手の大宮陽一役の竹原ピストルは、絶妙な抜擢ですが、一言、蛇足のコメントを加えるならば、主演の小説家・津村啓役は、本木雅弘でない方がよかったです・・・ネネ!!!


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ニュージーランドのワイヘキ島に在住する平均年齢83歳、最高年齢94歳のダンスグループの≪ヒップ・オペレーション・クルー≫が、アメリカ・ラスベガスで行われるヒップホップダンス世界選手権に出場する荒唐無稽なドキュメンタリー風ダンス映画です。1本目は、衰えた手と足と腰の筋肉をまるで太極拳のように動かし、静かにビートするリズムに乗って心を震わせる、ヒップホップダンスを楽しむ老人たちのチームと、激しいリズムと音楽に体をビートする若者たちのヒップホップダンスチームとのコミュニケーションする姿を生き生きと描く痛快無比なダンス映画『はじまりはヒップホップ 』(2014年、ブリン・エヴァンズ監督)でした。


 ヒップホップ (hip hop)とは。「hip」はスラングでかっこいいの意味、「hop」はぴょんびょんと跳ぶという意味で、1970年代のアメリカ・ニューヨークのブロンクス区で、アフロ・アメリカンやカリビアン・アメリカン、ヒスパニック系の住民のコミュニティで行われていた野外のお祭りで、音楽やダンスのみならず、ファッションやアートを含めた「黒人の弾ける文化」という意味を込めてヒップホップと呼んだそうです。


今にも心筋梗塞で倒れそうな高齢者、ちょっと無理をしてコケレバ骨折しそうな老体を、しかも、94歳の元スターダンサー、杖がなければ歩けない元軍人、太平洋での核実験に反対した元平和活動家等々、老人老女たちのプロフィールは、豊かな経験と、新しいことにチャレンジする若々しい精神の持ち主ばかりです…。観ている私たちも心が踊り、老いてもなお輝いて生きるヒントをこの映画から頂いたように思いますーね。スコブル楽しい映画でした。


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アメリカには豊かな自然の景観を楽しめる自然をつなげた代表的な自然遊歩道「ロングトレイル」が3コースあります。一つは、東海岸をジョージア州からメイ-ン州まで14の州を2,160マイル続く「アパラチアン・トレイル」(AT)。一つは、西海岸の3つの州、カリフォルニア、オレゴン、ワシントンをメキシコからカナダまでつながる2,650マイル続く「パシフィック・クレスト・トレイル」 (PCT)。一つは、ロッキー山脈を南北に走り、大陸をまっぷたつに割る全長3,100マイルにもおよぶメキシコからカナダへ続く「コンティネンタル・ディバイド・トレイル」 (CDT)があります。


2本目の『ロング・トレイル!』(2015年、ケン・クワピス監督)は、作家のビル(ロバート・レッドフォード)と、酒好きで型破りな旧友カッツ(ニック・ノルティ)を旅の相棒に、老人二人が「アパラチアン・トレイル」の踏破する険しい自然を歩く冒険映画とも言って良い作品です。実際に、紀行作家ビル・ブライソンの実話を基にした著書が原作のようです。


ロングトレイルがテーマの映画は、この映画ブログでも紹介した『わたしに会うまでの1600キロ』(2014年、ジャン=マルク・ヴァレ監督 )という作品がありました。メキシコ国境からカナダ国境まで、アメリカ西海岸を縦断する「パシフィック・クレスト・トレイル」を3カ月間かけて総距離1600kmをたった一人で歩いた女性シェリル・ストレイドが主人公でした。この映画『ロング・トレイル!』を駄作とは言わないが、私はどちらかというと、こちらの作品『わたしに会うまでの1600キロ』の方が面白かったです・・・ネ。


日本にもこんな自然遊歩道「ロングトレイ」コースがあるのでしょうかーね。日本ロングトレイル協会(http://longtrail.jp/ )があって、40年以上前に厚生省の提言によって、長距離自然歩道の整備が全国に、東海自然歩道、近畿自然歩道、九州自然歩道、中国自然歩道等々のコースが作られたようです。


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3本目は、クリスマスイヴ前夜、イタリア・ミラノ郊外で起こったひき逃げ事故、ホテルでクリスマスパーティーの後始末をして自転車で帰る従業員を跳ね飛ばして、救護活動もせずにひき逃げして死亡させる交通事故をきっかけに、経済格差のある3つの家族と家庭に隠されたトラブルと秘密があばかれてゆくイタリア映画『人間の値打ち』 (2013年、パオロ・ヴィルズィ監督&脚本)でした。


不動産店経営のディーノ(ファブリッツィオ・ベンティヴォリオ)の娘・セ

レーナ(マティルデ・ジョリ)と、投資ファンド会社でして成功している父親で、富豪のジョヴァンニ(ファブリツィオ・ジフーニ)の息子・青年マッシミリアーノとは交際していた。二人は、金持ちの子女が集まる高校に通う同級生で、元々は愛し合っているボーイフレンドの間柄でした。卒業祝いのパーティーで、ある夜マッシは酩酊し意識がもうろうとした状態なので、セレーナを携帯で呼び出し、邸宅までの送迎を依頼する。セレーナは仕方なく、マッシの酔いつぶれる会場まで自分の赤い自動車で迎えに行く。マッシを乗せて、狭い深夜の道を送っていく。その途中で交通事故が起こる…。マッシのいつも乗り回す愛車は、ジョヴァンニの妻カルラの名義で、車には事故の傷ついた痕跡があった。警察は、事故車をこの車と特定してひき逃げ犯を捜査する…。街の名士なのでマスコミは騒ぐ、世間の注目を浴びる。でも実際は、青年マッシの愛車を運転していたのは、その夜にセレーナと愛し合っていた不思議な絵を描く逮捕歴のある彼女の恋人であった。更に、一攫千金を目論んだセレーナの父親・ディーノは、欲を張りよりによって銀行から70万ユーロもの大金を借り、ジョヴァンニのファンドに投資する。


ジョヴァンニとディーノ、・セレーナとマッシミリアーノ、それにもう一組、ジョヴァンニの妻・カルラと、老朽化の街の劇場を再建の出資を夫に頼み、劇作家や評論家を集めて運営委員会を立ち上げるカルラが、その一人の劇作家と不倫する。 原作はスティーヴン・アミドン「Human Capital」。イタリアのアカデミー賞といわれるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞の7部門で受賞したパオロ・ヴィルズィ監督の、ややサスペンス風の作品です。「人間の値段」という題名に初め、私は哲学的な内容を想像していたが、ストーリは事故死した中年に与えられた保険金の「お金」の額のことを意味していた。一人の人間の命の値段は、保険金であるーということです。でも、何故ここまでの人気を博し評価をイタリアで得たのか?そこには、リーマン・ショック以降、イタリアでも経済が落ち込み、銀行の不良債権と国の借金によって、国内全体の経済も雇用状況も冷え込んでいたという社会背景があったからです。投資ファンドを経営するジョヴァンニの会社が破産のもこれが原因です…。


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4本目は、30年前にフランス大西洋にある島「ノアールムーティエ島」の、冬にミモザが咲くことから別名「ミモザの島」の海上の道「パサージュ・デュ・ゴワ」の満ち潮に、自動車の中で溺死した母親の事件の謎を、幼いころに経験して40歳になっても引きずっていた息子のアントワン(ロラン・ラフィット)の記憶は、当時の状況と事情を口を頑なに閉ざしたまま、父も祖母も誰も明かそうとはしない母の死の真実と謎を執拗に調べるフランス映画『ミモザの島に消えた母』(2015年、フランソワ・ファヴラ監督&脚本)でした。いやや、いかにもフランス映画の雰囲気ですよ・・・。


今、DVD特選映画で«ナチズムとホロコースト»でとりあげる『サラの鍵』の原作者タチアナ・ド・ロネの著書を基に、フランソワ・ファヴラ監督が映画化した。ヒューマンサスペンス風で探偵小説のような作品ですが、「フランス映画祭2016」にも上映された「愛」を追求したイイ雰囲気の映画です。特に登場する女性俳優たちが美しいです。謎を明かしてしまえば、30年前の母のもう一つの顔は、若いころに絵を習っていた美しい女性画家の同性の恋人と駆け落ちしようと追いかける悲しい禁断の愛の秘密があった。それを一緒に暮らしていた祖母は無理矢理に離別させたのであつた…。


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妻をバス転落事故で突然亡くした小説家・津村啓、本名衣笠幸夫(本木雅弘)は、妻・夏子(深津絵里)が他界したものの、少しも泣けない。同じバス事故で命を落とした妻の親しかった遺族家族と、トラック運転手の夫・大宮陽一(竹原ピストル)と会い、以来、大宮の団地に通い、覚めた愛情しか残ってなかった罪滅ぼしのために、幼い子供たちの世話をすることになる。5本目は、喪の途上にある作家の懺悔の時間を描いた『永い言い訳』(2016年、西川美和監督)でした。


『蛇イチゴ』『ゆれる』『ディア・ドクター』『夢売るふたり』…第5作目となる「永い言い訳」ですが、笑福亭鶴瓶が無医村に赴任した医師を演じた「ディア・ドクター」(2009年)、松たか子と阿部サダヲが結婚詐欺に手を染める「夢売るふたり」(2012年)は、未だに私の記憶には、これは傑作だな…と想う作品でした。


私はしばらく考えたのですが、何か一貫した監督のテーマがここにあるのかな??? 「医師」免許はないが、山奥の無医村の村人から親しまれた伊野治(笑福亭鶴瓶の魅力で)を通して、医師とは何かを描いたこの作品は確かに面白かったな…、小料理屋を営む夫婦が火事で全てを失ったことから始めた結婚詐欺で、詐欺に引っ掛かり、お金を騙された女たちを通して、複雑怪奇な男と女の関係を描き出したこの作品も確かに面白かったな…。また、敢えて仮面夫婦の「愛」を偽装した幸夫の結婚生活や、亡き妻への喪失感を引きずるトラックドライバーの大宮の家族と子供たちをとことん描き、「家族」について考えさせる不思議で味のある作品だよな…。そこにあるのは、大きな災害で突然家族を失った人の悲しみの「喪失感」はどのようにして癒されるのか・・・カナ??? 阪神淡路大震災、東北大震災、熊本地震、鳥取など、大きな自然災害が昨今続いてますが、観光バスで高速道路の崖へ転落したという事故も近頃目立って連続してましたーね。いわば現代ならではの交通事故ではないのかな、と思いました。敢えて共通のテーマは、人間の中で個人を支えている不動で堅固な価値観の突然の消滅、夫婦の絆と信頼、医師と患者の依存と信頼などが突然に崩壊する時、喪失を癒やすものは「何か?」…が一貫してるテーマなのかな・・・???丁度、私の本棚の見えるところに心理学者の野田正彰氏の『喪の途上にて/大事故遺族の悲哀の研究という昔読んだ本がありましたー。もう一度読みたい題名の本ですーね。


原作、脚本、監督まで自分がすべて手掛けている西川美和監督なので、流石に無駄なシーンがなくて、どのシーンも計算された文脈の中で映像を作っているなーという感想を持ちました。がけれども、妻が亡くなった後、髪ボウボウの長髪を、葬儀の時に幸夫の不倫と情のなさ、愛情のなさを攻めた妻の美容院の女性の店?に、伸びた髪をカットしてもらうシーンは、何の意味があるのかな?と胡乱に思いました。私はてっきり新しい愛人かなーと想っていたのですがーネ。


もう一つ。トラック運転手の大宮陽一役の竹原ピストルは、絶妙な配役の抜擢ですが、一言だけおまけのコメントを加えるならば、主演の小説家・津村啓役は、本木雅弘でない方がよかったです・・・!!!彼は独特の「好青年」のイメージが固定している。剽軽で誠実で知的な俳優は、もっとぴったりの男優がいるよーね。


蛇足をもう一つ。初めに「永い言い訳」の結末は何かなーと期待していたのだけれども、まさかそれが小説家・津村啓がスランプの末の書いた新しい小説の、今の自分が遭遇した苦難を乗り越えた小説の題名だとは想像しませんでした…。私はてっきり、愛情のない結婚と不倫していた時の亡くなった妻への罪悪感から逃れるために、バス事故にあった遺族の家庭を援助している一連の事なのかな、と思っていました。それが小説の新刊本の題名かよ…と、ツマンネエ、些か興ざめでした…!!!どうせならば、「言い訳」の序に、筆を折って外国へ失踪して、アジアの仏教国で貧しいて托鉢僧でもなっていろよ…ナ。


もう一つおまけのおまけで、あの科学教室の女性は何の目的で登場したのかな?唯一、あれは無駄な配役とシーンでした。


尚、 誤字脱字その他のために、アップした後で文章の校正をする時があります。予告なしに突然補筆訂正することがありますが、ご容赦ください…