DVD特選映画◆【障害者と映画】【1】ブックレビュー「セックスボランティア」◆ | 流石埜魚水の【特選映画】、★映画のMIKATA★映画をMITAKA・・・

流石埜魚水の【特選映画】、★映画のMIKATA★映画をMITAKA・・・

都市生活者の心と言葉を掌にのせた小説、電脳化社会の記号とイルージョンを巡る映画、都市の孕むシンボルと深層を探るエッセイ、街の風景と季節の色を彩る短歌…。小説と映像とエッセイと短歌をブログに・・・掲載します。




いよいよ「障害者と映画」もブックレビューに辿りつきました。これまでコメントしながら取り上げた映画は、34本でした。新しい作品順に列挙するとー、邦画が11本、外国映画が23本でした。


「キャタピラー」 (2010年、若松孝二監督)
②「アメリカン・スナイパー」(2014年、クリント・イーストウッド監督) 。
「はなれ瞽女おりん」(1977年、篠田正浩監督 )
④「ギルバート・グレイプ」 (1993年、ラッセ・ハルストレム監督)

「あの夏、一番静かな海。」 (1991年、北野武監督)
「だいじょうぶ3組」(2012年、廣木隆一監督)
➆「恋する宇宙」 (2009年マックス・メイヤー監督)
⑧「モーツァルトとクジラ」 (2004年ペッター・ネス監督)
⑨「アンナとロッテ」 (2002年ベン・ソムボハールト監督)
「名もなく貧しく美しく」 (1961年松山善三監督&脚本)
⑪「I am Sam アイ・アム・サム」 (2001年ジェシー・ネルソン監督)
⑫『フォレスト・ガンプ/一期一会』 (1994年ロバート・ゼメキス 監督)
⑬『オアシス』 (2002年イ・チャンドン監督)
⑭『八日目』 (1996年ジャコ・ヴァン・ドルマル監督)でした。
⑮『ジョニーは戦場へ行った』 (1971年ダルトン・トランボ監督)
「AIKI 」(2002年天願大介監督)
⑰「ブラインドサイト ~小さな登山者たち~
「学校II」 (1996年山田洋次監督)
⑲「シンプル・シモン」 (2010年アンドレアス・エーマン監督)。
⑳「グレート デイズ! -夢に挑んだ父と子-」 (2013年ニルス・タヴェルニエ監督)。
㉑「我等の生涯の最良の年」 (1946年ウィリアム・ワイラー監督)
㉒「マラソン」 (2005年チョン・ユンチョル監督)。
「ジョゼと虎と魚たち」 (2003年犬童一心監督)
「くちづけ」 (2013年堤幸彦監督)

㉕「ウィニング・パス」 (2003年公開。中田新一監督)
㉖「エレファント・マン」(1980年公開。デヴィッド・リンチ監督)。
㉗「マイ・フレンド・メモリー」(1998年公開。ピーター・チェルソム監督)
㉘「トガニ 幼き瞳の告発」(2011年公開。ファン・ドンヒョク監督)
「おそいひと」(2004年。柴田剛監督)
㉚「奇跡のひと マリートとマルグリット」(2014年。ジャン=ピエール・

アメリス監督)

『暗闇から手をのばせ』 (2013年公開。戸田幸宏 監督)
㉜『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』 (1992年公開。マーティン・ブレスト監督)
㉝『海を飛ぶ夢』 (2004年。アレハンドロ・アメナーバル監督)
㉞『パンク・シンドローム』 (2012年。ユッカ・カルッカイネンJ=P・パッシ監督)

その他に、この映画ブログでコメントした映画が10本有りました(順不同)。忘れて漏れている作品がもっとあるかもしれませんかーね。

『ツリーの国』

㊱『エール

『抱きしめたい -真実の物語-』

㊳『最強の二人

㊴『チョコレートドーナッツ』

㊵『博士と彼女のセオリー

㊶『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い

『マンゴーと赤い車椅子』

㊸『マルガリータで乾杯を

『さようならCP』


さてこれらの映画群をどのように分類しようか、思案しています。形式的に分類すれば、以下ようになるかーな。


●身体障害(視覚障害・聴覚障害・運動障害、内部障害etc)・・・肢体不自由、脳性麻痺、視覚障害、聴覚障害などの身体障害があてはまります。昔の日本では「かたわ」とか「不具者」として差別されてきた過去があります。

●精神障害・・・精神疾患の中には、統合失調症、うつ病、パニック障害などが含まれる。人間だれしも生きて生活する中で多かれ少なかれ会社の人間関係や世間の荒波に揺さぶられノイローゼ状態や鬱になります。精神疾患の罹患者は大人の10人に1人は精神疾患を経験するといわれています。また、精神の障害は、髄膜炎、内分泌疾患などの身体の疾患によって引き起こされる場合もあります。

●発達障害・・・発達障害は、発育期に発見され、一生にわたるハンディーにもなります。ダウン症、脳性麻痺(CP) 、知的障害、自閉症やアスペルガ症候群etcが含まれます。


「障害者の映画」のテーマでコメントを続ける過程で、寧ろ障害者を主人公に、障害者が抱える問題、障害者を取り巻く環境と社会が映画のテーマになっている・・・のではないかと思いました。

今回のブックレビュー第一弾は、映画『暗闇から手をのばせ』 (2013年公開。戸田幸宏 監督)と、この作品に関連した河合香織の著書「セックスボランティア」(2004年刊行、新潮社)に言及したいと思います。だから内容的には、障害者を主人公にして、障害者が抱える「性」の問題をルポしたブックレビューです。





戸田幸宏 監督の映画『暗闇から手をのばせ』 に登場する障害者は、一人は全身にタトゥーを入れたややヤクザぽい進行性筋ジストロフィー患者、二人目はオートバイ事故で家に閉じ籠る身体麻痺の青年はベッドの上で寝たきりの脊椎損傷者、三人目は障害者を口実に本番の挿入まで要求する先天性多発性関節拘縮症の車いすの常連客などです。彼等を相手に、在宅身体障害者向けの風俗店ハニーリップの派遣型風俗嬢として働くヒロイン・沙織が主役の映画でした。過剰で濃厚な性描写が逸脱するとポルノ映画になりかねませんが、ストーリの原作と脚本については何も書かれていないが、この本が原作ではないかと思わせる程、障碍者の性をリアルに描いています。私はもっとシリアルな障碍者の「性」を考える格好の映画ではないかと思います。



この本の全編に流れる障害者の本音は、・・・「障害者といえども性欲はあります」・・・という声です。障害者の映画を考えるとき、障害者の「何を?」テーマに据えるのかがハッキリとしないと、ドキュメンタリ―とドラマの違いはあるにしても、原一男監督の『さようならCP』(2015年公開)や、柴田剛監督の「おそいひと」(2004年)のようにただ障害者のリアルで凄惨な映像を鑑賞者に与えるだけになってしまう気がします。私は、この「障害者の性」の視点は避けては通れないでしょうーね。さらに、この問題を考えるには、「セックスボランティア」という本は絶好です。



寧ろこの『セックスボランティア』は、障害者の性を提供するボランティアを主役にルポを書いています。けれども、「性」のボランティア主体は、男にしても女にしても、相手の障害者の「男女」の性欲を抜きにしては語れません…。


この本の中の障害者の真紀さんは、鎖骨から下が麻痺して下半身も感覚がないので、勿論、性的快楽もオルガスムスも感じないです、がしかし、(p113)…性欲や抱かれたいという気持ちはある。イケなくても、男性のぬくもりが必要なんです。自分の中で無になれる時間が私には必要。それはセックスであったり、一人で飲むことであったり。精神をコントロールするためにセックスは欠かせませんという。



河合香織さんの「セックスボランティア」にはあるが、映画『暗闇から手をのばせ』 にも、また今まで私が見た映画群にもなかったのは、<知的障碍者>の「性」の問題だろうーかな。知的障碍者のカップルを対象にして性教育「セクシュアリ講座」を持っている立教大学コミニティ福祉学部の河東田博教授は、(p142)…こどもを作ることはおろか、セックスも禁止しているという現状が施設の中ではまだある…日本の多くの人たちが、知的障碍者や知的障碍者の性や結婚に対して、否定的なイメージを持っている…彼らを幼児視し、過小評価し、彼らは体が成熟しても性的には成熟しない、性の知識を与えると性の加害者になるのではないか、子供を育てる能力がない、といった間違った考えや偏見を持っているという。更に酷い先入観の結果は、施設では優性保護法の範囲で認められている卵管や精管の結縛と切断を逸脱越境して、介護軽減のために女性障害者に対して子宮摘出手術さえ行われているようです。


私には、「障害者と映画」のテーマを突き詰めると、そこに価値ある「命」と殺してもいい「見殺しの命」との命の選別の思想、アウシュビッツに続くナチズムの「優性保護」の思想が伏在している気がします。いずこのブックレビューでも、20万人以上の障害者がユダヤ人殺戮以前にガス室で殺されたナチズムの

「T4」作戦に関連した映画「アンナとロッテ」でとりあげたいと思っています。この作品以外に何か障害者の虐殺を扱った作品がありましたら、誰か教えてください…???


この本の優れている点は、性のボランティア先進国のオランダのアムステルダムの障害施設や、そこで、性欲を処理するために障碍者にセックスや添い寝の相手を有料で提供する団体「SAR」や組織「NVSH」の女性たちを取材していることです。オランダでは、売春が法律で認められているので売春宿「飾り窓」があり、同性愛の結婚も合法である。そうしたセックス事情もあるが、自治体がこうした団体や組織に対して、障害者のために市役所がセックス助成金を出していることは驚くことです。これは『初耳学』の問題になるかーな。


「SAR」の理念は、「私たちは石ではない。どんな重い障害者でも性的欲求がある」ー、だから(p166)…看護婦、介護士が無料で障害者の性介助を行えるような制度を作るべきです。通常の医療制度の中にセックスの介助も組み入れる…べきである。この理念は、オランダばかりでなく、日本でも共有したいイデアですーね!!!


先日公開されて、この映画ブログでもコメントを載せたインド映画『マルガリータで乾杯を!』(ショナリ・ボーズ監督)は、完全にこの障碍者への性的偏見を

超越した作品でした。この辺りの視点はインド映画の先進的な所ですーね。皆さんもう見ましたか?関心がありましたら是非、感想をお寄せください。