「MORNING GIRL」 鯨統一郎 | 流石奇屋~書評の間

「MORNING GIRL」 鯨統一郎


鯨 統一郎
Morning girl

05年7月刊行。この書評の間では大変珍しい新刊本です。(とはいえ3ヶ月前ですが・・・)
ミステリアス学園 」だとか「九つの殺人メルヘン 」の鯨氏なのですが、前述した2作とは雰囲気が違う作品です。
この小説自体の趣向は個人的にお気に入りです。シチュエーションもそこそこOK。
で、ミステリのテーマが「何故、人は眠るのか」という壮大なもので、これはこれで個人的には好きなのです。


人類の睡眠時間は日ごとに減っていった。地球では放射能汚染が広まり、オゾンホールからは紫外線が容赦なく降り注ぐ。スペースアイランド“飛翔”でも、睡眠時間減少は変わらなかった。そこで科学者たちが集まってその謎を解こうとするのだが…。すべての鍵は「眠り」にあった。

前述した個人的にお気に入りの趣向とは、架空の作家(アーサー・J・クック三世)の作品を、たまたま手にした鯨氏が、日本で出版したいと思い立ち、この無名作家の翻訳をして発表したという点
ちゃんと訳者前書きがあったり、それなりに表紙があって物語が始まります。
たまに見る趣向ではありますが、こういったこだわりって意外につぼなんですよね。

で、さらなるこだわりは、文体そのものにも現れていて、舞台の台本のように会話部分にちゃんと登場人物が書かれている点
ですので、本を何気なく開くと、何かの脚本と勘違いしちゃいます。
その架空作家であるアーサー・J・クック三世氏曰く「未来に書かれた作品の現代語訳」となっておりますが、この文体はなかなか面白かったです。
意外にすらすらと読めますね。

さて、そんなこんなで物語そのものですが、概略にもあるとおり宇宙空間で生活をするようになっている未来の話であり、原因が見つからないまま、人の睡眠が徐々に短くなっていく(でも体調は普通)というシチュエーションです。
この原因を究明し、解決しようとプロジェクトチームが発足されますが、そのリーダーはあることをきっかけにリーダーの職を解任され、独自のチームを結成し、原因をあれやこれやと検討していきますが、この検討過程において、眠るという行為そのものの正体や眠る間に見る夢の正体などの仮説があるときは科学的にあるときは精神論として、繰り広げられます。
ごくごく当たり前のように「眠る」我々にとって、この謎は、もしかしたら最も身近にある、最も大いなる謎なのかもしれません。
そういった謎を解いていくという大胆な話なわけです。

で、ラストにはこの物語としてのきっちりとした結論を出しているところに好感が持てました。
だいたいにして裏切られがちなこの手の謎ですが、この小説内では、本当にきっちり解決しています。内容そのものは(そうきたか~)って感じではありますが、曖昧になるよりはよっぽどよいですね。

ちなみに冒頭の架空作家の翻訳というシチュエーションを裏付けるのは、巻末の参考文献欄です。
見落としがちですが、ちゃんと英語(というかローマ字)を読み取れば、それが日本の文献であることは知り、
”にやり”としてしまいました