
この映画の監督、アランパーカー。
僕は、一時期、このひとにどっぷりとはまった。
ライフ・オブ・デビッド・ゲイル(2003)
アンジェラの灰(1999)
エビータ(1996)
ケロッグ博士(1994)
ザ・コミットメンツ(1991)
愛と哀しみの旅路(1990)
ミシシッピー・バーニング(1988)
エンゼル・ハート(1987)
バーディ(1984)
シュート・ザ・ムーン(1982)
ピンク・フロイド ザ・ウォール(1982)
フェーム(1980)
ミッドナイト・エクスプレス(1978)
ダウンタウン物語(1976)
どれもこれも個性的な作品ばかりだ。
特に、
僕が夢中になっていた時期は、
「ザ・ウォール」から「愛と悲しみの旅路」辺りだ。
アメリカでは、評価も高く、ヒット作も多い彼も、
日本では意外にヒットしない。
「フェーム」ぐらいか・・。
とにかく映像と音楽のセンスが
抜群である。
一部のマニアに熱狂的に迎えられ
上映運動まで起こった
「ピンク・フロイド ザ・ウォール」のような
実験的な映画から
「ミシシッピーバーニング」のような
アカデミー賞の候補になるような人間ドラマまで
見事に幅広い
そんな彼の作品群のなかで
なにが一番好きかと言えば
この「バーディ」です。
上のポスターが強烈な印象を残すこの作品。
地味で観ているひとが少ない映画だけど
意外にファンは、多い。
確かにヒットはしなかったが、観た人のこころには 完全に残る作品だ。
よくこの映画を紹介する時に
ベトナム後遺症か、
戦争の恐ろしさ、残忍さ・・とかいう言葉が使われる。
確かに
主人公である彼らの運命はベトナム戦争を機に
大きく変わってしまう。
ただ
この映画に大きく引きつけられる理由は、
この映画が全編、
人間の強烈な感情で貫かれている・・という点じゃないだろうか


アランパーカーというひとは、
感情のひとであります。
彼の作品は
常に真ん中に、
感情という一本の芯が貫かれている。
この映画は
その感情が最もシンプルな形で表現された作品です。
主要な場人物は、ふたり。
ニコラスケイジ演じるアルと
マシュー・モディン演じるバーディ。
物語は、
ベトナムで顔面を負傷して顔半分を包帯で覆われたアルと
精神病棟で体を鳥のようにかがめるバーディとの再会からはじまる。
アルは、
同じようにベトナムに従軍して
頭がへんになってしまった友だちのバーディと
話をしてなんとか正気に戻せと言われる。
アルは、
鳥のようにうずくまって口を利かないバーディに
ふたりの思い出話をはじめる。
典型的なアメリカンボーイのアルと
少し変ってる鳥好きの少年、バーディ。
最初、アルはバーディのことを少し気持ち悪いと思うが
次第にその人とは違う、奇抜な考え方と行動にひかれていく。
とにかくバーディは、鳥になりたかった。
とにかくバーディは、鳥と一体になりたかった。
だから人間に興味はなく、
だるい肉体を持った人間の女の子にも興味がなかった。
プロムナイトの後に、
女の子と車に乗るバーディが
大きな胸を露出した女の子を
まるで気持ち悪い肉の塊のように触るシーンは
その後の繊細な鳥との、
精神的、肉体的な交流と対比され、
強烈な印象を残す。
ここでバーディの気持ちは
完全に俗世から浮遊してしまう。
そんな彼を
アルは、
ついに完全に拒絶する。
当たり前の話だ。
それは常人が、
簡単に理解できる世界じゃない・・。
しかし
ベトナム戦争を経て
アルも常人ではなくなってしまう。
その顔の、そして心の傷によって
一般には受け入れられない人間となってしまった。
過去を振り返りながら
次第に
鳥になって精神病棟にうずくまるバーディを
理解していくアル。
「こんな世の中、なんの意味もない!!」
「俺もキチガイのふりをしてここにいるよ!! お前と一緒にここにいるよ!! 」
絶望の果てに
そう叫ぶアルに、
バーディがはじめて口を利いた・・。
この映画は
感情の映画です。
全編を通して
アルの悲しみと絶望
そして
バーディの純粋に
ひたむきに
鳥になりたかった気持ちが
描かれます。
この映画は
内に込もる感情を完全に、
肯定しているという点でも
アメリカ映画らしからぬアメリカ映画です。
引き籠って
他人を拒絶するという感情を
肯定している、ある意味、危ない映画です。
ただひとは若いころの一時期、
こういう感情に陥る時がある。
外のすべてがすべて醜く見えて、
自分の内なる感情に浸りきってしまう時期が
やがては社会に出なくてはならない僕たちは、
自分の世界だけに浸りきれる、その時期の感情が、
外の世界によって汚され、壊される。
それは
いまのこの時を生きる
僕たちにも通じる感情ではないだろうか・・。
実は、
僕は居合わせなかったが
この映画のラストに
劇場で拍手が起こったらしい。
このラストシーンは
なんとも言えずいい・・。
信じられないようなラストだが、
なんとも言えず好きだ。