藤丸の一喝は、大広間の一同を静まらせた。
城代家老・大杉に向かって、「この度は、兄上の時の様にはいかんぞ!」 と藤丸は語気を強めた。
大杉は、一瞬にして悟った。
『藤丸様は、7年前の真相を知っておられる。』
一瞬、心の臓に痛みが走った。
外見では普通を装っているが、心の中では動揺していると、大杉は思った。
そもそも遡る事、14年前。
娘が藩主の跡取りを二人生んだことが、ことの始まりであった。
妻・八重を始め周囲は大喜びしていたが、大杉だけは主家に対して罪悪感を持っていた。
同じ日に生まれた跡取りが2人いること、それはお家騒動の火種をまくことになるからだ。
生まれてすぐに、次男・藤丸様を家臣に養子として出したことで安堵したものの、その7年後には自分に敵対する家老・加藤一派によって藤丸様は再びお城に上げられ、藤千代様は加藤達の思うがままに操られてしまった。
結果、お家の一大事が起こり、藩主が毒殺されかけた。
嫡子・藤千代様を暗殺したのも、迷いに迷って決断したことであった。
2人の内、どちらかを消さなければ、再びお家騒動が起こる。
そう思っての、行動であった。
今でもあの決断には後悔は無いが、罪悪感は益々募る一方であった。
大罪を償うかのように、藩主の為、藩の為に、今まで勤めてきたのだ。
この事を皆が知れば、藩の一大事。
大杉は知らぬ振りをした。
「若様、何のことでございましょうか。今回の事は藤千代様の件とは別儀にございます。」
殆どの者達は、藤丸がどうして今回の事で、7年前に双子の兄・藤千代が急逝した話を持ち出したのが分からなかった。
藤丸は、大杉の態度に怒りが頂点に達しようとしていた。
傍で見ていた藩主は、どうしようかとオロオロし、控えの間にいる清吉の方を見た。
今行けば事が大きくなるが、藤丸と藩主の様子を見るに見かね、清吉が藤丸の側へ向かった。
大杉を含め、大広間の者達は呆気にとられた。
近習の格好をしているが、藤丸様の側にいる者が、昨夜まで探していた男であったからである。
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