家老・加藤が病で倒れた事を知り、驚く藩主であった。
藤丸は、これは天罰だと思った。
城代家老・大杉は、医師を加藤の屋敷へ使わし、病状を調べている所だと語った。
大杉は、加藤の事を哀れな奴と心の中で思っていた。
己の権力欲の為に、2度もお家騒動を起こした挙げ句に、息子を自害に追いやり、自分は突然の病に倒れたからだ。
いつか自分にも、亡き藤千代様から罰が下るだろうと覚悟は出来ているが、その時はまだ来ないと慢心していた。
この話を控えの間で聞いていた清吉は、一抹の不安を覚えた。
もしかすると、藤千代を暗殺した城代家老・大杉にも何か災いが起こるのではないかと。
そうなった場合は、大杉の妻・八重はどうなるのだろうか。
清吉は、藩の一大事なのだが、密かに思いを寄せている八重の身を案じてしまう。
その頃、八重は城の一室で、息子の近正達と共にいた。
加藤の話は、八重達の耳に入っていた。
加藤様が病で倒れたと言うことは、八重は夫の身も無事では無いかも知れないと思うと、心がかき乱される思いであった。
八重は、夫が7年前に藤丸の双子の兄・藤千代の暗殺を指示した事を知っているからだ。
いくら、ことを起こしたのが加藤であろうとも、暗殺した事実は消えない。
城代家老とはいえ、この責任を負うことは免れない。
その時は、自分も夫の後を追う覚悟である。
しかし、夫の身の事を心配する気持ちが心の隅に湧き出ることを抑える事は出来ずにいたので、
藤千代に対して深い罪悪感を抱いていた。
大広間では、藩主が大杉の配下の者達から昨夜の襲撃の詳細な報告を受けていた。
その時、大杉はただならぬ雰囲気を感じ取った。
それは、近習が控えている部屋から出ていた。