目次  (あらすじはこちら へ)

 

藤丸は、昨夜宿泊した寺で、大杉の下で働いていた者が自分の部屋を訪れ、7年前の騒動を語ったと言うのだ。

それによると、自分と父の藩主が病気になったこと、そして双子の兄・藤千代急死が実は暗殺されたのも、全て大杉の策略だと告白したと言う。

暗殺したのは、大杉が雇った忍びの者と言っていたと語った。

  

それなので、前にいる忍びの姿をした清吉なのではと、藤丸は疑っていた。

藤丸の言葉に、どう対処すれば良いのか分からない八重であった。

事実、藤千代を暗殺した首謀者は、夫の大杉であるのだから。

しかし、清吉は大杉とは何も関係ない。

仮に、あの現場に忍びの者がいたとしても別の者であると確信していた。

それだけは、藤丸様に申し上げねばと八重が口を開こうとした時、清吉が先に口を開き、きっぱりと否定した。

何が起こっているのか分からず、きょとんとしている藩士達であった。

 

とすると、突然明かりが灯った。

灯りの側には、見知らぬ浪人が平伏していた。

浪人は、自分は7年前の現場におり、清吉を指さしてあの者が藤千代を殺したと虚偽の告白をした。

7年前に居合わせた様に、詳細に語る浪人に藤丸の心は揺れていた。

畳み掛けるように、浪人は八重を大杉の密偵とまで言い、直ぐに側から離れるようにと言った。

清吉に凄い形相で睨み付けられて、少しひるんだ浪人であったが、立ち上がると清吉の脇を通り、藤丸の方へ歩いた。

藤丸も八重の側から離れて、浪人の方へ歩こうとした。

その瞬間に、外から藤丸を止める声がした。

皆が外へ目を向けると、そこには青木を捕まえた田島敬之助がいた。

                    

浪人が嘘を言っていると、田島は叫んだ。

藤千代を暗殺したのは、自分であると告白したのだ。

                     

はっと立ち止まる藤丸に、浪人は剣を抜こうとした。

それを清吉は、後ろから容赦なく斬り捨てた。

                  

浪人は、虚偽を使い、藤丸をおびき寄せて斬る算段であったのだ。

全て大杉に罪を被せて、虚言まで使い藤丸と八重の心を揺さぶりをかける加藤のやり方に、清吉は腑が煮えくりかえるお思いがした。

             

田島は、清吉にあの刀を藤丸様に見せて欲しいと言った。

清吉は頷くと、背負っていた刀をおろし、包んであった黒色の布をとった。

そこから見事な誂えの刀が出てきた。

                    

驚いて、藩士達はその見事な刀を見た。

藤丸は、驚嘆して声も出なかった。

それは、自分が生まれて直ぐに養子に出される折に、藩主から養父に下賜された刀であったのだ。