清吉が別邸に入ると、辺りは真っ暗であった。
先に別邸に押し入った浪人達が、灯かりを消ていた。
藩士達も、屋敷の構図を把握しているが、暗くなれば、動きが鈍くなる。
それを利用して、暗所でも活動出来る浪人達は、藩士を不利な立場に持っていき、戦いを有利にしようとしていた。
思惑通りに、藩士達は追い込まれていた。
数からして、藩士の方が多いはずだか、いくら剣術に秀でても、これが初めての実戦である。
百戦錬磨の浪人達に適わず、藩士達の半数は斬られてしまい、残りも傷だらけで、息も絶え絶えであった。
反対に、浪人の中には軽傷を負っている者がいるものの、息は乱れず、暗闇の別邸を自在に動き回っていた。
藤丸の異母弟・松千代の守役青木は、浪人達の足手まといにならぬ様に背後にいて、応援を呼ぼうと外に出ようとした傷だらけの藩士を斬り、事の次第を見守っていた。
いよいよ、藤丸様を暗殺し、松千代様の次期藩主が目前に来たと興奮していた。
別邸の奥にいた藤丸は、襲いかかる浪人と対決していた。
畳は藩士の血で染まり、襖や障子は戦いでぼろぼろに破れていた。
藤丸は剣の腕は確かで、浪人の一人を一刀で倒す程であった。
嫡男という立場が、藤丸を強くさせていた。
藤丸の傍には、八重がいて懐刀で浪人を寄せ付けないようにしていた。
浪人の頭が、2人の前にやって来た。
この男は、他の者と違うと、藤丸は瞬時に察した。
その時、清吉も奥の部屋に辿り付いた。