清吉は、こっそりと蔵を開けて、奥へ入った。
そこは、藤千代が八重の夢の中で現れた時に、案内した場所でもあった。
奥から、大事に保管されている見事に誂えた刀を発見した。
これは、藤千代と藤丸が誕生した時、双子の弟の藤丸を養子に出すことになり、藩主から養父へと渡されたものであった。
そして、養父が亡くなる時に、藤千代が突然の病で亡くなり、嫡子となった藤丸を守って欲しいと、城代家老・大杉へと渡された刀でもあった。
勿論、藩主と養父は大杉が7年前に藤千代を江戸で暗殺したことは知らない。
清吉は、この刀を八重にお願いして拝借したのであった。
想いを寄せている八重と、その孫の藤丸を守る為である。
大杉と加藤を切ることは簡単であるが、この藩は危うくなるし、何よりも八重が深く悲しみに暮れてしまう。
このお家騒動を、穏便に納めないといけない。
これは、険しい道であることは、清吉には重々承知であった。
それには、この刀が必要になるのだ。
清吉は刀を背中に背負い、人がいないのを見計らい蔵を出てから、屋敷を後にした。