蚕糸日記 -さんしにっき--養蚕秘録より

この絵は、『 養蚕秘録 ・中巻 』(1803) にでてくる「 桑をとる図 」です。
男は自分の背よりも高い桑に登って、女は手の届く高さの葉を摘んでいます。

このように、桑を高く仕立てるのを「 喬木(たかぎ) 」といいます。



$蚕糸日記 -さんしにっき--蚕飼絹篩大成より

さて、こちらは『 蚕飼絹篩大成 』(1814) の「 桑摘図 」です。
養蚕秘録から11年後の蚕書では、踏み台が出現しています。


現代の桑畑はすべて手の届く高さに樹形を整えますから、喬木仕立ては現代の管理方法とは、あまりにも違うものです。
こんな桑の取り方があるなら見てみたいとずっと思っていました。


養蚕秘録の上垣守國は但馬、蚕飼絹篩大成の成田重兵衛は近江のうまれです。
もしあるとしたらそっち方面まで行ってみるしかないのかなとか。


そんなことを思っていたところ、群馬にも喬木仕立てがあったことが段々わかってきました。
ひとつ参考にしたのは上毛新聞社発行の『 私の中のシルクカントリー ・上 』です。この中に片品村の方が喬木について触れていたのです。載っている内容は半世紀も前のことだったのですが、それから事あるごとに片品村など県北を夫と探してまわりました。


希望をもって探していたら見つかるものですね。
奇跡としかいいようがないのですが、喬木で養蚕を営んでいらっしゃる方に出会うことが出来ました。

喬木の桑取りを見られるのは今年はこの晩秋蚕しかないとのことで、いまウチでも晩秋蚕の飼育が始まっているのですが蚕が眠になったのを見計らって出掛けました。




蚕糸日記 -さんしにっき--喬刈り

伺うと、ちょうど桑取りに出掛けたところだということで奥さんに畑へ案内していただきました。

はしごを掛けて登り、ノコギリで桑枝を落としているところです。

蚕飼絹篩大成の桑摘図に似ていませんか。
眼にした瞬間、うれしくて、うれしくてたまりませんでした。






蚕糸日記 -さんしにっき--喬木の桑畑

これが喬木仕立ての桑畑です。



蚕糸日記 -さんしにっき--喬刈り

別ショット。



蚕糸日記 -さんしにっき--喬刈り

手前は、夫と農家の奥さん。



蚕糸日記 -さんしにっき--喬刈り

ノコギリで落とした桑は、ナタで束ねやすい長さに整えまとめます。
蚕書と違うのは、条桑育なので枝のまま運んで蚕にあたえるということ。


県北の養蚕は、以前は喬木がよく見られたようなのですが転落事故など危険もあり、だんだんと中刈りの仕立てに変わって行ったようです。
そんな中、この農家さんではいまでも喬木の仕立てを行っています。
たぶん県内ではこの農家さんくらいではないでしょうか。
全国的にも、ほとんど無いのではないかと思います。


いまでも喬木仕立てをしているなんてスゴイですねと伺うと、
「 自慢じゃないんだよ、苦肉の策なんだよ 」とおじさんは笑っていいます。

在るということは、意味があるからなのだ。
でも奥さんは収穫に時間が掛かるから嫌だと話していました。
きっとおじさんのこだわりもあるのです。


この農家さんの晩秋蚕はもう5齢となっていました。
忙しい折に快く見学をさせていただき、本当にありがとうございました。