この間のつづき。
昨年から、埼玉県のJAひびきの管内にある 「金屋稚蚕共同飼育所」へ伺っています。
こちらでは、桑葉による稚蚕飼育を行なっています。現在稼働している稚蚕飼育所は、人工飼料をつかった所がほとんどなので貴重な現場と思います。以前は桑葉による稚蚕飼育が一般的でしたが、昭和55~60年に人工飼料の助成金が実施、それを機に人工飼料育の建物に改造された所が多いのです。

写真は昨年の春蚕の掃き立てです。
掃き立てとは、孵化した蚕を蚕座に移して飼育を開始する作業です。羽箒をもって蚕を掃き下ろすことから、こういわれています。

蚕糸日記 -さんしにっき--濡れ桑


この頃は、確か数日雨でした。
掃き立てのため、前日に収穫された桑は濡れ桑。
そのため、シートの上に広げて乾かしてありました。

掃き立ての時間までに桑が乾くか、心配で早朝のまだ暗いうちにシートの葉を裏返しに来たのだと一人の女性が話してくれました。パート時間外に作業に来るなんて。この話にはびっくりしました。でも実は、ここで働いている方は、農協の養蚕教師の方以外は皆さん養蚕農家なのです。自分たちの稚蚕を共同で飼育する、本当に昔ながらといった風景です。
わたしが働いている飼育所も元は養蚕を営んでいた農家の女性が多いです。でも、今ではほとんどの方が養蚕を辞めてしまわれています。

蚕糸日記 -さんしにっき--桑を刻む


作業開始時間。
まずは、葉を専用の機械で刻みます。
それを1回分の給桑量にはかり、ザルに分けて飼育室へ運びます。

蚕糸日記 -さんしにっき--蚕の種紙


飼育室では蚕座ごとに、種紙が配置されていました。
この種紙のなかに蚕の卵が入っています。蚕の卵は、菜種に似ているので「卵」とはいわず「種」といいます。この日は掃き立てですから、もうこのなかでお蚕さんが孵っているはずです。

蚕糸日記 -さんしにっき--種紙をはがす


そして、種紙をはがすときが来ました。
女性の右手側の紙に黒い点のようなものがいっぱいくっついて見えます。これが孵化したばかりのお蚕さんです。大きさは、はたらき蟻くらいで毛がはえています。なので、「蟻蚕(ぎさん)」とか「毛蚕(けご)」などといいます。

蚕糸日記 -さんしにっき--掃き立て


はじめての給桑。
こうして孵った蚕に初めて与える細く刻んだ桑を「呼び出し桑」といいます。
このあと右手側の紙を桑の上にのせ、お蚕さんがついている種紙で桑をサンドして、しばらく置いておきます。こうして、お蚕さんが種紙から桑に移動するのをうながします。

蚕糸日記 -さんしにっき--掃き立て2


そして、2回目の給桑で種紙を取り除きます。
このときに、羽箒でまだ種紙についている蚕を桑に掃き下ろしていました。

蚕糸日記 -さんしにっき--桑摘み


桑摘み作業にも同行させていただきました。
春の桑葉は、桑爪などの道具を使わなくても手で簡単にもげます。
楽しくおしゃべりをしながら、しかし手は止まることなく、実に手際の良い作業です。
必要なだけの葉を摘み終わると、桑鎌で枝を落として行きます。わたしも少し手伝いをさせていただきました。

お話によると、この稚蚕用桑園の肥料入れや雑草退治などもみなさんでなさるそうです。
なんとなく想像はしていましたが、人工飼料育では必要が無くなってしまった養蚕技術がここにはたくさんありました。それ以外にも、養蚕を営む農家がともに協力しあう人のつながりや習慣的なことにも少し触れさせていただけて、心ときめくことばかりでした。
金屋稚蚕飼育所のみなさま、本当にありがとうございました。

今回は、ここまでです。
他の作業日にも伺わせていただきましたので、近いうちにまた続きを書きたいと思います。