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 海形マサシさんのJANJANへの投稿を転載させていただきます:

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 10月23日の読売新聞の社説には開いた口が塞がらなかった。

 見出しは「在沖縄海兵隊 周辺有事の重要な抑止力だ 」で、出だし

はこうだ。「尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件は、在沖縄米海兵隊の

役割を再認識させる機会となった。」

 まあ、尖閣諸島の事件があって、おそらくこんな社説を書くだろうと

予想はしていたが、しかし、その内容がひどい。

「日本防衛の日米共同作戦では、陸海空自衛隊は「盾」、米陸海空軍・

海兵隊は「矛」の役割を担う。特に、尖閣を含む南西諸島などの島嶼

(とうしょ)防衛では、海兵隊の機動力が重要な意味を持つ」

 この社説を書いた論説委員は以下の事実を知らないのだろうか。

いや、天下の読売新聞にあって、そんなはずはないと思うのだが。

 2005年に日米の外務・防衛相会合で「日米同盟 未来のための変革

と再編」という合意文書を交わしたのだが、その第2章には、「日本は、

弾道ミサイル攻撃やゲリラ、特殊部隊による攻撃、島嶼部への侵略と

いった、新たな脅威や多様な事態への対処を含めて、自らを防衛し、

周辺事態に対処する。」とあり、つまりは、自衛隊は自ら矛と盾の役割

両方を担わなければならず、おまけに一番脅威にさらされている尖閣

諸島などの島嶼部は米軍の防衛義務範囲から除外されているのだ。

 次に変なのは、「在沖縄海兵隊はこのほか、朝鮮半島有事における

日本人の退避活動の支援や、地震・津波などの災害救援の役割も担っ

ている。」 とあるが、その「日本人の退避活動の支援」だが、沖縄の海

兵隊の救出部隊の救出対象は以下の通りと定められていることも知らない

はずはないだろう。

1) アメリカ国籍を持つ者

2) アメリカの永住資格を持つ者

3) カナダ、イギリス、オーストラリア、ニュージーランドのアメリカの友好

国4ヶ国の国民

4) その他

 となっている。かろうじて言えば、その4番目の「その他」に含まれている

のが日本人かもしれない。あれだけ広大な基地を貸し、思いやり予算まで

払ってくれている同盟国の国民はリストさえされていない。

 そして、結びは相も変わらず、「菅政権は、在沖縄海兵隊の抑止力の

重要性を国民にきちんと説明し、普天間飛行場の辺野古移設の実現に

全力を挙げるべきだ。」 とあり、またもや「抑止力」を掲げているが、

そんなものが嘘ぱちであることは上記で書いていることだし、以下の事実

と照らし合わせるとより明確になる。

1) 日米安保条約に定める米軍の日本防衛の発動は、大統領や米連邦

議会の承認なしには行使できない。自動的ではないので、その時のアメリカ

の事情によって決まる。

2) 1982年、イギリスとアルゼンチンとの間でのフォークランド紛争の時

にアメリカは日本よりも同盟関係が強いとされるイギリスの支援をしなかっ

た。米軍は同盟国の領土紛争には介入しないのが方針。すでに今年の3月

に国防次官補が「尖閣諸島の主権の問題には立ち入らない。これはアメリカ

の一貫した立場だ。」と言明している。9月に起こった漁船事件後でも、アメリ

カの政府高官はあくまで「尖閣諸島は日本の施政下にある」としか述べていな

い。それは「領有している」とか、「主権下にある」と同一の意味ではない。

3) 中国は世界最大の米国債の保有国であり、アメリカは経済で中国と

強い依存関係にある。ディズニーのぬいぐるみもアップルのアイパッドも

中国製。したがって、日中間の紛争のため中国と対峙することは米国の

国益にはかなわない。

4) ベトナムのハノイでゲーツ米国防長官と中国の梁光烈国防相が

11日会談した折り、尖閣諸島には一切触れず、そのうえ、米中両軍の

交流を約9カ月ぶりに全面的に復活させることを決めた。軍事的にも

両国は緊密になっている。

 中国に対する脅威が高まって、やはり米軍に頼らなければと思って

しまう人もいるのだろうが、ちょっと事実関係を検証すれば、アメリカが

助けてくれる可能性は実に乏しいことが分かる。もう日米安保体制は

日本の防衛にとって意味をなしていないのだ。

 言っておくが筆者は軍事や国際政治の専門家ではない。上記に掲げ

ることは、特別な情報網で知ったことではない。これらは、インターネット、

週刊誌、読売新聞以外の新聞紙、テレビ番組などで堂々と語られている

ことである。言い方を換えれば、ごく一般の誰でも知り得る情報なのである。

 それなのに、この期に及んで、まだ、間違った情報を流し続ける。どうも

理解できない。昨今は新聞の売上部数が落ち込み業界にとって苦境の

時代と聞く。こんな事実誤認、それも、多くの人が事実誤認だと簡単に

分かる情報を流し続けることは自らメディアとしての信用を貶め、まさに

自分で自分の首を絞める結果になるのではないか。