美談でありながら心配の種でも | 産婦人科専門医・周産期専門医からのメッセージ

産婦人科専門医・周産期専門医からのメッセージ

 第一線で働く産婦人科専門医・周産期専門医(母体・胎児)からのメッセージというモチーフのもと、専門家の視点で、妊娠・出産・不妊症に関する話題や情報を提供しています。女性の健康管理・病気に関する話題も併せて提供していきます。

 ビックリニュースが流れていましたので紹介しておきます。

実際にあった話―命の力って本当にすごい!脳死のお母さんから4ヶ月後に赤ちゃん誕生 ハンガリー

出産は命を生み出すために、母親しかできないこと。いくら「女は強い」と言っても、出産には危険がつきものです。命がけで赤ちゃんを産むからこそ、かけがえのない命の重みがわかるのです。

世界中の人を感動させた出産ストーリーがハンガリーから届きました。

ハンガリーのある31歳の妊婦さんがまだ若いのに、脳出血で倒れてしまいました。発見が遅れたため、彼女は脳死状態に陥ってしまいました。

倒れた時のショックや刺激でも、赤ちゃんは無事だったのが奇跡です。

そして不思議なことに、お母さんが脳死状態でもおなかの中の赤ちゃんはすくすくと育って行ったのです。お母さんは生命維持装置をつけたまま、病院のベッドで意識を失ったままでしたが、赤ちゃんの成長をうながすために、点滴をつけ血液に栄養剤を送り込むこととなりました。

このお母さんの家族、親せき、友達は次から次へと病室を訪れ、意識のないお母さんを励まし、またおなかの中の赤ちゃんが無事に生まれてくるように祈り続けました。

そしてついに約4ヶ月後元気な男の赤ちゃんが誕生したのです。

産まれた時の赤ちゃんの体重はたったの500グラムしかなかったのですが、保育器に入れられて、安定した状態だそうです。

脳死の母親から産まれた新しい命。

命の重さと、かけがえのなさ、そして母親の強さが輝き渡るようなストーリーです。ただ、お母さんがこの赤ちゃんを抱いて育ててあげることも、母乳をあげることもできません。

それでもこの男の子がやがて成長した暁には、お母さんがそばにいなくても、脳死状態で必死で栄養を与えてくれたお母さんのこと、そして決してあきらめなかった医師団にきっと感謝の心が生まれるのではないでしょうか。

今妊婦さんの読者も多いことでしょう。

お腹の中で育っている小さな命を精いっぱい慈しんで、愛してあげたいですね。生まれた後、その手で抱き上げることができるのは奇跡なのです。


 以下のリンクから見られます。
http://www.news.com.au/lifestyle/parenting/baby-born-to-brain-dead-mother-in-hungary/story-fnet08ck-1226760134569

 以下は私のコメントです。

 脳死の母から4ヶ月後に500gの赤ちゃんが産まれたとのこと、500gというと22~24週相当になります。そうなると脳死になったのは6~8週ということで、妊娠初期だったということになります。医学・医療上のトピックとしては驚くべきことですね。

 このニュースはきっと美談として報道されることでしょう。もちろんその一面はあると思います。しかし、22~24週相当で500gの赤ちゃんが障害なく育つ確率は決して高くなく、死亡あるいは大きな障害を負っての生存の可能性の方が高いと思われます。母は脳死ということは、父しか残っていないことになるのですが、1人でこの赤ちゃんを育てていくことは可能なのでしょうか。家族や周囲の人達からは温かく受け入れてもらえる赤ちゃんになるのでしょうか。この点は心配の種でもあります。

 周産期医療に携わるものとしての立場からですが、どうして22~24週相当で500gでの分娩となったのでしょうか?私たちの立場からすれば22週以前で流産となってしまうか、頑張るなら25ないし26週以降のある程度安定した成績が得られる週数まで頑張り通すか、という選択肢になるのですが、どうして22~24週相当で分娩となってしまったのかという点に注目しています。続報を望みます。

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