よくある質問⑥:鉗子分娩は危なくないですか | 産婦人科専門医・周産期専門医からのメッセージ

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 第一線で働く産婦人科専門医・周産期専門医(母体・胎児)からのメッセージというモチーフのもと、専門家の視点で、妊娠・出産・不妊症に関する話題や情報を提供しています。女性の健康管理・病気に関する話題も併せて提供していきます。

 新しく「よくある質問」というテーマを設けて記事をアップしていくことにしました。産婦人科医として日常診療を行っていると、多くの女性が同じような疑問や心配を持っていることに気づきます。そこで、こうした疑問や心配に対する我々産婦人科医の一般的な対応・返答を示し、情報を必要とする皆さんに共有して役立ててもらえたらと思います。


 今回6回目は鉗子分娩と吸引分娩についてです。

 急速遂娩である鉗子分娩と吸引分娩に関してはこれまでに何度も記事で取りあげてきました。以下のリンクから見ることができます。
http://ameblo.jp/sanfujin/entry-10839158888.html
http://ameblo.jp/sanfujin/entry-10839207635.html
http://ameblo.jp/sanfujin/entry-10840835149.html

 我々の病院では、分娩予約をされる妊婦さんに「当院で分娩される妊婦さんへ」というパンフレットを渡し、家族で読んでもらい、最後のページにある分娩申込書兼分娩に関する同意書を入院までの間に提出してもらうことにしています。

 この「当院で分娩される妊婦さんへ」というパンフレットの中で、我々の病院で行っている分娩に関する基本方針、分娩誘発について、会陰切開について、夫立会い分娩についてなどなどを説明しているのですが、これ以外に急速遂娩に関しても適応と方法を説明してます。妊娠中あるいは分娩中に急速遂娩が必要な状況となり、かつ十分な説明を行っている時間的余裕がない場合には処置あるいは手術を先行して行う可能性があるという内容を盛り込んでいます。この処置あるいは手術を先行して行う可能性があるという点に関しての同意書をもらっているわけです。

 本来ならば手術や処置は十分な説明と同意のもとで行わなくてはならないのですが、分娩時にはそうも行かないことが多いものです。そのために可能性がある一般的な処置についての説明パンフレットを渡しているわけです。

 このパンフレットを読んだ妊婦さんから受ける質問の中でよく見られるのが、「鉗子分娩は危ないと聞いてますが大丈夫ですか?」「鉗子分娩より吸引分娩の方が安全と聞いてますが違いますか?」というものです。

 少子化の現代では妊婦さんは子供を産んでも1人ないし2人という方が多く、3人以上の子だくさんは少なくなってきました。そのせいか、分娩する妊婦さんの中に占める初産婦さんの割合は高くなっています。きっと新鮮な気持ちでパンフレットを読んでくれていることでしょう。

 私は次のように答えることにしています。「鉗子分娩も吸引分娩も正しく行われれば安全度は同等です。」「ただ吸引分娩の方が簡単そうに見える分、安易に行われる傾向にあり、適応や要約が守られないこともあって、かえって危険かもしれません。」

 先日もとある先輩医師と話をしていたのですが、「鉗子分娩が危ないと言っているのは鉗子分娩ができない医者たちである。」「鉗子ができる、鉗子が上手な医者は、鉗子の方が安全で吸引の方が危ないという。」「鉗子分娩は受け継がれないといけない技術だ。」と言ってました。私もそう思います。全国の医療事故や産科医療補償制度の解析をみても、いかに吸引分娩に関する事例が多いことか驚かされます。吸引分娩による児の死亡例も少なからずあります。意外かもしれませんが鉗子分娩に関するものは吸引分娩の数分の1です。

 これを踏まえて鉗子分娩が吸引分娩よりも安全だとは言いません。逆に吸引分娩は鉗子分娩に比べると安易に行える分、熟練した技術なくしても行えてしまうことが危険につながっていると思います。つまり鉗子分娩は正しく行われることがほとんどであるが、吸引分娩は正しく行われていないことも少なくないと言うことです。経験上ですが、鉗子分娩は決して安易には行えない技術を要します。しかし、吸引分娩は必ずしもそうではないのです。だからこそ、「鉗子分娩も吸引分娩も正しく行われれば安全度は同等です。」「ただ吸引分娩の方が簡単そうに見える分、安易に行われる傾向にあり、適応や要約が守られないこともあって、かえって危険かもしれません。」が答えとなるのです。

 前もって妊婦さんに急速遂娩について予備知識を入れておいてもらうことで、こうした誤解を前もって解き、緊急時に安心して処置を受け入れてもらえるようにしておくことは、やはり大切な要素ですね。


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