胎盤剥離を切迫早産と誤診 | 産婦人科専門医・周産期専門医からのメッセージ

産婦人科専門医・周産期専門医からのメッセージ

 第一線で働く産婦人科専門医・周産期専門医(母体・胎児)からのメッセージというモチーフのもと、専門家の視点で、妊娠・出産・不妊症に関する話題や情報を提供しています。女性の健康管理・病気に関する話題も併せて提供していきます。

 補償の範囲(対象となる週数や児に制限あり)・補償額(上限つまり天井が低い)など、まだまだ十分とは言えず、むしろ解決されるべき問題点も多いかと思われる産科医療補償制度ですが、導入されてから一定期間が経ち、それなりに起動にのって補償がなされていることはまずまず評価されます。とりわけ産科医療補償制度の対象となった場合に、原因の解析がなされて公表されていることは、個人的には相当評価されてよいかと思っています。

 この産科医療補償制度に関連しての話題です。

 日本医療機能評価機構は5月30日、「第3回産科医療補償制度 再発防止に関する報告書」をホームページに掲載しました。産科医療補償制度再発防止委員会(委員長:池ノ上克氏)が2011年より毎年公表しているもので、今回で3回目となる。2012年12月末までに報告書を公表した「分娩関連の重度脳性麻痺児」188人の分析結果をまとめたものです。

 報告書は大きく「数量的・疫学的分析」と「テーマに沿った分析」で構成されている。前者は主に全体的な経年変化を見るために、後者はより深く分析するべきテーマを選定し、再発防止策などを示すためにまとめられています。

 今回のテーマは「臍帯脱出」「子宮収縮薬」「新生児蘇生」「分娩中の胎児心拍数聴取」「常位胎盤早期剥離」の5題です。池ノ上委員長によると、いずれも第1-2回の報告で取り上げたテーマだが、対象数を増やし、視点を変えて分析したということです。

 特に、分娩誘発や促進時に使う薬剤や機器について注意を促しています。メトロイリンテルや人工破膜などの使用時と使用後は、臍帯脱出が起きていないか定期的に観察することが必要です。子宮収縮薬は使用前に文書による説明を行い、胎児の健常性をモニタリングしながら投与することが必要です。また、複数の子宮収縮薬を同時併用しないよう求めています。

 対象事例の約3割で起こっている常位胎盤早期剥離については、発症初期に切迫早産として治療されている事例が多く見られたことから、委員会は「鑑別診断が重要」と指摘しています。原因や予防法が明確にはなっていない病態だが、臨床症状や胎児心拍数モニタリング、エコー所見などから総合的に診断するよう提言しています。

 「第3回産科医療補償制度 再発防止に関する報告書」は以下のリンクから全文を見ることができます。
http://www.sanka-hp.jcqhc.or.jp/pdf/Saihatsu_Report_03_All.pdf


 以下は私のコメントです。

 やはり常位胎盤早期剥離を切迫早産と勘違いして後手に回ったあるいは手遅れになったという症例が少なくないんですね。ただ誤診という表現は好みません。確かに誤診あるいは誤診に近い症例もあることでしょう。しかし、本当に鑑別が難しい症例もあり、後からみれば常位胎盤早期剥離がもっと早く疑えたという症例も少なからずあります。変化が早く急激に予後が悪化する常位胎盤早期剥離においては、わずかの時間の診断の遅れ・対応の遅れが不幸な結果に直結するものですが、やはり誤診ばかりではないと思ってますし信じたいです。

 また診察開始時から常位胎盤早期剥離を疑い、全力で治療に当たっても間に合わず不幸な結果となることも少なくありません。

 私はこれまでも常位胎盤早期剥離に関しては多くの記事をアップしてきました。そして周産期医療においては「切迫早産の陰に常位胎盤早期剥離あり」と言う格言は有名すぎるくらいにあります。今回の報告を他山の石とせず、改めて気を引き締めて診療に臨まなくてはならないと感じました。

 ちなみにこれまでの常位胎盤早期剥離に関連する記事は以下のリンクで見られます。
http://ameblo.jp/sanfujin/entry-11120815672.html
 参考までに切迫早産に関連する記事は以下のリンクで見られます。
http://ameblo.jp/sanfujin/themeentrylist-10032001046-1.html


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