受け入れ拒否か受け入れ不能かの前に | 産婦人科専門医・周産期専門医からのメッセージ

産婦人科専門医・周産期専門医からのメッセージ

 第一線で働く産婦人科専門医・周産期専門医(母体・胎児)からのメッセージというモチーフのもと、専門家の視点で、妊娠・出産・不妊症に関する話題や情報を提供しています。女性の健康管理・病気に関する話題も併せて提供していきます。

 今なお巷で話題となっている受け入れ拒否あるいは受け入れ不能問題ですが、本日は医療者の立場でひとりごとを書いてみます。

 私の場合ですが、産婦人科医として15年以上勤務しています。自身での決定権がなかった大学病院時代を除くと、産科患者さんも婦人科患者さんも私自身の都合で受け入れを断ったことは一度もありません。もちろん小児科からNICUが受け入れできないと言われやむを得ず産科患者さんを断ったこと、精神科や麻酔科などの他科が対応できないという理由でやむを得ず断った婦人科患者さんは少なからずいます。しかし、その断り辛いことといったら、嫌気がさしてくるほどです。

 さて周産期医療の現場においては、受け入れ拒否あるいは受け入れ不能と判断するのはほとんどの場合が小児科です。

 産婦人科医の場合、日常診療において胎児の状態悪化や分娩の進行により、早く帝王切開をしたいあるいは早く分娩にしたいと思っていても手術室・麻酔科・小児科の都合で焦る気持ちで待たされるケースが少なからずあります。こうした緊急の場面での焦る気持ちが日常診療の中でわかっているので、日頃交流のある近隣の周産期施設の先生からの産科患者さんの受け入れ要請があると、断りにくいですし何とか受け入れたいという気持ちにもなります。

 前回までの記事でも記載しましたが、手術中での分娩中でも受け入れる患者さんの搬送までに手を空けることや応援を呼ぶことは可能なものです。実際に大忙しにはなりますが、現実には対応できずに困ったことは一度もありません。つまりそれを理由に断るのは本当は受け入れ不能ではなく受け入れ拒否に近いのではないかと感じます。ベッドにしても大人の場合には内科のベット・救急のベッド・ICUのベッドだって何とかなります。産科患者さんであれば陣痛室や分娩室もありです。私の病院では外来ベッドやマザークラス用の部屋も利用することがあります。産科患者さんは入院退院の回転が速いので次の日には何とかなるものです。

 なぜ小児科医の方が受け入れを断ることが多いのでしょうか。ひとつはNICUが満床など物理的な要因でしょう。そしてもうひとつは一種の上から目線でしょう。受け入れてやっているという立場から無理して受け入れる必要がないと思って断るのです。さらには、小児科医が断るのは受け入れを確認した受け入れる側の産婦人科医に対して断るのであり、小児科医が受け入れ要請をしてきた搬送もとの先生に断ってくれるわけではないのです。搬送を依頼してきた先生の困っているあるいは緊迫している現状を直接聞いて断っているのではないことがほとんどです。自分の施設の産婦人科医に対して受け入れを断り、それを産婦人科医が搬送を依頼してきた先方に伝えるのです。

 ですから周産期医療の現場でも産婦人科あるいは小児科いずれかの受け入れができない理由がある方が受け入れ不能を先方に伝えるシステムに変えていけば受け入れ拒否や受け入れ不能はもっと減ることでしょう。産婦人科が受け入れできなければ産婦人科医が事情を説明する、小児科が受け入れできなければ小児科医が事情を説明するのが本当は妥当でしょう。

 実際、困って連絡してくる先方の先生達に対して、受け入れを断ることの辛さは、その現場で対応していないと分からないものです。直接話をすれば、無理してでも何とかしようかという気持ちが少なからず芽生えるものです。


 長らく一般の救急医療には携わっていないので、推測になってしまいますが、救急の場面での同じような現象があるのでしょう。救急の現場でも救急隊や搬送ものと病院の先生が、事務や看護師・研修医などではなく直接診療を行う医師に対して依頼するシステムとなっていれば、受け入れ拒否あるいは受け入れ不能は大きく減るのではないでしょうか。きっと受け入れ拒否あるいは受け入れ不能の判断をしている責任医師は直接電話などの対応をしていない場合が多いかと思います。


 これまでの話とは逆説的になるかもしれませんが、最後にひとつだけ付け加えておきます。私自身の経験では、はっきり言って受け入れ拒否あるいは受け入れ不能をするよりも、受け入れた方がはるかに精神的に楽です。受け入れ拒否あるいは受け入れ不能の場合には、困っている搬送もとの先生や救急隊に対してものすごく後ろめたい気持ちが残ってしまいます。その後どうなったのかも心配になり、気になってしまいます。また少なからず嫌みも言われることでしょう。また受け入れ拒否あるいは受け入れ不能となった理由を記載し、会議などに提出して報告するのは本当に煩わしいものです。

 きっと世の中の多くの医師たちは、少なくとも一戦の病院あるいは三次医療機関に勤務する医師はそう思っていると感じていると信じたいものです。


 いずれにしても受け入れ拒否か・受け入れ不能がなくなるように医療者・患者・行政が納得のいく上手い方法を見つけて行かないといけないですね。

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