糖代謝異常合併妊娠の病態と合併症 | 産婦人科専門医・周産期専門医からのメッセージ

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 第一線で働く産婦人科専門医・周産期専門医(母体・胎児)からのメッセージというモチーフのもと、専門家の視点で、妊娠・出産・不妊症に関する話題や情報を提供しています。女性の健康管理・病気に関する話題も併せて提供していきます。

 今回は糖代謝異常合併妊娠、つまり糖尿病合併妊娠と妊娠糖尿病の病態と合併症について紹介してみます。

 糖代謝異常合併妊娠では、当然のことながら①母体高血糖が起こります。糖は胎盤を容易に通過するため母体の高血糖に引き続いて②胎児高血糖が起こります。胎児が高血糖にさらされると胎児の生体反応として③胎児インスリン分泌過剰が起こります。糖代謝異常合併妊娠でみられる合併症は、すべてこれら①~③の結果として起こりえるものということになります。


①母体高血糖
 糖代謝異常合併妊娠では様々な原因により、通常よりもインスリン抵抗性が強くなりすぎてしまいます。その結果としてみられるのが母体高血糖です。

 母体高血糖は母体に血行障害や易感染性などの様々な悪影響を及ぼします。その結果として流産・早産・妊娠高血圧症候群・腎症や網膜症などの糖尿病合併症の増悪が引き起こされることとなります。

 また母体高血糖により胎児・胎盤循環の血行障害や母体アシドーシスが生じると、胎児に栄養や酸素を供給しにくくなってしまいます。その結果として子宮内胎児発育遅延・胎児機能不全・子宮内胎児死亡が引き起こされることとなります。


②胎児高血糖
 糖は胎盤を容易に通過するため、母体が高血糖であると糖は濃度依存性に胎児へ移行してしまいます。しかし、母体のインスリンは胎盤を通過しません。そのため胎児も高血糖になってしまいます。

 胎児にとっての器官形成期である妊娠5~8週において胎児が高血糖にさらされると細胞の分化に悪影響が見られます。その結果として先天奇形が増加します。先天奇形としては心臓血管系の奇形が最も多く次いで中枢神経系の奇形が多くなります。その他にも様々な先天奇形が引き起こされることが分かっています。このことは妊娠初期における母体の血糖コントロールが大切であるという根拠になっています。

 胎児の高血糖は浸透圧利尿を引き起こします。つまり胎児は多尿となります。もちろん多飲もすることでしょう。その結果として羊水過多が見られます。

 また胎児の高血糖は胎児の様々な臓器へ障害を与えることになります。そのため新生児期に呼吸窮迫症候群・高ビリルビン血症・低カルシウム血症・多血症などが見られることがあります。


③胎児インスリン分泌過剰
 高血糖を感知した胎児の膵臓のランゲルハンス細胞からはインスリンが過剰に分泌されるようになります。それと同時にランゲルハンス細胞は過形成になります。

 インスリンには成長ホルモン様の作用があり、グリコーゲン・脂肪・蛋白質の合成が促進されます。その結果として胎児は巨大児になります。

 またインスリンを過剰分泌し過形成となっていたランゲルハンス細胞からは出生後も当面の間インスリンが過剰に分泌されるため、新生児低血糖が引き起こされます。


 また、糖代謝異常合併妊娠の妊婦さんから生まれた児は、将来的に肥満・糖尿病・高血圧・高脂血症をきたすリスクが通常の児よりも高いことが知られています。


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