今回はrapid tocolysisについての話題を取りあげてみます。
ところで、rapid tocolysisと言う言葉は一般にはなじみが薄いかと思いますが、ご存じでしょうか?
まずtocolysisと言う言葉ですが、子宮収縮抑制・陣痛抑制という意味で用いられます。ですからrapid tocolysisとは、急速なあるいは迅速な子宮収縮抑制・陣痛抑制と言う意味になります。
周産期医療の現場では「分娩時・帝王切開時などにおいて破水直後などに急激な子宮筋収縮が生じ臍帯圧迫や胎児の嵌頓などが引き起こされ、児の心拍異常が出現したり児の娩出困難になった場合に迅速な子宮収縮抑制および子宮内操作が必要な際に迅速かつ十分に子宮筋の弛緩を得ること。」を称してrapid tocolysisと呼んでいます。
ではrapid tocolysisが必要とされる状況にはどのようなものがあるかを紹介してみましょう。
①帝王切開時:
破膜(破水)後の急激な子宮筋収縮により胎児が子宮筋で捕捉(trap)される状態に陥り、胎児の娩出困難となった場合には、速やかに子宮筋弛緩をはかり胎児を娩出しやすくする必要があります。具体的には以下のような場合があります。
・骨盤位における児頭娩出困難
・横位や足位のときにおける胎児の子宮内嵌頓
・未熟児(とりわけ妊娠20週台)帝王切開時の破水後の胎児trap
②分娩時:
分娩第1期に臍帯脱出が起こったり急激な臍帯圧迫による持続性徐脈が出現した場合には、速やかに子宮筋弛緩をはかり子宮内での胎児蘇生を行いつつ、帝王切開へとつなげる必要があります。具体的には以下のような場合があります。
・臍帯脱出
・急激な臍帯圧迫による持続性徐脈
分娩第2期には骨盤位分娩において後続児頭娩出困難が困難になった場合には、速やかな子宮筋弛緩を行わなければ児頭によって臍帯が圧迫され、胎児機能不全に陥ってしまいます。また、臍帯脱出が起こったり急激な臍帯圧迫による持続性徐脈が出現した場合でも、吸引分娩や鉗子分娩のい適応がない場合には、速やかに子宮筋弛緩をはかり子宮内での胎児蘇生を行いつつ、帝王切開へとつなげる必要があります。具体的には以下のような場合があります。
・骨盤位における後続児頭娩出困難
・臍帯脱出
・急激な臍帯圧迫による持続性徐脈
分娩第3期においても子宮口が閉じてしまい胎盤の娩出が困難になった場合には子宮筋弛緩が必要になります。また子宮内反症が起こった場合には、子宮筋弛緩をはかることで整復が容易になる場合があります。具体的には以下のような場合があります。
・胎盤嵌頓
・子宮内反症
③双胎分娩時:
第1子娩出後の第2子に骨盤位あるいは横位といった胎位異常がみられる場合、子宮筋弛緩を測ることで内回転や外回転といった処置がやりやすくなります。また、双胎分娩特有の懸鉤がおこり子宮内操作を行う場合にも子宮筋弛緩は有用です。具体的には以下のような場合があります。
・内回転や外回転を行う場合
・懸鉤が起こったときの子宮内操作を行う場合
④胎胞脱出・膨隆例での治療的子宮頚管縫縮術時:
胎胞脱出・膨隆例で治療的子宮頚管縫縮術として緊急頸管縫縮を行う場合には、子宮筋弛緩を十分に行うことで安全かつ確実に脱出・膨隆した胎胞を子宮内に返納することができます。
私自身は①~④のすべてのケースでrapid tocolysisの経験がありますが、比較的頻度が高いのは④です。次いで①となります。
次回はrapid tocolysisの具体的方法について紹介してみます。
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