妊娠中の運動についての常識・非常識 | 産婦人科専門医・周産期専門医からのメッセージ

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 第一線で働く産婦人科専門医・周産期専門医(母体・胎児)からのメッセージというモチーフのもと、専門家の視点で、妊娠・出産・不妊症に関する話題や情報を提供しています。女性の健康管理・病気に関する話題も併せて提供していきます。

 前回までに「妊娠中の運動について」と題して2回記事をアップしてきました。
 http://ameblo.jp/sanfujin/entry-10880254745.html
 http://ameblo.jp/sanfujin/entry-10880622661.html
の2つです。よかったらまず、こちらを読んでみてください。

 さて今回はアントニオ猪木風に「妊娠中の運動についての常識・非常識」と題して妊娠中の運動についての四方山話を紹介してみます。

 「妊娠中に適度な運動をすると妊娠高血圧症候群(かつては妊娠中毒症といわれていました)や妊娠糖尿病の予防になる」とか「妊娠中特に10ヶ月に入ったら適度な運動をすると分娩が早くなる・スムースになる」といった話を聞いたことはありませんか?

 一つ目の「妊娠中に適度な運動をすると妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病の予防になる」ですが、妊娠中の運動が妊娠高血圧症候群を予防するということ自体には理論的根拠が乏しいということが示されています。これは、妊娠中の運動が妊娠糖尿病を予防するということについても同様に、理論的根拠が乏しいということが示されています。つまり、妊娠中に適度な運動をしても妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病に対する予防効果は乏しい、ということになります。

 ちなみに、妊娠高血圧症候群を発症したら、その後の運動は禁忌で安静・食事療法が必要になります。一方、妊娠糖尿病に関しては、発症後は医学的・産科的禁忌がなければ運動療法は、食事療法やインスリン治療と並んで大切な治療法になります。

 二つ目の「妊娠中特に10ヶ月に入ったら適度な運動をすると分娩が早くなる・スムースになる」ですが、これは長きにわたって妊婦さんのみならず、一部の産婦人科医・助産師にも正しいと信じられていました。しかし、数年前に10万人規模の大規模試験が行われ、正しくないことが示されました。私自身、この格言を信じていたわけではなく、むしろ疑っていたわけですが、正直この結果には驚きました。妊娠中に適度な運動をしても、陣痛が早く来て分娩自体が進みやすいと言うことはありません。また、妊娠中に適度な運動をしても遷延分娩を予防出来ません。しかし、妊娠中の適度な運動をすることは心身のリフレッシュにつながりますので、運動をすること自体に意味がないとか害があると言うことではありません。誤解なきようにお願いいたします。また、妊娠中の適度な運動は妊娠中の体力低下予防や妊娠中の血栓症予防には有効かと思われます。

 これに類似して「妊娠中に体を動かさなかったから予定日を過ぎても陣痛が来ない」・「妊娠中に体を動かさなかったから難産になった」ということを言われる人もいますが、二つ目の解説でお分かりかと思いますが、もちろんいずれも医学的には根拠がないことです。

 上記2つの格言のような言葉は、長きにわたって年配の女性から若い女性へと受け継がれてきているかと思いますが、産婦人科医療においては極めてエビデンスに乏しい内容と言えます。ただし、妊娠中に適度な運動をすることの重要性を訴えているという点でみれば、正しい内容とも言えます。根拠や結論の持って行き方が正しくなかっただけです。

 ところで、産婦人科医療とりわけ産科医療・周産期医療においては、巷で格言のように言われていることでも、今回紹介した内容の様に医学的根拠がないことが多数あります。今後も機会を見て紹介したいと思います。

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