◎奥山篤信の映画批評 仏英ベルギー合作映画<ナチス第三の男 原題The Man with the | 護国夢想日記

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 日々夢みたいな日記を書きます。残念なのは大日本帝国が滅亡した後、後裔である日本国が未だに2等国に甘んじていることでそれを恥じない面々がメデアを賑わしていることです。日本人のDNAがない人達によって権力が握られていることが悔しいことです。

◎奥山篤信の映画批評 仏英ベルギー合作映画<ナチス第三の男 原題The Man with the Iron Heart>2017 ~月刊日本2月号より=
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ハイドリヒは、まさにヒトラーが欲しがっていたタイプそのものだった。

 

 

冷酷の化身だった。ラルフ・ジョルダーノ~

ナチス・ドイツのナチス時代のヨーロッパの実態を描いて、未だにそれに匹敵する映画はないのが、ルキノ・ヴィスコンティ監督の『地獄に堕ちた勇者ども』(1969)である。

 

 

大枠は、製鋼業王(クルップ家を連想させる)ドイツのエッセンベック男爵家で起きた権力をめぐる骨肉の争いと退廃(ペドフィリア、近親相姦)の物語でシェイクスピアの「マクベス」やトーマス・マンの「ブッデンブローク家の人々」、ドストエフスキーの「悪霊」を重ね合わせられる見事な地獄絵を描いて、三島由紀夫も絶賛した映画だ。

 

<HHhH>(Himmlers Hirn hei!)t Heydrich)というフランスのローラン・ビネLaurent Binet著2010の大ベストセラーがあるが、仏語原書を英訳・和訳と照らし合わせながら繰り返し読んだものだ。

 

 

この作品は2010年フランスの最も権威あるゴンクール賞2010 Prix Goncourt du Premier Romanを受賞した。

 

 

内容はノンフィクション、これは作家が自分の愛人とプラハにて足を運んで自分のリアルな好奇心から調査したハイドリッヒ暗殺計画Anthropoid類人猿作戦を、克明に描いて、まさにこれほど熱中させる本はない。

 

 

<能と狂言>の対比と言うのは言い過ぎだが、このノンフィクションの面白さは取材する主人公と愛人の日常の現代感覚とひと世代前の狂気のハイドリッヒの時代とを交錯しながら書かれているのが超一級の作品としてユニークなのだ。

さてハイドリッヒは過去三回映画化されている、すなわち『死刑執行人もまた死す』(43)、『暁の7人』(75) 『ハイドリヒを撃て!』(2017)があり本映画はこの原作に基づいている。

 

ラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒ(Reinhard Tristan Eugen Heydrich, 1904年3月7日 - 1942年6月4日)は、ドイツの政治警察権力を一手に掌握し、ハインリヒ・ヒムラーに次ぐ親衛隊の実力者となった。

 

 

ユダヤ人問題の最終的解決計画(ヴァンゼー会議)の実質的な推進者で、その冷酷さから「金髪の野獣(Die blonde Bestie)」と呼ばれた。

 

 

元々は海軍に勤務していたが、女性関係のもつれから名誉除隊となり、運よく後に夫人となるナチスを狂信する名家の女性に愛され、コネを利用しつつ、その限りない野心と冷徹な頭脳で、這い上がり、そしてチェコ保護領の実質統治者として君臨した。

 

 

危機感を抱いた英国政府は、ロンドンのチェコ亡命政府をして、2人の若き兵士(チェコ人とスロバキア人)を暗殺チームとしてプラハへ潜入させ、ハイドリヒ暗殺計画を計画した。

 

ハイドリッヒという人間は人間学を勉強するには最も怪奇で野心的な男だ。

 

 

ドストエフスキーの「悪霊」の主人公にニコライ・スタヴローギンという人物がいる。

 

 

類い稀な美貌と並外れた知力・体力をもつ全編の主人公であるが、徹底したニヒリストで、キリーロフ曰く「彼は自分が何も信じていないということさえ信じていない」人物だが、ハイドリッヒとはこれに似た男だったのか?

 

 

将軍の息子として生まれたスタヴローギンと、音楽家の倅として生まれたハイドリッヒは幼少からバイオリンを奏でる繊細な心をもつ。

 

 

スタヴローギンは、競走馬に乗って人を踏み倒すとか、衆人環視の前で貴婦人を侮辱する、挙げ句の果ては少女マトリョーシャを凌辱して自殺に追い込んだ恐るべき罪業、その得体の知れない不気味さを感じるが、ハイドリッヒの女性関係さらにはプラハでの殺戮など見るとその精神性に共通点はあるが、果たしてどうだろうか?

 

 

そんなハイドリッヒの悪魔性には歴史的人物として興味が尽きないのである。

悪の限りのハイドリッヒと、それに同調する夫人の異様さなど、この映画ではそんな雰囲気を湛えた人物をリナ夫人を<ゴーン・ガール>の主演だったロザムンド・バイクが好演している。

そんな深い意味の性格描写が、不朽の名作であるヴィスコンティ監督レヴェルに到達したであろうか?

 

 

・・いやこの映画は、むしろ当時のチェコの愛国者の献身的な愛国心による、自己犠牲に活路を求める男たちの正義の戦いを描いたものではないだろうか。正月25日より公開される。
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