◎奥山篤信の映画批評 <ライ麦の反逆児~ひとりぼっちのサリンジャー | 護国夢想日記

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◎奥山篤信の映画批評 <ライ麦の反逆児~ひとりぼっちのサリンジャー 原題Rebel in the Rye>2017
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~人っていうのはいつだって見当違いなものに拍手をする


People always clap for the wrong reasons サリンジャー~

 監督はダニー・ストロング、主演はニコラス・ホルトが務めたこの作品はケネス・スラウェンスキーが2012年の伝記『サリンジャー 生涯91年の真実』を原作としている。

 

 

1950年、J・D・サリンジャーは小説『ライ麦畑でつかまえて』を発表した。

 

 

同書はアメリカの保守社会から総スカンを受けた一方、若者たちからは高く評価され大ベストセラーとなった。

 

 

現在に至るまでなんと6500万部が売れている。

 

 

この作品で名声を確立したサリンジャーだが、彼は隠遁者のような生活を送るようになった。

 

 

そんなサリンジャーの孤独な生涯を描いたのがこの映画で、これほど映画化するのは並大抵の事ではないものを、良く性格描写などを静かに仕上げた映画として僕は大評価するものだ。

 映画を語る前に『ライ麦畑でつかまえて』とは一体どんな小説だったのかを簡単に述べる必要があるだろう。

 

 

端的に言えば、幼子のような無垢な子供の夢と大人の現実の社会との乖離と葛藤がこの本の叫ぶところだ。

 

 

ホールデンというまさにサリンジャー自身を投影した反逆児は、社会の偽善と欺瞞を徹底的に憎む。

 

 

一方で幼児や少年への両手を挙げての愛の眼差しがある。

 およそ子供には全身的共感を示すと同時に、人間つまり大人が考え出し作ったフェイクだと激しく抵抗する姿、いつまでたっても<ちょっとは大人になれ (Grow up)>と言いたくなる世界に死ぬまで固執した作家の姿がある。

 ホールデンは、退学になった校長の家を訪問するが、そこで出会ったものは、まさに校長に対する嫌悪と侮蔑であり、その「インチキ」なもの、

 

 

「汚らしい」であり、それは精神の下劣さ低俗さ、根性のきたなさ、そこから来る保身、欺瞞、馴れ合い、そして建前といったものに過ぎない。

 

 

その不潔さを、彼は感覚として捉え、反射的に反逆する、実にわかりやすくその痛快さであって、スカッとした気分になれる。

 

 

文章は気取らない、歯切れのよい文体のリズム感がある。

 サリンジャーの無垢な子供たちへのまなざしは、この箇所が見事に描いているので引用する:

「広いライ麦の畑やなんかがあってさ、そこで小さな子供たちが、みんなでなんかのゲームをしているとこが目に見えるんだよ。

 

 

何千っていう子供たちがいるんだ。・・・僕はあぶない崖のふちに立ってるんだ。

 

 

僕のやる仕事はね、誰でも崖から転がり落ちそうになったら、その子をつかまえることなんだ―・・一日じゅう、それだけをやればいいんだな。

 

 

ライ麦畑のつかまえ役、そういったものに僕はなりたいんだよ。馬鹿げてることは知ってるよ。」

 1965年6月に『ニューヨーカー』に掲載した『ハプワース16、1924』を最後に完全に沈黙、作家業から事実上引退した。

 

 

ニューヨークを離れ、ニューハンプシャー州のコネチカット川のほとりにあるコーニッシュの土地を購入、原始的な生活を送り、地元の高校生達と親しくなり、交流を深めることになる。

 晩年のサリンジャーは人前に出ることもなく、2メートルの塀で囲まれた屋敷の中で生活をしていたとされる。

 

 

彼には世捨て人のイメージがつきまとうようになり、一度小説を書き始めると何時間も仕事に没頭し続けており、何冊もの作品を書き上げている、など様々な噂がなされた。

 さて映画は、サリンジャーの青春時代、徴兵にて欧州戦線で戦う時代、隠遁時代などを描いているが。

圧巻は彼の才能を見出し<生涯をかけて物語を語る>覚悟などを語り、かつ<ストーリー>編集者として雑誌短編集『若者たち』を採用した、コロンビア大学の創作文芸コースを指南したウイット・バーネットとの交流と別離と愛憎をきめ細かに描いている。

 バーネットに扮する名優ケヴィン・スペイシーの演技が光る一方、サリンジャーに扮するニコラス・ホルトも適役で渋い演技だ。

 

 

反逆児ながら、なぜか憎めない、育ちの良さから女性には可愛がられるサリンジャーを引き立てるゾーイ・ドゥイッチ、ホープ・デイヴィス、さらにサラ・ポールソンなどが女優として見事だ。

 

 

新年1月18日公開だ。(月刊日本 正月号より)