◆2015年8月23日(日)

3時37分、暗いうちから頭にヘッドランプをつけて太郎平小屋を出る。即行で黒部五郎岳に登って折立の登山口まで降り、14時10分発のバスに乗らなければならない。

太郎平小屋から黒部五郎岳までのコースタイムが約4時間50分、太郎平小屋へ戻って来るのが3時間50分、太郎平小屋から折立までが3時間・・・トータル11時間40分・・・とガイドブックには書いてある。

・・・いくら飛ばしても無理かもな。

わたしは半ば諦めていた。

日の出までには一時間くらいあるので、辺りはまだ、まっ暗。その漆黒の空には夏の明け方なので冬の星座であるオリオン座が雄姿を見せつけている。




太郎平小屋の前にある分岐点を右へ行く。

幸いにも道は木の板で作られた木道をたどって行けばいい。頭に着けたヘッドランプに照らされた前方の視界は狭いがなんとかやっていけそうだ。

・・・あれっ?

遥か前方左側に小山が見えるのだが、その頂上付近に(最初の記事では中腹と書いたが)ヘッドランプの灯りらしきものがかすかに見える。

・・・俺より、先に小屋を出たやつらだな。うらやましい。もう、あんなところにいやがる。

わたしは思った。

わたしは黙々と木道を歩いていき、たまに見上げて先ほどのヘッドランプの灯りを確かめた。

・・・おやっ?

ちょっと灯りが普通じゃないように思えて来たのだ。まず、灯りはたった一つだけで、先を歩いている筈なのにずっと同じ付近にある。そして、気のせいかふわふわと漂っているような動き方をしている。





そうこうするうちに木道は途切れ、いよいよ山道に入って行く。わたしは道を間違えないように周囲を確認しながら慎重に進んで行った。


・・・おやっ?

見ると先ほど遠いかなたに見えていた例の灯りが割と近くに見えるのだ。

しかも、段々とこちらに近づいて来るようにさえ感じる。


そして、4時15分、わたしが最初に灯りを見た時に灯りがあった場所からほんの少し下った辺りに来た時である。

「小屋って近いわよね?」

その人物はとうとうわたしの目前に姿を現した。私同様に頭にヘッドランプを着けている若い女性がひとり。

小屋とはわたしが30分ほど前に出た太郎平小屋のことらしい。

「近いと言っても30分くらいはありますよ」

「ホント?30分もあるの?参ったな」

「そうですよ。がんばって下さい」

われわれはそのまま、すれ違って、とおり過ぎて行った。

それが、わたしが以前、このブログで書いた”幽霊らしき女性”との遭遇の場面だ。

※その時の記事はこちら

今考えてみても妙な話である。その若い女性はたった一人で未明の4時に黒部五郎岳方面から歩いて来た。会話の内容から考えてみても彼女が太郎平小屋から来て引き返して来たのではなく、黒部五郎の方向からやって来たことがわかる。

その先には山小屋もキャンプ場もまったくない。わたしが女性と会った地点から黒部五郎岳方面にあるのは歩いて6時間くらいかかる場所にある黒部五郎小舎くらいなものなのだ。




5時19分、北ノ俣岳へ登っている最中、ようやく日の出をおがむ。幽霊女?とすれ違って一時間後のことだ。




5時21分、ほぼ、日の出直後に北ノ俣岳の頂上に到着。標高2661メートル。




北ノ俣岳の頂上付近からの景色は幻想的である。黒部五郎岳へと続く道も、朝もやがかかっていて、なにか浮世離れしているように思える。




遠くに槍の穂先が見える。

・・・来月はその頂に登るで!(なぜか関西弁)




行く手になだらかな丘が見える。

・・・やったー!今日はハイキング気分だ!

なんて、思っていたのだが・・・。




6時2分、赤木岳(標高2622メートル)の岩ゴツ攻撃に苦戦する。




6時15分、赤木岳を通過してほっと一息。




6時28分、中俣乗越に到着。さあ、黒部五郎がもうすぐだ!




6時38分、ハイマツ帯のつづら折りのザレた登り道を進んで行く。




7時15分、ちょっとおもしろい形の岩場をとおり過ぎる。




7時49分、黒部五郎の肩に到着。黒部五郎岳の頂上まで後少しだ。時間があったら頂上へ行った後に、ここから左へ行って有名なカールへ行ったのに、その辺が残念である。



黒部五郎岳の”五郎”は石がゴロゴロしている様をいう”ゴーロ”という言葉をあてたらしいのだが、頂上はまさに石がゴロゴロしている。




後少しで頂上というところでトラブル発生!知らないうちにデジカメのSDカードが容量の少ないものが入っていたので容量オーバーになってしまったのだ。

必死にSDカードを交換していたら、少し前まで見えていた青空が雲に覆われてしまった。




8時5分、ついに黒部五郎岳に登頂。

これでこの年、雲取山、大菩薩嶺、瑞牆山、金峰山、甲武信岳、剱岳、薬師岳、そして今回の黒部五郎岳と日本百名山を8座目の登頂となった。通算では22座目である。

そして頂上で太郎平小屋の弁当を食べる。1週間前は剱岳の頂上で弁当を食べていたし、なんという幸せなんだろう!

ただし、曇っているので頂上の景色は良くない。しかも、コースタイム4時間50分のところを4時間25分で登ったことになり、あんまり短縮できていない。

・・・14時10分までに折立へ行くのはちょっと無理だな。

あきらめムードになりながらも開き直ることにする。




9時ちょうど、下山の途中、中俣乗越を過ぎた後のひとつ目のピーク近辺で雷鳥の子供たちに遭遇。すごくかわいい。






10時28分、北ノ俣岳の手前付近で少しずつ青空が見えて来た。




10時59分、未明に幽霊女?のヘッドランプがふわふわ漂っていた丘の上がもう少しだ。

この辺で天気が快晴って感じになってうれしくなる。




11時20分、いよいよ、太郎平小屋へ向かう長い木道をひたすら歩く。




11時35分、太郎平小屋に到着。

・・・もしかしたら、後2時間半で折立へ行けるかも知れない。

太郎平小屋から折立までのコースタイムは3時間。ここで少しだけ希望が出て来た。




太郎平小屋から折立までは最初はこんな感じで、途中から森の中を下って行く。

わたしは無我夢中で駆け下りて行った。

すると・・・。




13時50分に折立に到着!!

無事、14時10分発の富山行きのバスに乗れました。めでたし、めでたし。




16時46分、富山駅から少し歩いたところにある『小馬』っていうお店でオムライスを食べました。

やっぱり、登山の後は美味しいものを食べるのに限る。(笑)