死を前にした人が遺言するのに遺言内容をすべて口で伝えなくてはならないか | 川崎市宮前区の相続・遺言・家族信託・終活の相談室 雪渕行政書士事務所

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介護離職を経験して復活した終活サポーター・行政書士の雪渕です

遺言と遺留分

Q
 入院中の父の症状が悪化して遺言書を自分で書くこともできないため、かねて作成してあった遺言書の草案を用いて危急時遺言を作成することになりましたが、遺言者が遺言の趣旨を口授したといえるためには、遺言者が遺言の内容全てを逐一口頭で述べなければいけないものでしょうか。

A

 遺言内容全てを逐一口頭で述べなくとも、証人が遺言者の真意を確認できるだけの発言があれば口授があったといえます。

危急時遺言における口授

 危急時遺言において、遺言者は証人3人以上の面前で遺言の趣旨を口授しなければならないものとされています(民法976条)。
 口授が求められているのは、遺言者が特定の内容の遺言をする意思があることを明らかにするためですから、遺言者が遺言内容をすべて発言しなくても、メモ等を用いて遺言しようとする内容が確認できれば足ります。しかし、形式的に「はい、そのとおりです。」などと述べても、遺言者がその内容を理解していないと認められる場合には、口授があったとはいえません。


具体的な事例


 以下に危急時遺言の口授があったとされたいくつかの事例を紹介します。

 遺言者の意向にもとづいて遺言書の草案が作成されていたところ、入院するなどしたため危急時遺言を作成することになり、証人たるべき者が遺言者に対し、「遺言するんですか?」と質問したところ「はい」と答えたので、どういう内容の遺言をするのかを質問したところ「お松にやる」と答えたので、「何をお松にやるの?」となお質問したところ「家」と答えたため、「家」、「お松」についてさらにその意味を尋ねた上、遺言者の真意を確認するために他の相続人の名を挙げてそれらの者に相続させる意思の有無を確認したが、「いや」などと答えたので、草案を読み上げて間違いないか確かめたのに対し「はい」と答えたという場合、特定の内容の遺言をする意思があることが明らかであったとして、遺言の趣旨の口授があったとされました(東京地裁判決昭和59年7月30日)。

 次に、もう少し簡略な例ですが入院中の遺言者からかねた依頼されて作成された遺言書の草案があったところ、「先生が書面を持っているなら、それを読んでください」と言うので各条項毎に読み上げたうえ、平易に説明したところ、明確に「それで結構です」などと口頭で肯定したため、改めて各条項を逐一読み上げて間違いのないことを確認したという場合、口授と筆記の順序が前後しており、かつ遺言者の発言が「それで結構です」など極めて簡潔であっても読み上げと相まって遺言者の真意を一義的に確認し得る状況にあったことは明らかであるとして、この場合も遺言の趣旨の口授があったものとされました(東京地裁判決昭和61年8月25日)。

 次も、比較的簡単な例ですが、入院中の遺言者の意向にもとづいて作成された遺言書の草案にもとづいて、証人たる医師が一項目ずつ読み上げて遺言者に確認したのに対し、遺言者が読み上げられた内容にその都度頷きながら「はい」と返答しただけでなく、遺言執行者となる弁護士の氏名が読み上げられた際には首をかしげる仕草をしたものの、その説明を受けるや「うん」と答え、また同医師から「いいんですか?」と問われて「はい」と答え、最後に同医師から「これで遺言書を作りますが、いいですね?」と確認されたのに対し、「よくわかりました。よろしくお願いします」と答えたという場合、遺言の趣旨を口授したものとされました(最高裁判決平成11年9月14日)。


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 「外国にいる日本人が遺言書を作成するには
」です。