佐智さんとアリアーナを引き合わせた翌日。
ドイツに行くまでまだ時間が少しあるので、仕事を片づけてしまわないと。
まず、請負っていた書類を片づけて、提出してしまうと同時にもう請負えない事を言っておかないといけない。
本来のバイオリン科助手の山室君に酷な知らせになるなぁ、と思いつつ、心の中で謝っておく。
だって、彼は、本当に大変なんだ。
各教授の書類が全部一度彼に渡るから、面倒な書類は君書いといてと教授達に押し付けられるし、楽器商との連絡係もやらされ、膠や弦などの買い出しや、生徒への休講等の連絡係もさせられ、教授と学生課の間に挟まれて、互いの主張を押し付けられて、毎回ボロボロになってる。
故に、つい、ぼくで出来ることは、引き受けていたんだけど、今度の助手がアリアーナじゃ、もう引き受けられないし。
でも、海外から来る講師たちのお世話は、楽になるだろうな。
基本皆さん紳士だから、レディのアリアーナに無理難題を言う事はないだろう。
サマースクールに来てくれるのはとても有難いんだけど、お世話は、大変だったよ。
なんせ文化が違うんだ。
温泉に裸で入れないとか、畳に机と椅子じゃないと食事出来ないとか。
なら、翌年はコテージでと用意すると、和室じゃないのかと言いだす参加者が出てきたり。
ぼくの分からない言語で何か呟いていたりして、神経がボロボロだよ。
なので、お世話係の手伝いに女子を必ず入れたけど、やっぱり苦情はぼくの所に来るんだよね。
思い出しても大変でした。
そうそう、事務局にアリアーナの身分証の発行も頼まないと。
書類はやっぱり日本語だよね、ぼくが代筆しないと。
とか、いつものカフェで書類を纏めていると、「ちゃすっ、葉山さん」とやって来る者が。
大学院生の篠田君だ。
「なんか、バイオリン科に凄い美人が来たらしいですね」
それは、きっとアリアーナの事だよね。
「なに。もう噂になってるの?」
「葉山さんあんな美人噂にならない方がおかしいですよ。で、彼女なんですか?」
「彼女って、付き合っているかってこと?まさか」
そんな恐ろしい事。あり得ません。王女様なんてぼくには、無理だって、相変わらずマナーは分からないし、会話も何話していいのか分からないから、ギイに相手をして貰ってるし。
「それじゃ、その前に来た。ロシア系美人が彼女ですか?」
ロシア系美人って、・・・あ、ウルスラさんの事か。そういや、大学のここで会ったんだった。
「彼女は、友達の彼女?」だよね、警察にそう言ってあるし。
「なんですか、それは。でも、葉山さんも周りって美形ばかりですね。井上教授も本当は、葉山さんと友達なんでしょう。シオンちゃんもそうだけど、この前、シオンちゃんと現れた友達も半端ない美形だったし、今回の美女ふたり。レベルが全然僕らの美形とか思っているライン超えちゃってますよ」
ライン超えるってなに?
「しかも、本人は、軽ーく国際コンクール優勝してしまうし。人間レベル違い過ぎますって」
「なに。何言いたいの篠田君」
本当になに言いたいんだろう。
「神様って残酷だなぁって」
はぁー大きなため息を吐いて、篠田君はテーブルに突っ伏した。