2013年6月に読んだ本 | NORISの絵本箱

NORISの絵本箱

つれづれなるままに、
季節にそって、いろいろなテーマにそって、
お気に入り絵本、おすすめの絵本をつづります。
いつもの読書、お気に入りのクインテットの記録なども。

今月もあまり小説のようなものは読まなかったなぁ。
絵本や気軽なエッセイばかりで、骨のある本は買ってもなかなか手が出ない。
それでもいろいろ読めているからよしとすべきか。

清水義範『もうなつかしい平成の年表』講談社
元は半村良にけしかけられて平成元年末に書き発表した「平成の年表」で、同じスタイルの
作品を十年間発表し続けてようやくまとまったとのこと。平成はじめの10年間(+あとがきの
11年目)は、20世紀末であると同時に、私自身の高校3年生~大学院の長い学生時代に
ちょうど重なっているのもなつかしく興味深かった。

村上春樹・柴田元幸『翻訳夜話』(文春新書)
作家にして翻訳家の村上春樹と英文学者にして翻訳家の柴田元幸の会場の人々からの質問に
答えることで進むトークセッションが聴衆を変えて3回分。肩のこらない文体ながら、
本質に迫り共感できる内容。細かな技術論ではなく、心がまえや考え方を語ることで、
瑣末な論争にならずに、よりよい翻訳を志す空気が伝わってきた。二人がたがいの十八番の作家の
短編の翻訳に挑戦したもの(+原典)をそっくり読み比べられるのもおもしろかった。

山藤章二『ヘタウマ文化論』(岩波新書)
問わず語りエッセイ。物真似の流れの中でタモリがどのように偉大かがはじめてわかった。
南伸坊もとりあげているが「変相」のほうにばかり気を取られてタモリから引き継がれた(と
察せられる)「思考模写」について言及がないのが惜しい気がする。

ジェーン・ウェーチャチーワ、ウィスット・ポンニミット、
小林真里奈訳『そらをみあげるチャバーちゃん』(こどものとも年中向き7月号)福音館書店
タイの作家の書いたお話に、日本でも人気のタイ人のマンガ家によるかわいらしい挿絵。
朝から夕方までずっと空の雲をながめているチャバーちゃんにつられて空を見上げると・・・
素朴で、のんびりのびのびかわいいお話。登場人物の姿やお仕事が異国情緒があるというか、
日本にも何十年か前にあった古きよき時代を思いださせる。最後はおもしろいオチもあり。

小山泰介『街は生きている』(たくさんのふしぎ7月号)
写真絵本。近所を散歩してみつけた金属のサビや劣化など、味のある状態になったものを接写
するとあら不思議、なんだか現代アートのよう。風雨と年月にさらされて刻々と変わり続ける
あれこれ、まさに「街は生きている」だなぁ。

いせひでこ『チェロの木』偕成社
前々から気になっていた作品、入手。チェロという楽器がうちに秘めた歳月の重み、ひとの想いが
伝わってくるうつくしい絵本。著者自身がセロ弾きだからこそ生まれうる作品なのかな。

ナンシー関『ナンシー関 リターンズ』世界文化社
2002年に40歳で亡くなった消しゴム版画家にしてエッセイストの死後に編まれたアンソロジー。
冒頭の初期の文章はフィクションのようだけれど、こんな根を詰める仕事をしていたら40歳で
狂死してしまう、という筋書きを現実が後追いしたようでちょっと怖い。文章は短くばっさばっさ
と切る感じでなつかしい。こういうTVウォッチャーの存在はやはりかけがえがなかったと思う。

最相葉月『最相葉月のさいとび』筑摩書房
各種媒体に発表されたエッセイ、「震災と子どもたち」の論評、書評、テレビ評、競輪関係の
文章など盛りだくさんの一冊。本はともかく、テレビ評はおもしろそうなドキュメンタリーが
目白押しなのに、十年以上前の民放の単発企画がほとんどなのでいまは見るすべもないのが残念。

太田大八『かさ』文研出版(1975)
字のない絵本。女の子が長い紳士傘持って、赤い傘さして歩いていくのを近く遠くに追ってゆく。
モノクロの景色に赤い傘がはえる。絵からたくさんの気持ちや会話が読みとれるのがすてき。

筒井敬介・堀内誠一『あかいかさがおちていた』童心社
1965年にあかね書房から刊行されたものの復刻版。時期的には『ぐるんぱのようちえん』と
近いらしく、鮮やかな色づかいやおおらかなタッチとジャングルのいろいろな動物たちが
かさを手に入れて試行錯誤するユーモラスなお話の展開がよく合っている。手書き文字の
タイトル、裏表紙の地図、見返しのデザインなども堀内さんらしく楽しくてすてき。

山本夏彦『「豆朝日新聞」始末』(文春文庫)
たった二十年前(書かれた時期で行けば四半世紀前)にまだまだこういう文章を書ける人が
いたんだなぁ。ことばはちょっと古くとっつきにくい部分もあるけれど内容はぜんぜん
ふるびていない。正義を売り物にしてはいけない、とか、今の世相によくあてはまって
どきっとすることばかり。そして、痛烈だけれど、あたりまえのことしか書いてない。
いまはこういうことを言える人がいなくなり、ますます窮屈な世の中になってしまっている。

石坂啓『学校に行かなければ死なずにすんだ子ども』(幻冬舎文庫)
タイトルはちょっと刺激的だけれど、内容は学校や先生をめぐる四方山話。
態度や言い方はやや過激に見えてもそんなに外れたことは言っていない。学校との距離のとり方
やものの考え方、大人と子供の関係のとらえ方などにも共感できる。でも、相性の良し悪しは
あるかもしれない。集団からはみ出すことを恐れて、無難に、なにごとも横並びで安心している
人から見ればやっぱりマイノリティなのかもしれないなぁ。

和田誠『ことばのこばこ』瑞雲舎
見開き1ページに1つずつ18テーマのことばあそび。二字とり、回文、折句、アナグラム、
あいうえお歌にかぞえうたなど、基本的なやさしいもの、世間でおなじみのものから
和田誠さんオリジナルの力作まで、シンプルで楽しいイラストと書き文字でかかれている。

マリア・テルリコフスカ、ボフダン・ブテンコ、
うちだりさこ(訳)『しずくのぼうけん』福音館書店
バケツからとびでたひとしずくが、よごれたからだをきれいにしたくてクリーニング屋や病院を
たずね、そのうち日にあたって蒸発して空に昇り、雨になって降り、氷になってまたとけて
川から上水道を通ってまた人の暮らしのそばに・・・とどんどん循環してゆくのをおってゆく、
ポーランド発のロングセラー絵本。元々のイラストもポップでかわいいけど、さらに
堀内誠一さんの書き文字で楽しくしゃれた雰囲気の作品になっている。

織田道代・古川タク『ほっぺたおちた』(たくさんのふしぎ2002年6月号)福音館書店
慣用句、比喩的に使われる言いまわしなど、いつもは何気なく聞いたり使ったりしているけれど、
よく考えてみるとちょっとふしぎだったりおかしかったりする表現を集めた本。
「緑の黒板」「パンを食べても朝ごはん」や七五調、親族名称、擬音語擬態語から「トイレ」や
「さよなら」のヴァリエーションまで手広くいろいろ紹介していて楽しい。

大谷峯子・飯野和好『方言どこどこ 日本あちこちいろんなことば』
                     (たくさんのふしぎ1996年4月号)福音館書店
ふしぎな下駄を拾った女の子が下駄とともに時空をひとっとび、浅草の下町言葉、沖縄、長崎、
青森の恐山、道頓堀、名古屋、高知、北海道でそれぞれの土地の言葉に出会う。ことばだけで
なく、それぞれの土地らしい心にもふれられる会話が展開して、ことばで日本一周した気分。
飯野さんのダイナミックな絵もたのしい。

末次由紀『ちはやふる・一』(講談社BeLoveKC)
うわさの百人一首コミックを遅まきながら。小学生編からのスタートなので、小学生の娘たちも
無理なく、というか案の定すっかり夢中に。「やまとなでしこ」とか「和の心」ではなく、
はっきりスポ根路線+友情~淡い恋が描かれていて、たしかに続きが気になる。
いま22巻ぐらいまであるらしく、大人買いは毒なので、一冊ずつゆっくり書い足していくことに
しよう。

まど・みちお、美智子『Eraser けしごむ』『Rainbow にじ』文藝春秋
対訳版の二冊の詩集。『けしごむ』のほうは長くても5行ぐらいの「まめつぶうた」を中心にした
21編、もうひとつの『にじ』はもう少し長めの(でも1ページに収まる程度の)作品も入った
詩集。どちらも余白をたっぷりとったページの左に日本語、右に英訳、そしてシンプルな挿絵が
添えてあって、一冊ずつでも、二冊ペアにしてでも、贈りものにもよさそうなすてきなつくり。