展覧会の情報は、新聞や雑誌から仕入れることが多い。
「ん? 何だこのキレイな陶器は。アール・ヌーヴォー?」
 実のところ、陶器ではなく磁器だったのだが、三井記念美術館で開催中の「アール・ヌーヴォーの装飾磁器」という展覧会の写真に目を奪われた。
「三越前か。金曜なら17時から1000円だから、ミキと夕飯食べて帰ろう」
 フットワークは軽いほうだ。気になったら、パッパと行動に移す。
 それにしても、三井記念美術館は恐ろしく豪華な施設だった……。
 エレベーターの扉を飾るデザインや、展示品の微妙な間隔に床の色、係員の優雅な物腰まで「ザ・財閥」という看板を背負った雰囲気である。「上野そこらの、大衆的な美術館とは違うのよッ」と無言で主張しているようで、非日常感が全開になる。
「鉛筆? はい、こちらにございます。お返しいただかなくて結構ですので」
 メモ用の鉛筆だってプレゼントフォーユー。太っ腹であった。
 アール・ヌーヴォーとは何か。
 19世紀末から20世紀初頭にかけて全盛期を迎えた装飾様式のことで、花、樹木、虫、動物などをモチーフにし流れるような曲線によって構成される特徴を持つ。

1

 チラシの女性は、この作品の美女を拡大したものである。(以下リーフレットより)

2

「上絵金彩エジプト女性センターピース」
 センターピースとは食卓の中央を飾るアレンジメントを指すそうだが、大昔の貴族社会ではメインコースが終わると、その家の美術品がテーブル中央に持ち込まれ、鑑賞する習わしがあったという。この美女たちも、目の肥えた貴族たちからねちっこい視線を受け、絶賛されたに違いない。
「ふーん、青椒肉絲とかを入れたわけじゃないんだね」
「……」
 ミキはお腹が空いていたらしく、料理が盛られている場面を想像していた。
 だったら、カルボナーラのほうがピッタリするような気がするのだが。
 猫や白鳥、熊といった「動物」が続き、新聞に載っていた大物が登場する。
「釉下彩鷺センターピース」

6

「わあ、おっきい! キレイだねぇ」
 これは本当にエレガントだった。白を基調に、ところどころに青や金を散りばめており、上流社会の象徴に見える。上部は丸く平坦になっており、ちょうどピザが収まりそうだと思った私は、間違いなく庶民であった。
 動物や植物はいいのだが、「虫」は曲者である。
「うへぇ、何これ」
 展示室4以降は、バッタにカタツムリ、トンボにゲンゴロウ、ウソでしょうの蛾に、まさかの蜘蛛までが皿やカップにへばりついていた。なぜ、よりによって、虫をテーマにするのか理解できない。
「Oh」
 私たちの後ろでは、外国人女性2人組が鑑賞していた。
「I don't like it」
 私も娘も「プププッ」と噴き出しそうになったが、かろうじて抑えた。それとも、振り返って「Me, too」と応じるべきだったか。
 でも、ニュンフェンブルクの「カタツムリ」は可愛かったから許容範囲だ。

4

 展示室7のローゼンブルフの「上絵花図ティーポット」は素晴らしかった。

7

 これは何だったか忘れたが、素敵であることには違いない。

3

「よかったね」
「うん、虫以外はキレイだった」
 満足してレストランに向かった。
 さて、この先のお楽しみも待っている。
 10月7日から始まる「デトロイト美術館展」の前売り券をゲットしたのだ。

5

 通常の前売りと同じ1400円で、クリアファイルの特典がついているところがうれしい。
 さあ、今度はこれに行くぞ~!
 虫はいないでしょうね?

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 「これはしたり~笹木砂希~」(エッセイ)
 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)