寺入りの段
一字千金二千金、三千世界の宝ぞと、教へる人に習ふ子の中に交はる菅秀才、武部源蔵夫婦の者、労はり
子供集めて読み書きの器用不器用清書きを、顔に書く子と手に書くと人形書く子は頭かく、教へる人は取分けて世話をかくとぞ見へにける。
中に年かさ五作が息子
「コレ皆これ見や。お師匠さんの留守の間に、手習ひするは大きな損。おりゃ坊主頭の清書きした」
と、見せるは十五のよだれくり
若君はおとなしく
「一日に一字学べば、三百六十字との教へ。そんな事書かずとも、本の清書きしたがよい」
八つになる子に呵られて
「エヽませよ、ませよ」
と指差して、
残りの子供
「兄弟子に口過ごすよだれくりめを
と、手ん手に
主の女房奥より立出で
「またこりゃ例の
「ソリヤまた嬉しや休みぢゃ」
と、筆より先に読み声高く。
「いろはに」
「この中は
「
の、男が肩に堺重、文庫机を担はせて、利発らしき女房の、七つばかりな子を連れて
「頼みませふ」
と言ひ入るゝ。
内にもそれとはや悟り
「こちらへお這入り遊ばせ」
と、言ふもしとやか
「アイ、アイ」
と、愛に愛持つ女子同士、来た女房はなほ笑顔。
「
「アイ、これが源蔵殿の跡取りでござります」
「これはこれはよいお子様や。ほかにも大勢の子達、いかいお世話でござりましょ」
「アイ、御推量なされて下さりませ。シテ寺入りは、このお子でござりますか、名は何と申します」
「アイ、小太郎と申しまして、腕白者でござります」
「イヤ。イヤ気高いよいお子や。折悪ふ今日は連合ひ源蔵も、振舞ひに参られました」
「これはマア、お留守かいな」
「アヽイヤ、お待ち遠なら、私が呼びに参りましょ」
「イエイエ、幸ひ私も参つて来る所があれば、そのうちにはお帰りでござりませふ。これ三助、その持って来た物、あなたの傍へ上げませ」
『アツ』と答へて堺重、
「これはマアマア言はれぬ事を」
「イヤ、おはもじながらこの子が参った印。この堺重は子達への土産、取り弘めて下さりませ」
と、言はねど知れし蒸物煮しめ、わが子に世話を焼豆腐、粒椎茸の入れたるは、
「これはマア何から何まで、取揃へて御念の入ったこと。戻られたら見せませふ」
「イヤモ、ほんの心ばかり。よろしうお頼み申し上げます。コレ小太郎、ちよっと隣村まで往て来る程に、おとなしうして待ってゐや。悪あがきせまいぞ。御内証様、往て参じましょ」
と表へ出づれば
「かゝ様、わしも行きたい」
と縋り付くを振り放し
「嗜めよ。大きな
「ソリャ道理いな。ドリャ、
と目で知らすれば
「アイアイ、ついちよっと一走り」
と、後追ふ子にも引かさるゝ、振返り見返りて、下部