皮肉な種の卑屈な芽。 / 黒百合と影 | 安眠妨害水族館

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皮肉な種の卑屈な芽。/黒百合と影

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1. 「浴槽」~introduction
2. キミの薬指はボクのシチュー。
3. 蜥蜴-トカゲ-
4. チヒロちゃんの眼球舐め
5. ‐それは規則正しい不眠症‐
6. ギチギチ
7. ヨコハマメリー。
8. チャイルドマザー
9. ひとり桜。
10. 「月蝕」
11. 絵の具まみれ
12. へその緒
13. 「未遂」
14. 断崖地獄喉輪落とし

黒百合と影の一枚目フルフルアルバム。
フルフルアルバムって一体何だ。

ブックレットには歌詞を記載せず、指示が書いてあるだけ。
歌詞は盤面にみっちり書き込まれており、これは読みにくいったらありゃしない。
良くも悪くも、ギミックにこだわった、といったところでしょうか。
ヴィジュアル系らしいなぁ、とは思います。

アルバムの構成についても、それは言えること。
「浴槽」でどす黒くスタートすると、アウトロにオープニングSEがくっついてくる。
普通なら、最初にSEを入れて、リードトラックを、という流れになっていたりするものだが、こういう捻くれ方は嫌いじゃない。
ラストの「断崖地獄喉輪落とし」も、未完成のままぶっ込んでいるみたいで不思議。
途中でフェードアウトしていくので、次回作の予告編がくっ付いてきたような終わり方です。
色々と、奇をてらったことをしてくれそうなワクワク感は出ているのかと。

一方で、楽曲や世界観に関して、オリジナリティは、まだまだこれから。
シングル3枚を聴いた限りではフレーズの一部にDir en greyっぽさが見え隠れしていたのだが、フルレンスで並べてみると、むしろDEZERTを意識しているのだろうなぁ。
最近流行りの、古き良きコテコテ系への回帰。
それに現代的なライブのノリや、身近な狂気を描くような世界観を足して、サブカル的な雰囲気を醸し出していく路線を狙っているイメージです。
タイトルもそんな感じですよね。

この手の音楽性が好きな人は多いだろうし、そういう観点では安定して聴ける作品ではある。
その中で、圧倒的なテクニックなり、インパクトある楽曲なり、何らかの強みを見せることができれば良かったのだけれど、そこでのパンチが足りなかった印象は否めません。
あとひとつピースがハマれば。
あとひとつ個性化ができれば。
どうしても、パッケージのギミックばりに、楽曲にも新鮮さと斬新さを求めたくなってしまうのですよ。

バラエティは豊富。
コンセプトはないと言い放つも、アルバムとして緩急のある作品であり、クオリティは決して低くはない。
現代バンドにしては同期は控えめで、バンドサウンドが立っているのは好印象だし、素材としては伸びしろが感じられるだけに、どこでアピールをしていくかが重要になってきそうです。
量産型ネオ・黒系バンドの域から、何としても早めに脱出したい。

このもどかしさを、次作では、カタルシスに変えてくれることを期待しましょう。
フォロワーが出てくるとは名を上げたものだ、とDEZERTのほうに感心してしまった一枚。

<過去の黒百合と影に関するレビュー>
「浴槽」 「月蝕」 「未遂」