月蝕 / AvelCain | 安眠妨害水族館

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オバンギャと初心者に優しいヴィジュアル系雑食レビューブログ

月蝕/AvelCain
 

1.精神
2.月蝕
3.裁

AvelCainの会場限定&店舗限定シングル。
それぞれ、ジャケットが違いますが、収録内容は同一です。

下の図の右側、黒いジャケットが会場限定盤。
左側の白いジャケットが、fiveStars限定盤。
ふたつ合わせると、上の図のとおり、ひとつの絵になるという仕様。
黒ジャケが限定222枚、白ジャケが限定111枚という枚数設定には、何か意図があるのでしょうか。
SE+2曲の新曲で500円という手を出しやすい価格設定も手伝って、白ジャケは即日完売になったようです。

本作は、ex-Lycaonのeveさんがサウンドプロデュース。
SEである「精神」は、クレジットが記載されていないので詳細不明ですが、「月蝕」と、「裁」については、作曲まで手掛けております。
この規模のバンドで、プロデューサーから楽曲の提供を受けるケースというのは、なかなか珍しい気がしますね。

不協和音を奏でる、壊れたオルゴールの音に、子供の泣き笑いの声が重なり、扉が開くサンプリング音・・・
SEから、ここまでにコテコテなヴィジュアル系を演出するかというベタベタ感。
古き良きの名古屋系の再興をテーマに据えているようですが、ジャンルとしては、最近目立ってきた90年代の再構築型のバンドに括られるのでしょう。

表題曲である「月蝕」は、ハードでスピード感のある演奏に、艶やかなボーカルを絡ませるダーク・メロディアスナンバー。
同期にはあまり頼らず、ツタツタ走るドラムと、荒削りなギターサウンドで攻めるスタイルは、確かに90年代的。
歌が苦しくなってくるタイミングで、シャウトに移行するあたりも、懐かしさを感じる手法をとっていますな。
危うさはあるけれど、音質については現代の恩恵を受けていることもあり、相応に聴きやすさも確保。
なんだかんだで、このメロディラインは嫌いじゃないです。

「裁」では、シャウトの割合を高めていきますが、演奏は、よりタイトになった印象。
スピーディーに疾走する部分と、ミディアムにドロドロと進行する部分のバランスが、よく研究されており、ハードな展開の中に、マニアックさを織り交ぜてきた。
サビでテンポが少し落ち着くので、単純に激しい曲が好きな人には物足りなさはあるかもしれませんが、この辺が、名古屋系を意識したところなのかな、とも思います。
途中、オリエンタルな雰囲気を醸し出す場面があったり、語りで世界観を濃くしたりと、演出が過剰すぎるくらいに盛りだくさん。
ラストシーンも、高揚感があって気持ちが良いです。

率直に言って、スキル的には、どうも心許ない。
ボーカルも、演奏も、勢いでなんとかしました!的な部分は否めません。
しかし、それをどうにか演出でカバーしようと、創意工夫を凝らしているのには好感が持てる。
音楽的には、二番煎じの域を出ないのだけれど、刀に人形、その他諸々の小道具を用いて、視覚的にインパクトを出そうとするライブパフォーマンスなど、懐古主義者に媚を売るだけではなく、現代のファンを取り込んでいこうとする意識が見えるのは良いですね。

懐古主義も、Ains所属バンドを中心としたコテコテバンドへの回帰や、池袋手刀界隈の黒服系へのリスペクト的なバンドは飽和されつつある状態。
その中で、名古屋を拠点としている地の利を活かし、ドーレコ全盛期時代の名古屋系を志向するというのは、案外ニッチで、ニーズはありそう。
当時の名古屋系バンドで例えるのであれば、Lamiel、Phobiaを目指しているけれど、出来上がったのはVizellみたいな。
今だからこそ、ジャリ名古屋系が聴きたいという人は、AvelCainに注目してみても面白いかもしれません。