名もなき森の夢語り / D | 安眠妨害水族館

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名もなき森の夢語り/D
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1. 光の庭
2. 名もなき森の夢語り
3. Canis lupus
4. 知られざる子供達
5. 三角お屋根と哀れな小熊
6. Like a Black Cat ~無実の罪~
7. 春の宴
8. 象と人と蟻と…
9. 名もなき森の夢語り (Voiceless)

命の源の象徴でもある「森」をコンセプトにしたミニアルバムとのこと。
Dにとって、流通に乗るアルバム作品は、なんだか久しぶりですね。

Aタイプ、Bタイプには、それぞれ別のDVDが付属、Cタイプに、ボーナストラック「象と人と蟻と…」、および「名もなき森の夢語り」のインストバージョンを収録。
今年発売したシングルを収録すれば、フルアルバムとしてのリリースも可能であったのに、あえて新曲のみのミニアルバムにしてきたあたりは、世界観へのこだわりを感じます。

インストである「光の庭」に続いて、表題曲に突入。
MVが制作されていることからも、この曲がリードトラックになるのだけれど、これがまた、Dというバンドを凝縮している内容に仕上がっている。

耽美的で荘厳なアカペラからスタートし、銃声のサンプリング音が鳴り響くとともに、ゴージャスなメタルサウンドに。
コンセプトを意識してか、神秘的なサウンドワークに特化していますが、この、やりすぎるくらいのゴテゴテ感がたまりません。
また、Vo.ASAGIさんの艶やかな声質を活かしたメロディアスパートと、長い活動の中でだいぶサマになってきたシャウト&デスヴォイスパートを、上手く織り交ぜた構成にも、彼らの強みをすべて注ぎ込んできたなと、ただただ感心させられた。

「Canis lupus」では、更に神秘性を増して、浮遊感があるミディアムナンバー。
この手の白系チューンだと、hydeライクなASAGIさんの歌い癖は相変わらずですが、幽玄な森の奥深くへ入り込むような前半パートを引っ張っていくには、このタイミングでの収録は納得です。
その次の「知られざる子供達」も、ミディアムバラード。
ASAGIさんの描く世界観は、従来から、童話をモチーフにしたようなものは多かったのですが、そのスタイルは、森というテーマに、ズバっとハマりますな。
巧みなファルセットを駆使しつつ、歌唱力のレベルアップ、表現パターンの充実を実感させる1曲。

再びテンポアップし、勢いを出していく位置に配置されたのは、「三角お屋根と哀れな小熊」。
ハイスピードな曲調の中でも、複雑なフレーズを弾きこなしたり、独特な譜割に挑戦したりと、テクニカルな演奏が堪能できる。
良い意味で、この曲は癖になります。
クラシックに通ずる様式美も意識されており、物語性も十分とあれば、これ以上何を期待しようか。
スピード感が増したところで、「Like a Black Cat ~無実の罪~」を畳み掛けていくところも、わかっていらっしゃる。
間奏のギターが格好良く、ストレートな疾走メロディも、高揚感を煽ります。

本編のラストは、「春の宴」で、しっとりと。
音使いが、どことなくおとぎ話のようで、メルヘンチックだなぁ。
メッセージ性も強く、森をテーマにした物語の裏に、もっと直接的なテーマがありそう。
なんとなく、意味深な終わり方だと感じました。

Cタイプでは、民族的な雰囲気を増して、アクが強い「象と人と蟻と…」が追加収録。
らしい楽曲だとは思いますが、締めにふさわしいナンバーだという気はしないかな。
その点では、最後に表題曲のインストが入って、エンドロール的に終わるのは正解かも。

ミニアルバムという、曲数が限られた媒体の中で、ゆるい曲が多めに選曲されているのは意外でしたが、森が持つ父性とでも言いましょうか、すべてを許してしまうような大きさを表現するには、きっとこれで良いのでしょう。
激しい曲が好きな人には、物足りない部分はあるかもしれませんが、久々に、濃い作品を送り込んできたな、と。
最近の傾向からは、どんな音楽性が繰り広げられていくか想像しにくかったのですが、考える前に、音を聴くべし。
どんなモチーフを使っても、コテコテな世界観に染め上げてしまう、ASAGIさんの本領発揮を見ることができますよ。

<過去のDに関するレビュー>
Alice
Paradox