悪徳の栄え / MASCHERA | 安眠妨害水族館

安眠妨害水族館

オバンギャと初心者に優しいヴィジュアル系雑食レビューブログ

悪徳の栄え/MASCHERA


1.悪徳の栄え 
2.LA MASCHERA
3.情熱の紅い薔薇
4.PARAFFIN FETISHIST
5.毒殺
6.Elysium
7.DEN-NO [BRAIN SEED ver1.0]
8.人類機械化計画
9.廃都幻影
10.サヨナラ

90年代V系バンドの中でも、玄人好みの感があるMASCHERA。
本作は、1994年にインディーズでリリースした1stアルバムです。

ヴィジュアル系バブルの中でメジャーデビューを果たす彼ら。
そのタイミングで一気に門戸を広げたわけですが、メジャーの楽曲に触れてから遡って聴いた層からは、賛否両論の声が聞こえてくるのが、この「悪徳の栄え」。
それもそのはず、なんだかんだでキャッチーで王道なメジャー以降の楽曲を期待して聴いてしまうと、この暗さにはびっくりするでしょう。

序盤こそ、王道感のある入りをするものの、全体的には、デカダンスな空気がピンと張りつめている。
そして、妖しく甘美なVo.Michiさんの歌声が、その世界観を立体的にしています。
打ち込みも相応に使用し、サウンドアプローチは、少し未来的な雰囲気。
一見、噛み合わない世界観とサウンドなのですが、デジタル化が進行しすぎて、文明が廃れてしまった、アナーキーな都市の情景が頭の中に浮かんでくるのですよ。

ダークで耽美なスタートから、サイバーでデジタル要素が強まっていく後半へのつながり。
最後は、再びデカダンスな現実へ舞台が戻るかのような作品構成になっており、ドラマ性が見られるのもポイント。
1曲1曲は、そこまでの起伏なく、淡々と進んでいくのに対し、俯瞰的な視点からこのCDに触れると、実は大きな流れがあることに驚かされます。

更には、個の楽曲を取り出しても、インパクトが大きい。
本当に毒を飲んでもがき苦しむかのような、耽美さで売る当時のヴィジュアル系バンドとは思えない「毒殺」での演出については、好き嫌いは別として一度聴いたら忘れられません。
「LA MASCHERA」のバンドサウンドとしての気持ち良さ、「人類機械化計画」のカオスな展開など、デジタルと人間味の融合も特徴となっており、何か強いメッセージでも込められているような深読みができるくらい。
「サヨナラ」では、台詞が重なって挿入されるシーンもあり、壮大なテーマがあったりするのかもしれませんね。

時代的、技術的な面もあって、音質はそこまで良くはない。
しかしながら、一回聴いて、暗いCDだね、で終わらせてしまうだけでは、あまりにももったいないです。
注ぎ込まれた熱量は、この暗さをはるかに凌駕している。
深みに嵌れば嵌るほど、味わいが増すアルバムと言えるでしょう。

強いて挙げれば、1曲あたりの時間がやや長めで、もう少しメリハリをつけても良かったでしょうか。

情報量の多さに、通して耳にすると聴き疲れしてしまう場合があるのでご用心。

ただし、がっつり世界観に触れる覚悟を持って聴くことができれば、十分再評価に値するであろう1枚です。


<過去のMASCHERAに関するレビュー>
orb