異形の快楽あるいは、廬世の夢 / 地獄絵 | 安眠妨害水族館

安眠妨害水族館

オバンギャと初心者に優しいヴィジュアル系雑食レビューブログ

異形の快楽あるいは、廬世の夢/地獄絵
安眠妨害水族館


1.錯乱神楽

2.異形の快楽あるいは、廬世の夢

3.腐蝕斑

4.Dying

5.囮


地獄絵の1999年にリリースされた2ndミニアルバム。

ボーカル、ギター、ベースの3人編成で、ドラムは打ち込みです。

クレジットには、リズムマシーンまで、メンバー扱いで「マーガレット」という名前が載っているので、ここだけ見ると、4人組みたいですね。


Vo.レアさんは、SCISSORS GARDENというソロプロジェクトにて活動中。

あまり表だった活動はないものの、地獄絵が解散する2000年の段階では、既にプロジェクトはスタートしていたということで、このゆっくりしたペースがお約束なのかも。


バンド名や、曲のタイトルから見てとれるように、ダークでおどろおどろしいアングラ路線。

ゴシックや、ドゥームの影響を受けながらも、アプローチとしては、ヴィジュアル系の様式に倣っているような歩み寄りを見せており、その結果、和風ホラーの世界観に辿り着いているのが面白い。

世間一般的にはとっつきにくい部類のサウンドに入ってしまうものの、王道的なV系シーンから、暗黒シーンへの導入としては、なかなか興味深いCDに仕上がっているのではないでしょうか。


1曲目の「錯乱神楽」は、ツタツタリズムと、サビのワンフレーズで押し込む、当時としては至ってベタな構成ながら、ドロドロとした歌い方と、打ち込みだからこその無機質、無表情なリズム刻みが異質さを放つ。

これが、暗黒系のサウンドが苦手かも・・・という人でも、「これなら聴けるかも」と思わせる、絶妙なライン。


巧みに門戸を広げた後は、表題曲、「異形の快楽あるいは、廬世の夢」で、よりディープな世界へ。

ワルツ調のリズムで、メロディがあるような、ないような、不気味な旋律を奏でます。

多分、意図的ではないのだと思いますが、ボーカルの不安定さが、上手い具合に気持ち悪さを演出していて、本作における、とっておきのダウナーナンバー「腐蝕斑」への繋ぎをスムーズにしている。

この「腐蝕斑」が、8分を超える長さでありながら、展開も抑揚もあまりない単調な曲なので、これを堪え切れるかどうかっていうのが、このバンドを気に入るかどうかの境目なのでしょうね。

玄人好みとでも言うのか、そもそも、楽曲が受け入れられることを拒んでいるのでは?というくらいに、キャッチーさは皆無。

序盤の2曲の勢いで、「こういうのもアリかな」と思わせていたとしたら、アーティスト側の大勝利なんですけど。


再び、王道寄りに歩み寄っているのが、「Dying」。

彼らの音楽性に慣れてくると、激しく、速く、シャウトも飛び交うこの楽曲が、浮いて聴こえてしまうくらいの攻撃的な1曲。

しかし、一番重要なサビに変拍子を持ってくるなど、捻くれ度合いは相変わらずですね。


最後の「囮」は、三拍子+ドロドロのお得意の展開。

途中、語りも入って、ホラーでグロテスクな世界観を強めます。

パンを振っての声の遠近感を狂わせる手法を使って、気持ち悪さを印象付ける工夫もあり。

ダラダラと続くように見せて、唐突に終わるラストも、らしさを感じさせる。


当時のシーンにおいて、この地獄絵は、王道バンドのリスナーからは、「暗すぎて聴きにくい」と言われ、生粋のアングラファンからは、「想像していたよりも普通」と捉えられる傾向があり、なんとなく不遇だったイメージ。

今ほど、V系のフィールドが多様化していなかったこともあり、中途半端と位置付けられてしまうことが多かったのですよ。


ただ、個人的には、本文のとおり、王道とアングラの架け橋として、貢献していたのではないかと考えています。

10年以上の歳月を経た今、本作を聴くと、あの頃感じたとっつきにくさは、不思議と感じない。

やっと、彼らに時代が追い付いてきたと言うべきか。

こういった音楽がシーンに定着したことで、改めて評価されても良いバンドなのかもしれません。