for a fleeting moment / 圭 | 安眠妨害水族館

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オバンギャと初心者に優しいヴィジュアル系雑食レビューブログ

for a fleeting moment.(初回限定盤)(DVD付)/圭
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1.nasus_autophobia.

2.oculus_cry symphony. 

3.fruncus_the salvation. 

4.lingua_sanity dance. 

5.auris_cranberry sky. 

6.cerno_mercy rain.


kannivalismのギタリストである圭さんが、バンドの活動休止中に活動していたソロワークス。

シュルレアリスムをコンセプトに、ヴィジュアル系の枠にとらわれない音楽を打ち出したミニアルバムです。


本作は、baroque後期に見せた音楽性の延長線上といったところなのですが、kannivalismの活動を経て、ソロ作品をリリースするにあたり、エレクトロニカの要素も強めてきています。

1stフルアルバムの「silk tree.」においては、まだまだ発展途上というべきで、強引に音を詰め込んだり、逆に足りなくなったりといった部分も見られたのですが、そこまで間隔を開けずにドロップされたこの「for a fleeting moment.」では、洗練されているというか、凝縮されているというか、とにかく無駄がないという印象を受けました。


どの曲においても、肌理細やかな打ち込みサウンドが綿密に重なって、不思議な聴き心地がある。

風に揺れるような、海に漂うような、この音になら身を任せてもいいやと思えるほどの浮遊感。

それは、どこか悲しい音色をしているのですが、聴いているうちに心が洗われて、浄化されていく気分になっていくのです。

聴覚で立体を意識できる。

誰も聴いたことがないはずの音の融合を、どうやったら、ここまで繊細なタッチで描けるものか。


一言でマニアックと表現すると、どうしても聴きにくい音を想像してしまうので、あえてその言葉は使いません。

違和感のある音の使い方をしていたり、変拍子で難しい構成であったり、かなり癖のある楽曲ではあるのですが、それが、こんなに気持ちが良い。

そういう意味では、彼が掲げる「シュルレアリスム」とは、なかなかうまくいったものです。

難解のようで、無駄がなくシンプルなこの音楽は、実にシュール、まさにシュール。


ボーカリストとしてのスキルは、率直に言って高くはない。

歌い癖などは、長年一緒にやってきた影響か、怜さんに似た感じですが、どうしても表現力は劣ってしまいます。

そこがもったいない部分ではありますが、この音楽性だったら、あまり気にならないかな。

歌を聴くというよりも、音を聴くという作品。

声と楽器とデジタルサウンドが、完全にひとつになっている感覚が聴きどころでもあるので、ある種、機械的なほうがハマっていると言えなくもありません。


これは、才能というほかないですね。

ヴィジュアル系としても、J-POPでも、大衆受けするジャンルの音楽ではないのですが、しっかり評価されるべきところで評価されてほしい作品。

バロックの復活などで、現在でも話題性が高いアーティスト。

バンド活動の合間にでかまわないので、たまには、ソロならではの世界観を見せてほしいものです。