天使のウイング / 春紫苑 | 安眠妨害水族館

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天使のウイング/春紫苑
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1,天使のウイング
2,蘇る金狼

マイナーながら、個人的には注目している春紫苑の、正式音源としては初となる2曲入りシングル。

会場で販売していたデモCDRは、ドラムの打ち込みが軽すぎてネックになってしまっていただけに、5人編成となった本作に期待が寄せられるところです。


活動開始当初は、初期のシドのような、哀愁歌謡をベースにしたバンドだった印象だったのですが、歌モノ重視という方向性はそのままに、幾分、ストレートなアプローチが増えてきた印象ですね。

メロディに、歌謡曲の要素は色濃く残っていますが、2曲とも疾走感のある王道路線で勝負してきています。

ここまで、捻らないストレートな曲構成は、近時ではむしろ珍しい。

それはそれで、ノスタルジックと言っても良いのかも知れません。


「天使のウイング」は、メロディ部分は低めのキーで抑え目に歌っていますが、サビでは一転して、声を張り上げるメリハリのあるメロディアスなナンバー。

キーを1オクターブ上げて、ガラっと印象を上げる手法は、珍しいわけではないものの、相応にスキルが求められるところ。

低音でピッチが甘くなったり、キーを上げたところで苦しくなったり、策に溺れるバンドも多いのですが、Vo.豹さんは、なかなかしっかりと歌い上げていますね。

演奏面などから推測するに、あまり、良い環境でレコーディングされているわけではないと思われますが、やはりボーカルのポテンシャルは高そう。

まだまだ完成されているわけではないですが、声を張って歌う部分は、ex-ヴィドールのジュイさんを思わせます。

展開に爽快感があり、クリアトーンを基調とした音使いも気持ちいい。


カップリングの「蘇る金狼」は、イントロのディストーションで歪ませたギターリフが印象的。

序盤から、激しさを感じさせる展開なのですが、歌が入ると、しっかりと歌謡曲になるあたり、歌モノを軸としてやっているバンドとして、ブレていません。

これまた、サビの流れるようで昂揚感のあるメロディが気持ちいいですね。

マイナーコードで疾走感があり、テンポも速いので、ダーク路線でありながら、切なさも感じさせる。

どちらかといえば、こちらのほうが好みです。

ベタベタなギターソロも懐古趣味的で、全体的な構成がわかりやすいところも、挨拶代わりのCDとしては、間違いなくアリ。


デモCDRで見られた音のペラペラさは、すべてのパートが生音になったことで、最低限のレベルはカバーできているかと思います。

当然ながら、録音技術的に、ミックスバランスや、音作りに改善の余地はありますが、どのレベルまでを求めるかは、バンドの規模も見ながら論じないと、現実的ではありませんので。

コテコテの哀愁歌謡路の要素は薄れたものの、王道メロディ、ストレートな展開、リードギターとバッキングギターというツインギターの在り方など、複雑化、細分化したシーンの中にあって、古き良き、往年のスタンダードを用いているのは好印象。

同期も使っておらず、90年代好きにとっては、しっくり馴染むのではないでしょうか。


もっとも、もうちょっと曲が増えてきたり、アルバムを作成したり、という段階になれば、構成面での工夫も必要でしょうね。

楽器隊は、無難にこなしたといった感じで、インパクトあるフレーズや、見せ場が少ない。

雰囲気作りで、鍵盤系の音も、あっても良いかと思いました。

ギラギラ、キラキラ系のシンセは似合いませんが、表現の幅は、増やしておくに越したことはありません。


課題は多くありますが、2011年、飛躍してほしいバンドのひとつ。

なんとなく、タイトルのダサさで損をしている気がしないでもないのですが(笑)


<過去の春紫苑に関するレビュー>

赤いアンブレラ