XPGのショウジョウバエホモログ | ぐうたら能無し教授の日記(坂口謙吾)

XPGのショウジョウバエホモログ

6-3、GENガチャピン


  この因子だけ別項目を設けたのは、述べたように、2009~2012年現在大いに国際的に話題にしてもらっているためである。どうせ、今年一杯ぐらいで、まもなく忘却の彼方に入る話題に過ぎないが、書くタイミングが合った今が何かの縁だろう、折角だから述べておこう。

 GENの発見は極めて偶然からだった。述べたようにHolliday Junction Resolvaseの探す試みは40年間非常に盛んだった。国際的にも大家、A級専門家と呼ばれる連中が必死のごとく探していた。そして“間違いの発見”が各地で出ては否定され消えていっていた。とうとう今では、最後に残された“分子生物学最大の謎”などとも呼ばれていた(最大かどうか?私は奇異に感じるが)。ここまで見つからないと、もはや、何かの偶然のキッカケしか出てこない。一方、私はそんなものを探すつもりどころか、ほとんど関心もなかった。そんな私のところに皮肉なことに、その“偶然の神”が微笑んだことになる。必死のごとく何十年もやっていた連中には、これは、やりきれない話だろうなあと思う。でも、大科学者や天下の秀才達が論理的に考えてやると見当外れになることが主なる見つからない原因だから、論理的に物事を考えず(院生の学位申請をし易くするという姑息な発想で)やっていた私のところで見つかるのはやむを得なかったのかもしれない。

 私の目的は、最初はRad2ヌクレアーゼ関連因子の一つXPGのホモログ遺伝子をショウジョウバエから取るつもりだった。このXPGという遺伝子は、色素性乾皮症(Xeroderma pigmentosum, XP)という人の非常にシリアスな遺伝病の原因遺伝子の一つである。XPは非常に著名な遺伝病で、紫外線に暴露されないようにするという話はドラマにさえなった。

 この遺伝病の原因遺伝子は少なくとも8種類あることが分かっており、それぞれA~G(XPA~XPG)までの7つと、更にもう一つはヴァリアント(XPV)と名付けられている。これらは、いずれもNERに関係する遺伝子であり、この遺伝病はDNA修復異常が原因であることが分かっている。NERの研究はこの遺伝病の存在のおかげで、早くから研究が進んでいた。そのため、私の若い頃はDNA修復のメカと言えば、まずイの一番にNERが出てきた、他のメカはまだ分かっていない、という話が多かった。でも逆に言うと、遺伝病であるから患者は生まれ生存しておりNER異常は致死ではないことになる。紫外線に浴びることを避けておれば、かなり長命な遺伝病でもあることから、人が(いや、生物が)生存しつづけるにも、NERは、さほどには重要ではないことになる。一般に他の生物種の遺伝子の研究で分かっていることは、分子生物学的に最も重要なメカは遺伝子欠損を創ると致死になることである。つまり、NERはDNA修復反応中ではややマイナーに属するメカになる。今に至れば、実際にそうだったことが分かっている。

 XPは人の遺伝病であるから人での研究が一番進んでいたが、逆に人故に不可能な実験研究もある。特に遺伝学上の人為操作を伴う研究手法は倫理上不可能である。私の狙いはそこにあった。そこで、ショウジョウバエを用いて、制約なく詳しく分子メカを解析しようと言う簡単な気持ちで、新たに入ってきた学生に、XPGのショウジョウバエホモログを取らせようと思ったのである。なぜ、G型かというと、元来、私はDNAポリメラーゼというDNA合成酵素と、このDNAを破壊するヌクレアーゼという二つの両極端部分の化学反応に興味があったからである。何事も“破壊と建設”である。議論し易く論文になり易いし、なぜか、この両極端はライバルが少ないので、学生の学位申請に丁度良かった。私のやることにたいした根拠はない。



つづく



          発売中ですビックリマーククリック
ぐうたら能無し教授の日記(坂口謙吾)