GENとSCE | ぐうたら能無し教授の日記(坂口謙吾)

GENとSCE

6-2、DNA修復因子shokopon



 そのため、とにかく出来る間は研究を続け、これらの研究をやった学生達の名誉を守る必要がある。定年を超えて、学生を取れなくなって人手の足りなくなった私の研究室では、総説を書きまとめる暇もなく、今もこの研究に追われているのである(幸いにも定年は延長されて今2012年現在も研究室はある)。一段落したらそれから総説は書く予定である。正直な話が、今までに研究したショウジョウバエの因子群の中でGENが特別の発見だとは思わない。これと同程度の発見の価値は、上記のほとんどの因子に言えることである(例えば、DDB-1やMer3、Rrp1、PCNA2、TRF4などの研究は、これから話題になるだろうという因子である)。GENも実は1ヶじゃなくかなりの種類がありそうである。それもPCNAのように、GENも動物では遺伝子による多様化だが、キノコつまり菌類ではスプライシングによる多様化という印象がある(2012年現在、未発表)。

 GENは、たまたま定年前に話題になったに過ぎない。しかし、自分の名前が他人によってNatureなどの雑誌で大いに語られると、周りは驚きドンドン日本国内でも話題にしてくれる。それだけのことである。私が思うに、DNAの組換えにもっとも重要なのはRecAであり、その他ではない。ところが、RecAは既に40年前から調べられた全ての生き物で見つかっている。

 そしてもう一つ私にはGENの研究を継続せねばならない理由がある。このGENというタンパク質とは無関係に、私は1970年代後半からずっと1980年代の終わり頃まで染色体の形態観察の分野になるが、姉妹染色分体交換(SCE、後述する)の分子メカニズムの推定研究を行っていた。その際にDNA複製に際して、その複製点で組換えが発生し、そこにはそれをやる特別なタンパク質因子があるという予言をした。1981年のことである。一時これが話題になり私の名はプチブレークしたことがある。SCEのメカと発癌のメカは密接に関係があるらしい、ということは早くから国際的に言われていたからである。しかし、それに当るタンパク質が見つからず、たちまち過去の話になってしまった。そのような方向の研究は頓挫し今に至っている(当然、SCEの研究が進まぬ限り、発癌のメカも未だ五里霧中の中になる)。ところが最近になって思うに、このGENがどうもそれに当る可能性が高い。

 このような複製点における組換えを考えた場合は、既存の有り触れた考え方をすると単純に「一見、複製点にHolliday junctionが出来る」ような仮定が必要だが、そういう仮定は高速で移動する一過性の構造の中にはかなり無理がある。むしろ、そこではラギング鎖かリーディング鎖のどちらかに切断が入りPRR機構の変形のような構造から組換えに入る方が合理的である。ところが、このGENはHolliday Junction Resolvase 活性以外に、そういう活性機能も併せ持っていることを私の研究室で2006年に発見した。PRRをキャタライズするResolvaseも見つかっていないが、あるいは、それもGENかもしれない。

 今の言われている理屈上では、PRRにはDNA切断は不要だが、それはその過程の中にDNA切断が起きるという仮定が入っていない“思い込みシステム”モデルのせいである。モデル自体に根拠がない。PRRの研究や考え方は1970~1980年代までで、それ以後あまり研究が進まず停滞状態に陥っている。このメカから生まれる組換え修復は明らかにHRやNHEJとは異なる。これこそが発癌の原因ではないかと思われる。通常発癌は長年にわたる身体の組織替えのための細胞群のクラッシュ&ビルトが遠因と思われる。つまりDNA損傷の複製点への到達回数と関係している。もっと詳しく遺伝子の側からPRRメカの研究を追求すべきである。NHEJのメカの研究が組換え修復の全てだという誤解が生じたせいであると思う。もっと楽に切断過程を加えて再度PRRモデルを考え直したら、SCE発生の分子メカも簡単に分かるのかもしれない。GENという遺伝子がその研究のキッカケを与えることになるだろう。

 私は、40年間未知だった「・・の謎」物質を見つけたばかりではなく、30年前に自分自身が存在を予言した因子を、自分で見つけたのかもしれない。そのため、全てを完了しておく必要がある。

 そこで、まず先にGENについて現状をまとめておこう(内容の幾つかは、これから論文になる未発表部分でもある)。



つづく



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