「掲載を許可する」 | ぐうたら能無し教授の日記(坂口謙吾)

「掲載を許可する」

6-2、DNA修復因子shokopon


 理科大では、ショウジョウバエを用いて、以下のごとき因子群を研究発表した。もっと沢山いろいろなことをやったように思うが、とにかく今思い出す分だけを書いておこう。この方面の論文だけでも数十報出ており、とてもじゃないが全てを網羅できない。出来ないというより私が記憶していない。一人で3つも4つも遺伝子を取り出すことに成功する者もかなり出て、一時は国際的にショウジョウバエの研究室であるような雰囲気になった。

 如何に物凄い勢いで論文の大量生産になったかを示すエピソードが残っている。ある時、私はさる外国の学術雑誌から「内容、大変に興味深いので掲載を許可する」という論文を受理するという連絡を受けたのである(今、その論文が誰のだったかさえ記憶にない)。この頃は論文のほとんどを私自身が全部書いていたから驚いた。書いた覚えも投稿した記憶もないのである。そこで院生達に聞いて回ったところ「エッ、先日、先生が書いておられましたよ」と言われたのである。驚き、自分のパソコンを調べたら、確かにその原稿があり投稿も自分でしているのである。それもなんと僅か3日間で書き終えており(図表は院生が準備していた)、すぐに投稿していた。そしてそれがレフリーコメント無しで一発で受理されていたのである。更に間の悪いことには、その直前に違う論文を投稿し、(さらにこの論文を投稿した)翌日に他の論文を投稿していた。そのため忘れてしまったのである。GENの論文が出ていた頃(2000~2010年)は、そのくらいに私の研究室から激しく成果の出ていた物凄い時期だったのである。

*Mus308 mutants of Drosophila exibit hypersensitivity to DNA cross-linking agents and are defective in a deoxyribonuclease.
*A mitochondrial nuclease is modified in Drosophila mutants (mus308) that are hypersensitive to DNA cross-linking agents.
*Novel DNA binding Proteins highly specific to UV-damaged DNA sequences from embryos of Drosophila melanogaster
*Non-mutagenic repair of (6-4)photoproducts by (6-4)photolyase ultraviolet light-damaged DNA recognition endonuclease that selectively nicks a (6-4) photoproduct site
*A new DNA polymerase species from Drosophila melanogaster: a probable product of mus308 gene
*Damage-Specific DNA-Binding Protein 1 (UV-DDB1) Controlled by the DRE/DREF System
*Mitochondrial Transcription Factor A
*DNA Polymeraseζby REV1 Protein-Affinity Chromatography
*damaged DNA binding protein 1 (D-DDB1) is an essential factor for development
*Gene Silencing of Damaged DNA Binding Protein1 in Drosophila Impacts on Hemocytes
*DmGEN, a novel RAD2 family endo-exonuclease
*XRCC1
*XRCC4
*Recombination Repair Protein 1 (Rrp1), AP endonuclease 1
*proliferating cell nuclear antigen (PCNA2)
*XPG-like endonuclease (DmGEN), a new type nuclease of RAD2/XPG family
*TRF4, poly A polymerase (polyadenylation of snRNAs)

 何しろショウジョウバエなので、これらの因子は直ちにそれぞれの個体の突然変異株を探すことも出来る。そしてその培養細胞株を創り出すことも容易だった。ドンドン利用した。劇的に進むことになる。非常にうらやましがられる段階に入った(特にこれはショウジョウバエの実験で言われた)。ショウジョウバエはモルガン以来アメリカで中心材料の一つであったこともあり、メジャーな材料の印象はあったようである。そのため私は多くの専門家からはショウジョウバエの遺伝学者だと思われていた。ただし、当時1990年代の日本では、ショウジョウバエの専門家のほとんどは交雑実験の古典的遺伝学者で分子生物学者は非常に少なかった(もちろん、アメリカ帰りの少数はいた。この方々は皆、物凄くマニアックなアメリカ型の研究をしていた。私とは住む世界が違った)。そのため歓迎された。

 その交雑実験を行いながら分子生物学をやる訳だが、更に並行して高等植物やキノコも使っており、特にキノコは減数分裂という生物現象を対象にしていた。この生物現象を対象にするときは、形態観察が極めて重要になる。そのためには、かなり厳密なミクロの顕微鏡観察や電子顕微鏡観察を汎用せねばならない。そしてショウジョウバエの観察は、ビノキュラスレベルの観察になる。そのためショウジョウバエの実験もそのような両者の面からデータを出した。これは古典的な化学と古典的な生物学を年中往復する世界になる。学生達は最初からそれを身につけることになる。アイデアを駆使する幅も広がり、院生達はドンドン思い思いのアイデアを繰り出すことになる。このような研究室は日本では事実上他にはなかった(たぶん、国際的にもあまり聞いたことがない)。バイオの教育上非常にプラスであった。比較的短い時間で行った実験でも、学術論文として投稿すると簡単に掲載された。

 天下の秀才達が研究テーマを繰り出すのに四苦八苦している中で、私の研究室の院生達の多くは、何で研究テーマ創り論文作りに悩むのか分からないという気分でやっているものが多かった。後に彼らの多くは大学教授になっていくものが多いが、(意図して創った訳ではない)その教育法の賜物だったのだろう。



つづく



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