パール判事 東京裁判批判と絶対平和主義 | さかえの時々論拠

パール判事 東京裁判批判と絶対平和主義

■気になる本 - パール判事 東京裁判批判と絶対平和主義 -
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 新年を迎えようとしている時期に、こういうタイトルの
書籍を紹介していいものかどうか考えましたが、心を新たに
する時期ですので、私の心を新たにするのに、時期は関係
ないと思い、ご紹介することにしました。


 28日には、正月飾りをつけました。
母の指示のもとです。では、何故、今日なのでしょうか。
私は、母に尋ねました。


 29日は、9(苦)なので避けて、31日は一夜付けなので
これも避ける必要があるというのです。
 とすると、残りは、28日か、30日しかありませんか。

 私は、その通りにしただけです。
こういう事って、多くあるのではないでしょうか。


 私の家では、仏教なので、そのシキタリや行うべき行事が
あります。とくに4月8日のお釈迦様の誕生日には、
施餓鬼に母はいきましたから、いまでも記憶に残っております。
いまは、いっておりませんが。



 さて、私は過去に「日本はそんなに悪い国なのか」を読了してから、
心のもやもやが吹っ切れないでおりました。
 
 2年半前のことですから、そうとうモヤモが残っておりました。

 でも、今回、その間の読書を通じて、何故か吹っ切れた
ような気がしています。目指す方向が決まったということでしょうか。


 日本人が少し自虐的になっていることは、現在の景気悪化だけでは
ないようです。勿論、景気問題は、緊急の問題ですので、早急に
対処しないといけないと思います。


 日本人の心の根が、少し侵されているように思えます。
「判決理由、証拠なしの極東国際軍事裁判」では、歴史上重要な
記録である「東京裁判」について述べております。

 その裁判で、唯一、無罪を表明した判事がおります。
引用します。

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  米国(対戦相手、有罪) マイロン・C・クレイマー
  英国(対戦相手、有罪) パトリック
  ソ連(対戦相手、有罪) I・M・ザリヤノフ
フランス(対戦相手、法の手続きに問題あり) アンリーベルナール
中華民国(対戦相手、有罪) 梅 汝敷
オランダ(対戦相手、減刑) バーナード・ウィスター・A・レーニング
 カナダ(対戦相手、有罪) E・スチュワート・マックドウェル
 豪州 (対戦相手、裁判長)ウィリアム・F・ウェッブ
ニュージーランド
    (対戦相手、有罪) エリマ・ハーベー・ノースクロフト
フィリピン ・・・・米国の保護国
    (未交戦、軽すぎる)ジャラニツ
 インド(英国属領、無罪) ラダ・ビノード・バール
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 どうです、戦勝国(対戦相手)は、ほとんど有罪であるのに、
英国属領のインドのラダ・ビノード・バール判事だけは、無罪と
したのです。
 
 どうして?、何故?、日本という国に罪はなかったの?


(参考)日本はそんなに悪い国なのか
http://ameblo.jp/sakae2/entry-10013863069.html

(参考)判決理由、証拠なしの極東国際軍事裁判
http://ameblo.jp/sakae2/entry-10014597918.html

 (参考)判決理由、証拠なしの極東国際軍事裁判を読んでの
感想は、本当に私の心の底から湧き出たものです。
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 戦勝国で執り行われた裁判や憲法制定だから、日本民族の神髄で
ある武士道や相手を思いやる気持ち、公徳心、道徳心というものが
このときから喪失されて、いまだに取り戻していないと思うのです。
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 いま、「パール判事 東京裁判批判と絶対平和主義」
(著者 中島岳志、出版社 株式会社白水社、発行年月 2007年8月)
を読み終えました。

 著者の中島岳志のプロフィールは巻末によりますと次の通りです。

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1975年大阪生。大阪外国語大学(ヒンドゥー語専攻)卒。
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程修了。
北海道大学公共政策大学院准教授。
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 著者の公式ブログは、こちらです。

(参考)コールタールの地平の上で(著者公式ブログ)
http://www.indo.to/log/nakajima/


 この感想を入力し始めて、著者のこの本がいろいろと問題に
なっているのを、初めてネット上でしりました。


 この本を読み始め、そして素直にこの本を読了できたのです。
何故か心に響きました。勿論、パール氏を通じて、その一貫した
生き方、世界の方向性の明示、などです。


 パール判事は、1886年1月7日、インドのベンガル地方の
小さな農村に生まれましたが、決して裕福な家庭ではなかった と
著者はいいます。

 男兄弟はなく、妹が2人の長男でした。


 パール判事は、母親から「(カルカッタの有名な)
バルネジー判事のように、世の中の不正をただしてほしい」と
期待されて、法律家を目指したようです。


 著者は、「パールにとって法とは、設計主義的に構築される
ものではなく、歴史的に受け継がれてきた文明的英知であり、
宗教的価値を内包させる存在論だった。」と述べています。


 たしかに、パール判事の一貫した考え方は、宗教的というか
哲学的、人道的であるでしょう。人は生まれながらにして平等
であるはずで、生まれにまつわる不平等性解消すべく、ヒンドゥー法の
研究に邁進します。


 また、パール判事は、インドの非暴力主義のガンディーを
尊敬し、その思想、哲学を自身の英知の基礎においています。

 そして60歳に、極東軍事裁判のために来日しているのです。
その後、数回、日本にきています。


 1952年10月16日に、4年ぶりの再来日をし、この日は、
昭和天皇と皇后様は、靖国神社に戦後初めて参拝をしてます。

 17日は、日光に向かい「武者百人行列」を見学し、一泊し、
翌日は、中禅寺湖の風景を堪能し、鹿沼の農村を視察し、次の
ように述べたと著者はいいます。
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 この村の一番の貧農といわれる農家でも、インドの貧農と
比べれば、はるかにましである。200年のイギリスの搾取と
圧政は、インドの農民を人間以下の世界に追い落としてしまった。
帝国主義のながい統治ということが、いかに恐ろしい結果を
もたらすものか。日本にこの悲惨を味わせたくない。彼らの、
「分かち、かつ支配する」という政策が、いまやアジア人同士、
日本人同士のあいだに行われようとしている。
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 パール判事は、この年の8月に国連の国際法委員会の委員
に選任されていました。後述しますが、国連では世界平和が
実現できないと悟ったかもしれません。


 また、現在のイスラエル問題については、参考に、
重要な(マスコミも報道していない)情報を提供している方
のブログを紹介します。イスラエル軍によるパレスチナ、ガザ地区
の攻撃が、民間人を殺戮しているのです。もともと、ハマースも
民間団体です。不特定多数を攻撃しています。



 さて、著者はまだ若いです。今年で33歳ですか。
でも、思想や信条には年齢は関係ありません。
勿論、経験やシキタリも。


 この本を読んで、感動をしたのです。極東軍事裁判は、たしかに
戦勝国が開催したもので、ある意味、勝ち組の論理です。
(戦勝国が東京で開催したのを強調していますが、極東軍事裁判
という名称の通りです。)


 しかも、被告人達は、A、B、C級戦犯と言われる個人です。
その個人に対して、戦勝国は、極東軍事裁判憲章を公布しました。
全17条のものです。問題は第5条の「人並に犯罪に関する管轄」で、
「平和に対する罪」、「通例の戦争犯罪」、「人道に対する罪」が
規定されていると著者はいうのです。


 パール判事は、「反対意見書」ということで、所見を述べて
います。1400ページにもわたる量であると出版社ではいって
いますから、そうとうな量です。


 著者によると、パール判事は、極東軍事裁判前後には、日本
を好意的にとらえていませんでした。勿論、日本国内の事情は
わかりませんでしょうが、いかなる理由があろうとも戦争という
手段を選択したのは、間違いだった というのです。


 「平和に対する罪」、「人道に対する罪」は、国際法には存在
しない事後法的性格(つまり事件が起こった後で法や憲章を作成)
であるとし、「全面的共同謀議」については、存在しなかったと
しています。


 但し、「通例の戦争犯罪」は容認しています。南京虐殺事件
やバターン死の行進をはじめとする日本軍の「残虐行為」を
認容して、「鬼畜のような性格」と断罪しています。

 もっとも南京虐殺事件にしても、真実がいまだ隠されて
いると思いますし、中国との共同認識が確立されていない
ようです。


 この極東軍事裁判は、決して日本は無罪となったわけでは
ありません。まず、対象者が、国家ではなく、個人であること、
(国家を対象にしたら、原爆投下をしたアメリカも当然に
「通例の戦争犯罪」を犯したとして非難されることになるから。)


 また、A級戦犯やB級戦犯、C級戦犯の罪についても
確たる証拠がないので、証拠不十分で無罪を主張したのです。
 尚、満州事変については、欧米列強の植民地政策を模倣した
ものと考え、これは犯罪にあたらない と主張しています。
(これを犯罪と認めたら、欧米列強も罰する必要があると
考えられます。)



 著者はいいます。パール判事の心の中は、心棒が1本しか
ないと。それは、東洋を統一し、世界の心を統一することだと、
私は思うのです。

 その背景には、国連も組織、体制としても不十分だと
思っていたようです。だから、
 「世界連邦」という表現をして、日本はその努力をするものだ
とパール判事はいっているように思います。判事の祖国である
インドは、イギリスに長い間、搾取されており、いまもその後遺症を
抱えております。


 日本は、「何をしたらいけないか」、
 日本は、「何をしなくてはならないか」
という点で、原点にもどって考える必要がある重要な示唆に富んだ
内容と思うのです。


 著者の本は、ある特定の著者を指名して批判をしており、
逆に、多数の反論がでてきて、メディアを通じた論戦となって
おりました。昨年は。こういう時に、メディアは対談なり、
インタビューなり、お互いの論点や問題を我々にも提起して
欲しかったと思います。


 国民の多数に情報を公開して、議論を尽くしていけば、
政治の世界ではできなかった戦後政治の総決算を国民レベルで
できるようになると思います。

 でも、パール判事のほぼ、生涯を取り扱った本としては、
異彩を放っておりますので、是非、近代歴史を考えるのには
いい本であります。


 また、パール判事の意志は、私は立派なものだと考えます。
世界で争いがない というのは、平和を希求する日本の願い
でもあります。そして、何故か、子を思う母心に通じるものが
あると思うのです。


 日本も、誰かの属国になっていくという方向ではなく、
自立した、自律できる国を目指さないといけないのかもしれません。


 憲法前文を含む各条文を、もう一度、考えてみる必要が
あります。尚、最近の派遣切り問題については、
こちらのブログを参照してみてください。公務員と思われる
コメント者に対して、ヘンリー・オーツさんが強烈な返礼を
しております。(憲法の位置づけについて話をされて
いますので、参考としました。)

(参考)BLOG版「ヘンリー・オーツの独り言」
http://henrryd6.blog24.fc2.com/blog-entry-587.html


 日本各地に残されたパール判事の碑文については、
こちらを参照してみてください。

(参考)日本各地に残されたバール判事の碑文のご紹介
http://plaza.rakuten.co.jp/onnen/diary/20081205/


 私も12月28日に、NHK日曜討論を聞きながら、
毎週恒例の清掃をしていたのですが、今回のNHKは、
小泉竹中政治を批判する論客をやっと採用していますね。

 NHKも方針を変えたのでしょうか。その内容については、
経済問題の第一人者である「植草一秀の『知られざる真実』」を
参照してみてください。

 尚、植草氏は、このブログで今回の著者の一つの意見に
賛同をしています。その部分を抜粋します。
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 財政活動は多数の国民から少額の税を徴収して公共の目的のために
財政支出配分を決定する行為である。
定額給付金はその財政資金を、一人12,000円という少額にして
均一な金額に細分化して配分する政策である。
北海道大学公共政策大学院准教授の中島岳志氏は、麻生政権の
定額給付金政策を「政治の放棄」だと切り捨てた。
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(参考)小泉竹中政治を明確に否定すべし-NHK日曜討論より-
http://uekusak.cocolog-nifty.com/blog/2008/12/nhk-737d.html


 どうも、2009年の世界は、新たな仕組み作りの混沌とした
状況に入っていくのではないでしょうか。その激流の中で、
日本を含めたアジアが注目されていくと思うのです。そのためには、
注目されるのは、日本の今後の言動です。
天木 直人氏も述べています。

(参考)新しい日米関係の構築に向かって(天木 直人のブログ)
http://www.amakiblog.com/archives/2008/12/28/#001314


(参考)アメリカの都合で決まる善と悪(きっこのブログ)
http://kikko.cocolog-nifty.com/kikko/2008/12/post-91b9.html
(参考)ガザの真実(きっこのブログ)
http://kikko.cocolog-nifty.com/kikko/2008/12/post-21e5.html
(参考)アブデルワーヘド教授からの続報(きっこのブログ)
http://kikko.cocolog-nifty.com/kikko/2008/12/post-f85a.html


 明ける平成21年も、日本、アジアにとって明るい年になります様に。


(12月31日)

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