フォールアウト | さかえの時々論拠

フォールアウト

■気になる本  - フォールアウト -
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 最近、ある県知事が、首都圏が大震災に見舞われたら、
それが(首都機能を関西圏が担う)チャンスである。 と
発言して、物議が起こりました。


 しかし、純粋な気持ちで私は首都大震災を危惧しております。

 過去に、平成関東大震災を紹介しました。


(参考)平成関東大震災(2007-11-26)
http://ameblo.jp/sakae2/entry-10057210557.html

 この本の著者福井晴敏氏でも、想像できなかった(勿論私も)
ことが、今回の別な本を読んで、大規模な2次被害の発生が
あるのではないか と思ったくらいです。



 2001年9月11日、ブッシュ米大統領は、テロ攻撃を
受けて、「我々は戦争をしたくないのに、世界貿易センタービル
へのテロ攻撃は、宣戦布告と同じだ」とし、議会とメディアは、
第二の真珠湾攻撃だと位置づけたのです。


 そして、1ヶ月もたたないうちに、(しかも日本の協力を
1週間で確保し)、アフガニスタンを空爆しているのです。


 現在のところ、テロ攻撃についても、アメリカ自身の
自作自演ではないかという反対意見もあります。
でも、その真意はいまだに謎だらけです。


 しかし、テロ被害の中で、二次被害が発生していたと
いう恐ろしい話があります。いま、

「フォールアウト 世界貿易センタービル崩落は環境になにを
もたらしたのか」(著者 フアン・ゴンザレス、訳者 尾崎元、
出版社 株式会社岩波書店、発行年月 2003年4月)を
読み終えました。


 著者と訳者のプロフィールは、巻末にあります。
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【著者紹介】
フアン・ゴンザレス(Juan Gonzalez)
ニューヨーク・デーリー・ニューズのコラムニスト。
ジョージ・ポーク・ジャーナリズム賞などを受賞。

【訳者紹介】
尾崎 元(おざき・はじめ)
1956年、東京生まれ。立教大学社会学部卒業。
1980年、共同通信社入社,長野支局,京都支局,
大阪支社社会部から,テルアビブ支局長,エルサレム支局長,
ニューヨーク総局を経て,現在,編集局外信部次長。
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 著者の名前で思い出すのは、プエルトリコ出身のメジャーリーガー
です。しかし、彼と同姓同名のようで、まさか、ニューヨーク・
デーリー・ニューズの著者とは、同一ではないようです。


(参考)ニューヨーク・デーリー・ニューズ(NEWYORK DALY NEWS)
http://www.nydailynews.com/



 2001年9月11日に発生したテロ攻撃によって、
大規模な環境汚染が行われた と著者はいいます。

 しかも、その事実は、ことごとく、連邦政府やニューヨーク市に
よって隠され続けている というのです。


 著者は、この本で、いろいろと人体に影響がでていることを
公表(自身の新聞を通じて)しているのですが、時系列に
なっていないので、私のまとめという意味でも、時系列にして、
著者が指摘している事をみてみたいと思います。


尚、でてくる米国政府等の略称は、次の意味です。
EPA;環境保護局
OSHA;労働安全衛生局
USGS;地質調査所
CDC;疾病対策センター
NRDC;天然資源保護審議会
FEMA;緊急事態管理局
G0;グランド・ゼロ(世界貿易センタービルの呼称)



■9月11日 世界貿易センタービル崩落
■9月13日 EPAホイットマン長官は、「ニューヨークの
 大気中の粉塵には、高いレベルのアスベストは含まれていない
 とみられることが判明し、EPAとしては非常に安堵して
 いる」と述べる。(後日、マンハッタンでは検査していない
 ことが判明)
■9月13日~16日 EPAは、G0から半マイル離れた
 事務所周辺のアスベスト検査を実施。1箇所で「陽性」反応が
 でた。1平方ミリ当たりアスベスト繊維25本(過去の
 EPAの公表基準値は70本)なのに、事務所の汚染浄化
 作業を実施。
■9月14日 警官、消防士に紙マスクの配布
 (但し、上官は、本物のガスマスクを着用していた)
■9月16日 NASAジェット推進研究所は、地表の微量物質
 まで検出できる装置(AVIRIS)を搭載した偵察機を
 G0上空に飛ばした。スペクトル・マッピングのデータは、
 解析のため、USGSへ転送。
■9月17日 一般の立入禁止を解除
■9月17日 ニューヨーク証券取引所とマンハッタン南部の
 大手の事業所は、営業を再開する。
(EPAは、暫定的な承認を事前に与えている)
■9月18日 EPAは、正式な安全宣言を発表
 OSHAとニューヨーク州の環境保全局、衛生局も保証。
■9月17~18日 化学者チームをG0に派遣し、半径1km
 以内の35箇所で粉塵や破片を採取。
■9月28日 著者は、ニューヨーク・ディリー・ニューズで
 「マンハッタン南部で採取した粉塵のサンプルは、
 EPAホイットマン長官が市民に信じこませようとした
 よりも、アスベスト汚染が広がっている」と報道。
■9月末 USGSは、G0上空から調査を実施。屋上や高層ビル、
 路上などに数百箇所のアスベストの「ホットスポット」を
 特定。G0から半マイル(約800m)離れたところにも
 確認。また粉塵は腐食性が高く、アルカリ度は、家庭用の
 配水管洗浄剤と同程度。OSHAは、この情報を数カ月、
 公表しなかった。

 
■10月9日 G0から数ブロック北にあるスタイブサント高校は
 100万ドルをかけてアスベストの浄化作業をして、授業再開。
■10月 CDCとNY衛生局は、G0近くの3つの住宅地で
 密かに調査を実施。50%の人が鼻や喉、目のかゆみを訴えて
 40%はしつこい咳に悩まされていた。
(この報告は、2002年1月にそっとされたため、誰も気づかず)
■10月26日 EPAの環境調査データ(800ページ)を
 分析した著者が、ニューヨーク・ディリー・ニューズにて、
 アスベスト以外の汚染物質が放出されていたことを報道。
(EPA長官はじめ非難の嵐。上司の消極的な行動、支援者の異動。
 他のメディアは、誰も追跡取材、報道を一切せず)


■12月 EPAが大気中のダイオキシン濃度検査の公表を始める。
 G0の北1マイルの地域で採取された粉塵から、危険なレベルの
 PCBが検出されたと。

■2002年2月 NRDCが調査を実施。G0の大気に晒された
 ことにより、少なくても1万人が健康問題を抱えている。



 新自由主義を標榜していたアメリカが、自国民をないがしろに
した「立派な危機管理能力」です。しかも、ニューヨークタイムズや
大手のメディアのどこも、著者のように調べればわかることを
してこないのですから、どうしてマスコミというのは、権力に
尻尾を振るのでしょうか。


 EPAは自分の事務所のみを浄化作業を行ない、測定値の隠蔽、
安全基準のデタラメさ、ひょっとしてアジアのどこかの国と
同じではないかと思ってしまいます。


 著者も、こう述べています。(P31)
「都合のいいことだけを見ようとし、無責任にもビル倒壊後の
環境破壊の脅威を過少評価したり、無視しようとした当局者が
いたことには疑いを持っていない。(中略)しかし、一般市民に
環境への保証を疑われると、彼らは一致団結して知らんぷりを
決め込み、重要な情報を隠し、耳を傾けることを拒み、政策変更
を拒絶した。」



 さて、実際にどのような被害がでたのでしょう。
著者の本に散見しているその部分を拾ってみます。


■著者が執筆した段階で、消防士200人以上が病気のため休職、
 約700人が「世界貿易センター咳」と呼ばれる呼吸器疾患を
 患っている。

■オハイオ州では、G0でボランティアとして働いた緊急支援隊
のメンバー74人のうち、37人が帰宅後に病気になる。

■カリフォルニア州では、9月12日から10月7日までの
 あいだにG0に赴いた395人の緊急支援隊のうち、100人
 が、世界貿易センタービルの惨事に起因する病気を理由に、
 労働災害補償を申請。

■惨事から5ヶ月後、マウント・サイナイ病院のレバイン博士は、
 数百人のG0復旧作業従事者が、「かなりの比率」で呼吸器系
 の問題を抱えていたことを明らかにした。

■翌年2月初めに、市清掃局のマウントは、呼吸障害が悪化して
 働けない状況になった。彼が働いていたのは、G0の瓦礫を
 スタッテン島フレッシュキルズに移送先の市の巨大ゴミ処理場。
 1日12時間、75日間ぶっ通しで働かされた。紙マスクのみ
 を使用しただけで。瓦礫に水を掛けることを禁止したFBIの
 調査員や、FEMAの要員、OSHAの調査員たちは、
 危険物防護スーツで身を守っていたのに・・



 この第二章まで読んで、日本でおきた大きな災害「阪神淡路
大震災」のときの、放出された大気の物質は、どうだったろうか
と、フッとおもいました。


 当然ながら古い建物はアスベストもありますし、火災も発生
したので、有害な物質もそうとう発生したのではないか と
思います。


 いま、手元にある「毎日ムック 阪神大震災全記録」を
簡単にみてみましたが、物理的な状況、救助状況、支援状況、
がメインで、大気中の汚染物質の測定や安全宣言というものは
見当たりませんでした。


 もし万一、首都に大震災がくるのであれば、大気中の
物質の測定方法(地上,空中)や公表方法、などを検討して
いかないといけないと思うのです。



 では、どんな有害物質が存在していたのでしょうか。
著者によると、次のようなものです。


■アスベスト
 二つの建物で400~1000トンのアスベスト含有の
材料が使われていた。

■鉛
 コンピュータ(パソコン含む)や配管などに含有、パソコン
だけでも、20万~40万ポンド(約90~180トン)が
あったと考えられています。

■水銀
 電池、蛍光灯、交換機、液晶モニター等に利用されており、
ツインタワー内には、50万本の蛍光灯があった。

■ダイオキシンとフラン
 何百万といわれるビル内のプラスティク製品。ケーブル。
これらが崩壊、火災により空中に放出された可能性大。

■ディーゼル燃料とオイル
 7番ビルは変電所の上に築かれていて、地下にはタンク
(ディーゼル燃料)が貯蔵されていた。これらのビル全体
での合計は、20万ガロン(約757キロリットル)と、
追突した2機の旅客機がそれぞれ約1万ガロンの燃料を
搭載していた。10月3日には、まだ石油が燃え続けていた
という証言もあった。

■ベンゼンなど揮発性有機化合物
 強毒性があるベンゼンを始めとして、芳香族炭化水素や
揮発性有機化合物が、大気に放出された。発癌物質で
あります。

■腐食性粉塵
 強アルカリ度(11.8ph)が粉塵サンプルによって
確認された。人間の肺に対して脅威のもの。


 はっきりいって、放射性物質(ウランやプルトニュウム等)
以外の物質は、ほとんどでてきているのではないでしょうか。


 このことから、今後、被害の追跡調査が必要なのですが、
どうもそれが行われているか疑問です。

 日本でも、阪神淡路大震災では、追跡調査をしているので
しょうか。


 いいえ、1999年9月30日、茨城県那珂郡東海村で、
JCO(株式会社ジェー・シー・オー、住友金属鉱山の子会社)の
核燃料加工施設が起こしたお粗末な臨界事故では、近隣住民の
放射能汚染状況や健康被害を追跡継続調査を実施しているので
しょうか?


 著者によると、アメリカでは1300件以上の裁判が起こされており、
損害賠償額の合計は、72億ドルにものぼるというのです。


 救いは政治にありました。著者が述べています。

 2001年10月26日の著者のコラムをみて、一人の
議員が立ち上がりました。民主党のヒラリー・クリントン
上院議員です。この環境破壊問題に取組み、公聴会開催を
実現し、翌年2月11日の公聴会で、EPAホイットマン長官
にEPAが発表した内容に信用性の問題があると追い込んだ
のです。そして翌日、連邦政府レベルの特別対策本部を発足
になったのです。
(ヒラリー・クリントン上院議員については、オバマ次期大統領
は、ひょっとしたら登用するかも知れません。)


 残念ながら、今回の環境汚染問題について大手マスコミは、
何故か報道していないのです。どうしてなんでしょうね。
CO2による温暖化(これは嘘ですが)は、熱心に報道するのに。


 さて、日本におけるテロや大規模災害の場合、どのような
危機管理ができるのでしょうか。アメリカの911の場合には、
ニューヨーク市長が、実権を握り実施しました。また、有能な
経験豊富な消防士等は、ビル崩落で失ってしまいます。


 日本の環境大臣は、国民の生命を守るような行動をとれる
法的仕組み、国民を汚染から保護する仕組みがあるのでしょうか。

 大災害の場合、指揮をとるのは、現地の知事や市町村長です。
アメリカと同じような轍を踏むことがないように、いまからでも
しっかり対応してもらいたいものです。
 勿論、その後の被害者に対する追跡健康状況の調査もです。


(11月22日)


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