第18回働くもののいのちと健康を守る埼玉センター総会 記念講演 | 労働組合ってなにするところ?

労働組合ってなにするところ?

2008年3月から2011年3月まで、労働組合専従として活動しました。
現在は現場に戻って医療労働者の端くれとして働きつつ、労働組合の活動も行なっています。

あまり知られていない労働組合の真の姿(!?)を伝えていきたいと思います。

まず、「8時間働いたら帰る、暮らせるワークルールをつくろう」の署名へのご協力をお願い致します。

 

https://www.change.org/p/8%E6%99%82%E9%96%93%E5%83%8D%E3%81%84%E3%81%9F%E3%82%89%E5%B8%B0%E3%82%8B-%E6%9A%AE%E3%82%89%E3%81%9B%E3%82%8B%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%82%92%E3%81%A4%E3%81%8F%E3%82%8D%E3%81%86

 

 

続いて、避難不可能な状況下での原発災害を防ぐために、川内原発の運転停止を求める署名への賛同を呼び掛けます。

 

https://www.change.org/p/%E5%B7%9D%E5%86%85%E5%8E%9F%E7%99%BA%E3%82%92%E6%AD%A2%E3%82%81%E3%81%A6%E3%81%8F%E3%81%A0%E3%81%95%E3%81%84?source_location=discover_feed
 

 

そして、戦争法を早急に廃止することを求め、沖縄をはじめとする全国での基地強化・日米軍事一体化の策動を許さず、医療と介護をはじめとする社会保障切り捨て政策に反対し、労働者をはじめとする99%の人たちのいのちと生活と働く権利を守るために行動し、政治をはじめとするあらゆる分野で憲法が活きる社会となることを目指し、声を上げ続けることを提起します。

 

 

4月15日、第18回働くもののいのちと健康を守る埼玉センター総会が開催されました。

そこで行なわれた記念講演、「昨今の労働法制について~その狙いと闘いの方向~」の概要をご紹介します。講師は日本労働弁護団常任幹事、闘争本部本部長の高木太郎弁護士でした。

 

高木弁護士は、日本労働弁護団闘争本部が3年前につくられた時、日本労働弁護団の幹事長だったそうです。当時の闘争本部長が棗弁護士で、今度は棗弁護士が幹事長になるので、代わって高木弁護士が闘争本部長になることになったそうです。闘争本部は、安倍政権が労働法制への攻撃を強めたために発足したそうです。

では、安倍政権とはどういう政権なのか、その発足後の経過が振り返られました。

安倍政権は2012年12月に発足しました。その当時は、今のような強力な政権となるとは思われていなかったそうです。民主党が選挙で大負けしたために生まれた政権であり、「どうせまた辞めるのでは?」と思われていたそうです。2013年1月の所信表明で、安倍首相は「世界で一番企業が活動しやすい国を目指す」と表明しました。それは、労働者にとっては世界で一番暮らしにくい国だということです。安倍首相はダボス会議で、「既得権益の岩盤を打ち破るドリルになる」と述べました。ここで言う「既得権益」には、労働者の暮らしを守るための仕組みも全部入っています。2014年、人気取りのために登用していた女性閣僚の不祥事が明らかになり、アベノミクスにも陰りが見え始めましたが、民主党政権の失敗の影響が大きく、選挙では自民党が多数を取りました。2015年9月には派遣法「改正」案、安保法案を成立させました。2016年には衆参で与党が3分の2超の議席を得ました。2017年には森友問題が起こりました。

振り返った後、いくつかのポイントが指摘されました。

第一に、労働法の全面破壊が挙げられました。派遣法改悪、労働時間規制の緩和、解雇の金銭解決などですが、これらは企業の利益、人材ビジネスの利益のために行なわれるものです。

第二に、集団的自衛権、安保法制の成立が挙げられました。安倍首相の一番の悲願は憲法改正ですが、これも悲願の一つだそうです。安保法制成立後、安倍首相は「岸」から「池田」へと、1人2役をこなすことになったと指摘されました。これは、日米安保条約を批准した岸首相で失った国民の支持を、池田首相が所得倍増計画による経済発展で取り戻したことになぞらえたものだそうです。

第三に、労働側の政策を取り込むことが挙げられました。「働き方改革」では、長時間労働の是正や「同一労働同一賃金」をスローガンに掲げました。しかし、安倍政権は財界の意向に反することはやらないはずだと指摘されました。

次に、アベノミクスとは何かということが取り上げられました。アベノミクスの3本の矢とは、大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略です。3本の矢の1本めと2本めは、3本めの着火剤であり、規制緩和により富める者をますます富めるようにするものであることが指摘されました。労働法制の改悪も3本めの矢に含まれるものです。労働者を保護する規制がなくなるということは、企業の利益が増えるということですが、労働者はひどい目に合うことになります。立教大学の山口義行教授の分析では、この状況を「ぬるま湯資本主義」と表現し、倒産は少ないが廃業は多く、人口減少による人手不足で成長なく完全雇用が成立していると指摘しているそうです。職業安定所は閑古鳥が鳴いている状態だそうですが、ただし、正社員は少なく、非正規社員が多く、売り上げは減少しているのに人件費が減っているので好決算だそうです。ちなみに「新3本の矢」は、希望を生み出す強い経済、夢を紡ぐ子育て支援、安心につながる社会保障とされましたが、中身が伴わずに消えていきました。これは宣伝の失敗例だと指摘されました。

安倍政権が狙っているのは労働法制の全面破壊だと指摘されました。邪魔な労働法を取り除き、企業が人を使いやすくするため、あらゆる分野で規制破壊が行なわれているということです。

派遣法の「改悪」は2015年9月に成立しました。1985年に派遣法がつくられるまでは、原則は直接雇用であり、雇っている人と雇われている人の間には労働法があり、労働者を簡単に解雇することはできませんでした。しかし、派遣労働者は使いたい時に世に、いらなくなったら契約を切ればいいという存在とされました。戦前の賃金ピンハネを繰り返さないようにそれを許さない法律をつくったのにもかかわらず、ピンハネを許す間接雇用として派遣労働が導入されたということも指摘されました。そして、派遣法は当初専門13業種に限られていましたが、その後、16業種、26業種と増やされ、1999年にはネガティブリスト化されました。ネガティブリストとは、派遣労働にしてはいけない業種だけを定めるということです。つまり、原則禁止で例外だった派遣労働が、原則可能となってしまったのです。そして、2003年には製造業派遣も解禁されました。もう一つの派遣労働の制限は期間の制限であり、原則1年、最長でも3年しか派遣労働を使用することはできませんでしたが、2015年に部署を変えればずっと派遣労働を利用できるという法「改正」がされてしまいました。この「改正」は2015年9月に強行採決されましたが、なぜこの時期に強行したのかというと、2012年の民主党政権時に少しだけ派遣法が改善されており、違法派遣が明らかになった場合に直接雇用が成立するとみなす「みなし雇用」制度が3年の猶予期間の後に2015年10月に開始されることになっていたため、その前に強行採決をする必要があったということが指摘されました。

その他に、労働時間法制の規制破壊、解雇の金銭解消制度の創設、有期雇用の無期転換ルールの緩和、国家戦略特区構想、ジョブ型正社員・限定正社員、高齢者・女性の活用、外国人労働者の受け入れ、職業紹介事業の人材ビジネスへの開放が挙げられました。

ジョブ型正社員・限定正社員とは、法改正が必要なものではなく、スローガンとして掲げ、企業に導入を促すという方法で進められています。ジョブ型正社員は職務限定、限定正社員や勤務地や勤務時間を限定とし、その分賃金を安くするというものです。本来、どのような正社員にも人間である以上一定の限度はあるはずで、無限定に働かせることはできないはずですが、この考え方が既にかなり普及してしまっているそうです。

労働時間は、フルタイムの場合は1年間で約2000時間だそうです。その場合、年収500万円ならば時給は約2500円ということになります。マクドナルドやコンビニの時給は、現在800円台から900円台です。時給を1500円にすべきだという運動が起こっていますが、時給1500円ならば年収は約300万円であり、1人ならば健康で文化的な生活ができる水準です。つまり、高すぎる要求ではないのですが、しかし、まだ一般化されていません。

高齢者・女性の活用は、労働人口の減少によって進められるようになったものです。労働人口が減少すると、求人が増え、賃金を上げないと人が集まらなくなります。つまり、一定の失業者がいないと企業は賃金を低く抑えられないのです。だから、高齢者や女性を引っ張りだして、労働人口を増やそうということだそうです。

外国人労働者の受け入れも同様で、移民や難民には冷たい日本が、労働力としてだけ人外国人を受け入れようとしているということであり、そのために社会保障を整備することなどは考えられていないそうです。安倍政権は外国人受け入れのために、問題の多い技能実習制度の枠組みを遣おうとしているそうです。ベルギーも移民によって労働力不足を補ってきた国であり、ブリュッセルは、平日の目抜き通りを歩く人の3分の1がアラブ系、3分の1が黒人だそうです。難民としてブリュッセルに来た人たちは、道路に家族で寝ており、社会保障からこぼれ落ちて貧困に陥っているそうです。

職業紹介事業の人材ビジネスへの開放とは、クビ切りを防ぐためにあった雇用調整助成金の予算を労働移動支援助成金へと移すというものです。これはクビ切りを支援する制度であり、転職先探しを支援する企業へ助成するものです。このお金が人材ビジネスに流れている訳ですが、この制度を提案した産業競争力会議のメンバーには、人材派遣会社パソナの会長の竹中平蔵氏がいるそうです。

現在の焦点である労働時間法制については、「働き方改革」は抜け穴だらけだと評されました。安倍政権と財界は、長時間労働の規制ラインを年間720時間、繁忙期には月100時間未満とするという案を出し、連合会長もこれに同意しているそうです。しかし、この年間720時間という限定も、時間外労働のみで休日労働は別だとしており、実際には年間960時間の時間外労働が可能となるそうです。過労死家族の会などからは、こんな上限ではない方がマシだという声があがっているそうです。これ以上越えられたら罰せられるという明確な上限は必要ですが、今回の案は過労死をなくす水準ではありません。

労働基準法の「改正」案については、ホワイトカラー・エグゼンプションと裁量労働制の見直しがあります。ホワイトカラー・エグゼンプションは、「管理監督者」として残業代不払いになっている部長クラスなどの労働者が、裁判で争うと「管理監督者」だとはほぼ認められないことから、「名ばかり管理監督者」への残業代不支給が合法とするためのものだという側面があるそうです。裁量労働制は、これまでの要件が厳しくて企業には使いにくいものだったので、使いやすくしてくれという要求のために見直されようとしているそうです。見直しの内容は、裁量労働制の対象を、「裁量的にPDCAを回す業務」、「課題解決型提案営業」に広げるというものです。「裁量的にPDCAを回す業務」とは、一般的な係長、課長がやっていることであり、「課題解決型提案営業」は法人相手の営業なら皆該当するものです。裁判により、外回りの営業も時間管理ができるとして残業代支払いが認められてきましたが、この「改正」が行なわれれば、再び営業職が残業代不支給になってしまいます。また、ホワイトカラー・エグゼンプションについては、対象業務があいまいであり、限定的なのは年収だけであり、現在は1000万円程度以上とされていますが、経団連は年収400万円を主張しており、アメリカでは年収280万円が基準とされています。年収要件は法令で規定できるという案になっているので、「改正」が成立すれば国会を通さずに年収要件は変えられることになるそうです。

この「改正」の狙いは何かというと、これまで裁判例で残業代を支払うべきだとされていた類型について、残業代不支給を合法にするということだと指摘されました。

解雇の金銭解決制度については、2014年6月に出された「『日本再興戦略』の改訂について」の中で、「透明で客観的な紛争解決システムの構築」が提言されましたが、これは、いくら払えばクビを切れるか明らかになっていれば経費計算ができるので、不採算部門を切り捨てて事業変更するためだそうです。2015年6月に出された規制改革会議の「規制改革に関する第3次答申」では、労働弁護団の弁護士や学識経験者も参加し、問題点を指摘したそうです。2017年3月には基本的枠組みが検討されているそうです。ここでは、「解雇された場合に解雇が無効なら労働者が金銭請求できる権利」とされ、労働者側のみが提訴でき、企業側は提訴できない仕組みが提案されたそうです。しかし、これを認めてしまえば、企業側も申し立てができるようにしようという案が出てくる可能性があることが指摘されました。とはいえ、現在は損害賠償請求のみで、金額は大きくなく、中小企業では人間関係が問題で会社に戻りたくないという労働者もいるので、そうした場合は金銭解決が望ましいということもあります。また、解雇予告手当でだけで解雇されている人たちにとっては有利になるという側面があります。しかし、使用者側も解雇の金銭解決制度を使えるようになれば、労働組合が狙い撃ちされる恐れがあることが指摘されました。裁判が金銭解決に誘導される恐れもあり、労働組合が頑張らなければならないということが指摘されました。

安倍「働き方改革」の本質は、人気取りの側面と、電通事件などが背景でこれを言わなければ国民の支持をなくすという側面もあり、単純に「反対」とは言えないことを提案して野党の失敗狙いという即見んもあることが指摘されました。長時間労働規制、同一労働同一賃金といったキャッチフレーズは正しいので、「ちゃんとやれ」と主張し、ごまかしで終わらせないようにする必要があるということが指摘されました。また、長時間労働規制はインターバル規制11時間を合わせて実施すれば過労死が激減するということが指摘されました。使用者に時間管理義務を厳しく課し、残業代なしだとしても時間管理は義務付ける必要があり、違反した場合は社名を公表することも提案されました。同一労働同一賃金については、低きに合わせさせず、最低賃金引き上げも合わせて行なうことが提案されました。

 

記念講演の概要は以上です。