クローズアップ2012 福島・子供の甲状腺検査 説明不足、不安招く(毎日新聞より) | 労働組合ってなにするところ?

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2008年3月から2011年3月まで、労働組合専従として活動しました。
現在は現場に戻って医療労働者の端くれとして働きつつ、労働組合の活動も行なっています。

あまり知られていない労働組合の真の姿(!?)を伝えていきたいと思います。

まず、東日本大震災の被災地の復旧・復興が、住民の立場に立った形で、1日も早く実現することを祈念致します。



土日が休みだったので実家に帰って、今朝は毎日新聞を読みました。その中で、気になる記事があったので引用します。福島県が行なっている”安心”のための子供の甲状腺検査が、かえって親御さんたちを不安にさせているという記事です。引用部分は青で表記します。



クローズアップ2012:福島・子供の甲状腺検査 説明不足、不安招く

毎日新聞  2012年8月26日  東京朝刊http://mainichi.jp/opinion/news/20120826ddm003040163000c.html


 「子供の健康を見守り、安心してもらうため」として福島県が無料で実施している18歳以下の甲状腺検査に、保護者の不安が募っている。セカンドオピニオンを求めて県外の病院を受診する人も続出。背景には結果に関する県の説明不足がある。【須田桃子、鈴木泰広、坂井友子】


 ◇独自受診、県内病院が拒否も


 福島県川俣町に住む60歳の女性は6月、4歳の孫を秋田市の中通(なかどおり)総合病院に連れて行った。車と新幹線で片道3時間、前日から宿泊し、甲状腺の触診と超音波、血液の検査を受けさせた。健康診断のため保険は適用されず、費用は約1万4000円。交通費なども約4万円かかった。

 福島県立医大から検査結果の通知が来たのは2月。「小さな結節(しこり)やのう胞(液体がたまった袋のようなもの)がありますが、2次検査の必要はありません」とあるだけで、約2年後の次回検査まで放置して大丈夫か不安が募った。秋田の病院で複数ののう胞を確認、気が動転した。医師は半年後の再受診を勧め「今度は病名がつき保険も使える」と言ったという。

 この病院には今年3月14日から約5カ月間で福島県の子供ら65人が訪れた。新潟や北海道、首都圏でも同様の受診が相次ぐ。福島医大が実施する県の検査は担当医を日本甲状腺学会など7学会に所属する専門医に限っているものの、検査は設備と経験のある医療機関ならどこでも可能だ。


(引用中断)



”安心”のための検査というのがおためごかしで、本来ならちゃんと”早期発見早期治療”のためとして、”疑わしきは精密検査”という考え方にして十分に費用を確保して行なうべきだと思います。

普通、医療で甲状腺の疾患を調べるならまずは血液検査で、異常値があれば再検査がエコーです。で、エコーの結果でしこりやのう胞があってもまだ小さいということなら、数ヶ月に1回などの定期的な血液検査を行ないながら経過観察となります。

それを最初からエコーを持ってくるのは、集団で検査することを考えるとエコーの方が安上がりになるからではないかと疑いたくなります。それで、しこりやのう胞が見つかっても、基準以下なら二次検査はせずに2年間放置ですからね。不安になる家族がいるのも当たり前でしょう。

それから、「検査は設備と経験のある医療機関ならどこでも可能だ」というのは、前提条件が正しいので事実なんですが、「設備と経験」はどこでも整っているという訳ではありません。最近、うちの検査技師さんが産休で休みに入ったのでパートの方が入ったんですが、その方は経験年数は数十年なんですが甲状腺エコーはできません。経験してきた医療機関の専門科によっては、そういうこともあるようです。つまり、うちみたいな診療所に甲状腺エコーができる検査技師さんがいたということが珍しいことで、普通はある程度大きな医療機関でないと甲状腺エコーができる検査技師さんはいないということです。

でも、福島の人たちが個人的に検査を受けるために遠出をしなければならないのは、近くに検査ができる医療機関がないという理由ではないようです。



(引用再開)


http://mainichi.jp/opinion/news/20120826ddm003040163000c2.html


 だが、遠くまで足を運ぶ人の中には、福島県内で検査を拒否された例が少なくない。会津若松市に避難する2児の母親(38)は市内の5病院に電話をかけ、断られた。「診てもらいたい時に診てもらえないなんておかしい」と憤る。

 医師らに理由を聞くと、「福島医大と異なる判断が出たら混乱を招く」(福島市の小児科医)▽「保護者の不安を解消するのは民間病院の役目ではない」(会津地方の病院)。県の検査に携わる医師の一人は「今回の福島医大の検査は放射線の健康影響を追跡する世界でも例のない疫学調査。他の病院で受けて県の検査を受けない人が出ると、邪魔することになる」と話した。

 福島医大の山下俊一副学長らが1月に日本甲状腺学会など7学会に出した文書の影響を指摘する声もある。県の検査結果に関する相談があった際、「次回の検査までに自覚症状等が出ない限り追加検査は必要ないことを、十分にご説明いただきたい」との内容だ。同学会に所属する医師の一人は「この文書に従うと、医師は診療を拒否してはいけないという医師法に反してしまう」という。

 この文書について山下氏は「県は精度の高い検査を行っているので保護者が混乱しないようにきちんと説明してほしいという意味で、セカンドオピニオンを与えることを否定するものではない」と説明する。


(引用中断)



記事中にもあるように、本来、医師は医師法の定めによって患者の診察を拒否することはできません。でも、それは受診を希望して患者が医療機関に訪れている場合のことで、電話での相談段階で、受診の必要はないと言って断る分には違法ではないという解釈なのでしょうが……

福島医大と異なる判断が出たら混乱を招く」という理由に対しては、今時セカンドオピニオンを求めるのは当たり前でしょうと言いたいです。

保護者の不安を解消するのは民間病院の役目ではない」という言葉に対しては、公立・公的病院の役目と民間病院の役目の違いは、地域の医療政策においてどういった部分を受け持つかというところにあるのであって、一人の患者さんに対してどのように向き合うかという点については公立も民間もないと言いたいですね。

そして、疾患の早期発見早期治療より疫学調査を優先するのは、医師として本末転倒だと言いたいです。疫学調査は今後の放射線対策を検討していくうえでも重要なことですが、被災者に調査対象になるために自身の受診権を我慢しろと言う権利は医師にだってないはずです。むしろ、医師なら行政がどうあっても患者の受診権を尊重すべきでしょう!





(引用再開・中略)


http://mainichi.jp/opinion/news/20120826ddm003040163000c3.html  


 ◇詳細結果、開示請求が必要



 福島県の甲状腺検査は、しこりやのう胞の有無、大きさを基に「A1」「A2」「B」「C」の4段階で判定している。BとCは2次検査を受ける。

 保護者の不安が最も大きいのは「A2」だ。しこりなどが見つかったが基準より小さいため2次検査の対象外のうえ、通知にはしこりの数や部位、大きさが具体的に記されていないからだ。福島医大には電話の問い合わせが250件を超え、同大は改善を始めた。今後は結果に関する住民説明会も開くという。

 だが、他にも課題はある。検査前に保護者が署名する同意書には、結果について「(保護者や本人の)希望により、いつでも知ることができる」と明記されているが、医師の所見やエコー画像を見るには、県の条例に基づき情報公開請求しなければならない。





http://mainichi.jp/opinion/news/20120826ddm003040163000c4.html  



 開示請求はこれまでに6件あった。うち3件が約3週間後に開示されたが、静止画像は通常のコピー用紙に印刷されたもので、より鮮明な画像のデジタルデータは「改ざんされる恐れがある」(福島医大)と提供されなかった。同大広報担当の松井史郎特命教授は「身体に関する情報の取り扱いは特に慎重を期さなければならない。本人と確認するには開示請求してもらうのが確実だ」と説明する。

 これに対し、日弁連情報問題対策委員会委員長の清水勉弁護士は「子供を守るための検査なのに本末転倒だ。検査結果のように本人や保護者にとって切実な情報は、本人と確認できれば速やかに希望する形で開示すべきだ」と指摘。仮に提供した画像が改ざんされても「元データを管理していればよい話で、非開示の理由にはならない」という。


(引用終了)



医療機関としては、健康診断で、費用を事業者や自治体が出しているといるとしても、検査結果は健康診断を受けた当人の個人情報であるとして取り扱っています。ですから、当事者本人と確認されれば検査結果は渡すべきですし、本人が子供なら保護者に渡すのが当然でしょう。情報公開請求までしなければならないなんて、検査結果は誰のものだと思っているのでしょうか?

画像の改ざんの恐れについても、「元データを管理していればよい」というのが尤もだと思います。元データが正しいという確証があれば、何らかの不正が行なわれたとしても対処可能なはずですから。

そんな心配をするよりも、情報開示が遅れたことで子供に不利益が生じることの方を心配するべきではないでしょうか? 県の検査が精密で信頼できるとしても、提供されている検査結果の情報が曖昧なために親御さんたちに不安を与えていることは事実であり、少なくとも親の不安が子供にとってプラスになることはあり得ないのですから。


県が検査を行なうことが”親の安心”のためならば安心できるように情報開示を積極的に行なうべきですし、”早期発見早期治療”のためならばもっと二次検査の範囲を広げるべき、単に”疫学調査”のためなら他の医療機関での検査を阻害するような通達は慎み、被災者の受診権を守るべきだと思います。

私個人としては、最初にも書いたように、”安心”という曖昧なものを目的に検査を行なうよりも、はっきり”早期発見早期治療”のためとして、それに適した方法で検査を行なうべきだと思います。