埼玉の戦争展にて 「福島第一原発事故と放射線による健康被害」 | 労働組合ってなにするところ?

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2008年3月から2011年3月まで、労働組合専従として活動しました。
現在は現場に戻って医療労働者の端くれとして働きつつ、労働組合の活動も行なっています。

あまり知られていない労働組合の真の姿(!?)を伝えていきたいと思います。

まず、東日本大震災の被災地の復旧・復興が、住民の立場に立った形で、1日も早く実現することを祈念致します。 


それから、各団体の医療支援関連情報ページの一覧を下記にまとめておきます。



全日本民医連

東日本大震災 全日本民医連対策本部情報

http://www.min-iren.gr.jp/topics/2011/110314_01.html


日本医療労働組合連合会:お知らせ

東日本大震災≪最新≫関連情報

http://www.irouren.or.jp/jp/html/menu3/2011/20110420101349.html


日本医療福祉生活協同組合連合会

東日本大震災情報―医療福祉生協連のとりくみ

http://www.hew.coop/category/1_0/1_0_1



本日は、「2011平和のための埼玉の戦争展」において行なわれた、埼玉反核医師の会の雪田医師による講演「福島第一原発事故と放射線による健康被害」を聴きに行ってきました。

以下、その概要をまとめます。


雪田医師は、3月26、27日に福島県の現地調査にいっていらしたそうです。その中で、原発の北20キロにある老人保健施設の津波被害も見てきたそうです。そうした津波が来るような場所に原発をつくっているというのが、今の日本の現状です。

福島第一原発では、原子炉とは別の建物にも使用済み核燃料プールがあり、数千本の使用済み燃料棒が保管されているそうです。その建物は津波被害に遭わなかったために報道はされていませんが、再処理施設がないため、運び出せずにいるそうです。


核燃料の成分は、使用前はウラン235が3~5%、ウラン238が95~97%となっているそうです。それを原子炉で燃やすことにより、ウラン235が約1%に減少し、様々な核生成物が生じます。

放射線には、粒としての性質を持つα線、β線、中性子と、波としての性質を持つX線、γ線などがあります。

α線は紙1枚で遮ることができ、β線はアルミ板で遮ることができ、γ線は遮るためにコンクリートなら50cm、鉛なら10cm必要となります。中性子が最も透過力が強く、外部被曝における危険性は最も高くなります。

放射線を出す放射性物質は、ウラン235が核分裂することによって生じます。放射性物質が放射線を出す量が半分になる期間を半減期と言いますが、それぞれの物質によって半減期は異なります。放射性ヨウ素は8日、セシウムは30年が反転機です。

放射線の被爆量は、線量率で表す場合と積算被曝線量で表す場合があります。

線量率は、1時間当たりの放射線被爆量で、シーベルト毎時=Sv/hで表されます。

積算被曝量はある時点から現在までの被曝量の合計で、1年分で表すことが一般的です。

放射能障害には、急性症状と晩発性障害があります。急性症状とは、大量の放射線によってたくさんの細胞が死ぬことによって起こる症状で、脱毛、嘔吐、下痢、出血傾向、倦怠感などがあります。晩発性障害とは、放射線によってつくられたDNAの傷が治らない状況にあることで、将来のガン発症などが起こります。

放射能障害が起こる線量については、確率的影響と確定的影響の2説があります。確率的影響とは、どの線量までならば症状が起こらないという値はなく、低い線量でも発症の可能性は残るという考え方です。確定的影響とは、ある線量以下では発症しないという考え方です。現在は、ICRPは確率的影響の立場を取っており、多くの学者もその考えに賛同しているそうです。

放射能障害について考え方は、広島・長崎の被爆者のデータの分析を基にしています。日米の共同研究機関である放射線影響研究所が分析しています。

それによると、放射能障害としてはまず白血病が増加し、次に甲状腺疾患が増加、次に乳ガン・肺ガン・胃ガン・大腸ガンが増加し、その後ほぼすべてのガンが増加するという影響が現れるそうです。

確率としては、1000ミリシーベルトの被曝で約50%癌死が過剰に発生するそうです。これは、100人中24人が元々癌死するなら、24×0.5=12で、12人癌死が増えるということだそうです。100ミリシーベルトなら5%増加、10ミリシーベルトなら0.5%増加するということになります。

また、脱毛、白内障、皮膚障害などの急性症状は、確定的影響として表れ、線量がある値までは症状が表れず、その値を超えると影響の表れる確率が増加するそうです。

その一方、ガンや白血病は確率的影響として表れ、線量が増えるほど影響の表れる確率は増加するそうです。ですが、100ミリシーベルト以下ではデータが不十分であり、はっきりしたことはわかっていないそうです。

放射線被曝には、外部被曝と内部被曝があります。外部被曝は体外から放射線を浴びることであり、内部被曝は呼吸や経口摂取などで体内に放射性物質が入ることで体内から放射線を浴びることです。福島原発事故の最初の頃は外部被曝ばかりが問題とされていましたが、最近では内部被曝についても取り上げられるようになりました。内部被曝は測定が難しく、原爆訴訟でも国がなかなか認めようとしなかったという経緯があります。

内部被曝は、細胞の間に放射性物質が留まり、そこから放射線を発することによって細胞核が傷つけられ、DNAが破壊されることによって起こります。

DNAには修復能力があり、わずかな破壊ならば正常に再結合しますが、α線は高密度であるために多くのDNAを一度に破壊するので、異常再結合が起こる危険性が高くなります。異常再結合することによってDNAが正常に機能しなくなり、晩発性障害が起こります。

外部被曝の場合は、放射線の透過力によって「γ線>β線>α線」の順の危険度でしたが、内部被曝の場合は逆に「α線>β線>γ線」の順の危険度になります。

また、内部被曝は、放射性物質が塊をつくってそこへ集中的に放射線が当たるので、低線量であっても危険です。

体内に入った放射性物質は、それぞれ留まりやすい場所が異なります。

放射性ヨウ素は甲状腺に集中しますが、体内での半減期、生物学的半減期は8日です。セシウムは全身に分布し、生物学的半減期は100日です。ストロンチウムはカルシウムに似た物質で骨に沈着しやすく、半減期は29年です。


福島での放射能被害は、広島・長崎に比べれば線量は少なく、内部被曝のリスクは間違いなくありますが、未知数だそうです。現状では、大きく癌死を増やすリスクはないと考えられていますが、今後は癌を早期発見、早期治療するための準備をすべきだということが提起されました。

雪田医師は5月に南相馬市で学習会を行なったそうですが、そこでは多くの質問が出され、1日目に質問できなかった人が2日目の別の場所での学習会にも来るといった状況だったそうです。そこでは子供の安全について、水と食品についてに質問が集中したそうです。

子供については、大人よりも2~3倍放射線の影響を受けるそうです。細胞分裂の回数が多いほど危険だということです。15歳以下、特に10歳以下は影響が大きいと考えられています。

子供の被曝最低基準について「20ミリシーベルト問題」が起こりましたが、20ミリシーベルトとは放射線を扱う仕事をしている人についての限度です。文科省への市民の働きかけによって、文科省も「1ミリシーベルト/年を目指す」としました。この1ミリシーベルト/年には学術的根拠はあまりないそうですが、安全を考えると国際的にも妥当なラインとされているそうです。

チェルノブイリの場合は甲状腺癌の増加が確認されています。日本の場合は、旧ソ連の内陸部よりもヨウ素の摂取量が多いので放射性ヨウ素を取りこむ可能性が下がることと、チェルノブイリでは規制されなかった汚染された牛乳が流通しなかったため、同じような影響が出るとは考えられないそうです。

新たな放射性物質の放出がなければ、放射線の中心となるのは土壌中のセシウムなので、地表の除去によってセシウムを減少させるのが効果的だそうです。地表を5cm削れば90%に減らせるそうです。

水と食料の放射線については、ベクレルで表現されます。1ベクレルとは、1キログラムの食品の中で1秒間に1個の割合で放射性物質が別の物質に変化することだそうです。水や食品については、きちんと放射線を測定し、基準を超えるものは出回らないようにするしかありません。

結局大丈夫なのかという疑問については、現状では暫定基準値を上回る食品が市場に出回らないシステムが必要であり、内部被曝の影響は軽視してはいけないが、いたずらに不安をあおることも慎まなければならないと説明したそうです。そして、「冷静に不安を持ち続ける」ということが提起されました。まったく不安を表明しなくなると政府が何もしなくなるので、不安なことは不安だと訴えていく必要があります。しかし、子供と妊産婦を優先するなど、冷静な行動をすることも必要だということです。


今後の課題としては、内部被曝については記録しておくことが重要であり、民医連が作成した「私の行動記録」の普及を行なっているそうです。そして、これまで原発のリスクには言及してきたが、危険性の認識が不十分だったという反省から、原発労働者の問題も重視する必要があるということが指摘されました。また、福島では現在でも生活支援が必要な状況であるということも指摘されました。

当面の運動としては、老朽化した原発の停止と廃炉を実現し、原子力政策・エネルギー政策を見直することを求めていくことが提起されました。そして、被災者の健康管理と被害の補償を確立する必要があることも指摘されました。放射能汚染に関するデータの公表、詳細な汚染マップの作成、汚染食品の出荷制限、子供の被曝量を減らす土壌除去などの対策を求めていくことも提起されました。


以上で報告を終わります。