イレッサ訴訟判決を受けて(キャリアブレインニュースなどより) | 労働組合ってなにするところ?

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2008年3月から2011年3月まで、労働組合専従として活動しました。
現在は現場に戻って医療労働者の端くれとして働きつつ、労働組合の活動も行なっています。

あまり知られていない労働組合の真の姿(!?)を伝えていきたいと思います。

裁判傍聴報告がなかなか終わらず、出遅れてしまいましたが、イレッサ訴訟の判決について取り上げたいと思います。

まずは、基本的な情報をキャリアブレインニュースから引用します。引用部分は青で表記します。



イレッサ判決受け、薬事法改正を検討へ――細川厚労相

キャリアブレイン  2011年2月25日 22:18

http://www.cabrain.net/news/article/newsId/32713.html?src=bp

 

 肺がん治療薬「イレッサ」の副作用をめぐる訴訟で、大阪地裁が2月25日に出した判決を受け、細川律夫厚生労働相は、医薬品の安全性対策を強化するため、薬事法の改正や抗がん剤の副作用被害救済制度の検討に着手する考えを示した。


(中略)


 判決では、添付文書の副作用に関する記載について、十分な注意喚起が図られておらず、「抗がん剤として通常有すべき安全性を欠いていた」とし、輸入販売会社のアストラゼネカ社(大阪市)に約6000万円の賠償を命じた。一方、国については、「重大な副作用欄に間質性肺炎を記載するよう行政指導したにとどまったことは、万全な規制権限の行使だったとは言い難い」としながらも、国家賠償法上の違法性は否定した。

 細川厚労相は同日、厚労省内で記者団に対し、「国の主張が認められた」との認識を示した上で、「副作用で亡くなった方、遺族の方の無念の思いは、ひしひしと伝わった。抗がん剤の副作用をできるだけなくしていくために、国として全力で取り組んでいかなければ」と強調。厚生科学審議会に部会を新たに設置し、薬事法改正に向けた議論を始めるとともに、抗がん剤による副作用死の救済制度の創設に関する検討も進める考えを示した。薬事法改正の議論は3月にスタートする。

 アストラゼネカ社は、「大阪高裁に控訴することも視野に入れ検討中」とのコメントを発表した。


(中略)


 一方、薬害イレッサ訴訟統一原告・弁護団は、東京と大阪で記者会見を開き、「極めて不当。指示・警告上の欠陥があった医薬品としながら、指導・監督する国に責任がないというのでは、薬事行政に対する国民の信頼は確保できない」と批判。さらに、「国は首の皮一枚で責任を免れたのであり、裁判所の指摘を謙虚に受け止めてほしい」と強調した。
 アストラゼネカ社への賠償命令については、「製薬企業の製造物責任法上の責任を明確に認めた点で、大きな歴史的意義がある」と評価した。



国の賠償責任が認められなかったことについては、被害の大きさを考えれば原告や弁護団が批判するのも尤もだと思います。ですが、裁判所の国家賠償についての判断には、国に著しい問題がなければ認めないという高い壁があるようです。

ですが、厚生労働省が薬事法の改正や抗がん剤の副作用死の救済制度の創設を検討しているということは、前向きに評価できることなのではないかと思います。


この訴訟に関しては、一部の医療関係者から訴訟そのものが新薬の開発や承認を妨げるものだといった残念な批判がありましたが、たとえ抗がん剤であっても、患者にはその効果の可能性と危険性についての十分な説明を受けたうえで使用するかどうかを決定する権利があるはずです。端的に言ってしまえば、副作用が少ないという説明を受けて使用した抗がん剤によって多くの副作用死が発生したならば、その説明は正しくなかったことになります。そして、その正しくない説明が故意に行なわれたものだということが立証されれば、患者の権利は不当に侵害されたと言えます。そのような権利の侵害までも、抗がん剤開発のためには耐え忍べと言うことはできないはずです。


また、こうした訴訟を行なうことが本当に新薬の開発や承認を妨げる主要な原因なのかということにも疑問があります。

毎日新聞に、イレッサ訴訟関連で次のような記事が掲載されていました。引用部分は青で表記します。



クローズアップ2011:イレッサ大阪訴訟 薬害責任、割れた結論

毎日新聞  2011年2月26日

http://mainichi.jp/kansai/news/20110226ddm003040147000c.html


(前略)


 ◇弱い新薬審査体制 職員・予算、米国の10分の1


 判決は国がイレッサの輸入を承認したことについて、「国家賠償法上の違法はない」とした。しかし、日本の医薬品の承認審査体制は、欧米に比べ脆弱(ぜいじゃく)なのが実情だ。

 医薬品の製造・販売承認を行う独立行政法人「医薬品医療機器総合機構」(PMDA)によると、PMDAの職員数は605人(10年4月1日現在)で、うち389人が審査部門に所属。欧米に比べ新薬承認が遅れる「ドラッグ・ラグ」解消や安全対策の強化などを目的に職員を毎年増員しており、04年の発足時に比べ審査担当者は約2・5倍増えた。

 しかし、PMDAによると、米国の審査機関の食品医薬品局(FDA)の総職員数は09年度で4911人(同年度のPMDAは521人)、年間予算約1071億円(同約96億円)と約10倍もの開きがある。医薬産業政策研究所によると、新薬承認にかかる審査期間(09年)は通常審査品目で米国13カ月、欧州連合(EU)13・6カ月に対し、日本は19・6カ月かかっている。

 さらに、急激な職員の増員を巡る課題も浮上している。製薬会社などの民間企業出身者は、採用後一定期間は前職と密接な関係にある業務に就けないなどの制限があるため、PMDAは大学薬学部出身者など新人の大量採用を進めてきた。その結果、職員の約4割が30歳以下となり経験の浅い審査担当者が増えた。

 同研究所が09年に国内で新薬の承認を得た企業約40社を調査したところ、「経験が浅いため、自身の考えで的確に判断し企業側と議論できるまでに至っていない」「担当者や審査部門によって対応にばらつきがある」などの回答が目立った。中には「職員数は増えているが実質的な審査能力がアップしているか疑わしい」という厳しい意見もあった。

 同研究所は「人員を大幅に増やす過渡期なので仕方がない面はあるが、大学や民間企業との人材交流を増やし、臨床現場を知る専門医や薬剤師を積極採用するなどの方法で教育プログラムを充実させる必要がある」と指摘している。



日本において新薬の開発や承認が遅れている原因は、訴訟よりも、国が力を注いでないということなのではないでしょうか。

この記事に書かれているような現状を思うと、原告や弁護団を批判する一部医療関係者の主張はお門違いではないかという思いが強くなります。


また、こうした新薬承認が遅れる状況であるにも関わらず、イレッサが世界で初めて日本で承認されたことが疑問であると考え、それを解明することによって「ドラッグ・ラグ」を含む薬事関連の諸問題を解決する方法が見いだせるのではないかと主張している医療関係者もいます。

その主張については、「週刊金曜日」2011年2月18日発行835号61ページに掲載されています。読者投稿のページなのでここでは引用しませんので、関心のある方はバックナンバーを購入してお読みください。


以上のように、イレッサ訴訟はまだ終結したとは言えません。

東京訴訟では異なる判決が出るかもしれませんし、今後原告も国を相手に控訴することもあり得ます。これからも注目していきたいと思います。