日朝協会埼玉県連合会結成50周年記念・講演と文化のつどい報告 | 労働組合ってなにするところ?

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2008年3月から2011年3月まで、労働組合専従として活動しました。
現在は現場に戻って医療労働者の端くれとして働きつつ、労働組合の活動も行なっています。

あまり知られていない労働組合の真の姿(!?)を伝えていきたいと思います。

2月6日は、「日朝協会埼玉県連合会結成50周年記念・講演と文化のつどい」に行ってきました。

日朝協会は1955年創立で、埼玉県連合会が結成されたのは1960年だそうです。1910年の韓国併合から続く不幸な歴史を繰り返さないため、日本と朝鮮領民族の理解と友好を深めるために活動する国民の自主的な団体だということです。

今回のつどいでは、文化行事として埼玉合唱団の合唱と韓国伝統舞踊の公演、そして「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会」前事務局長の蓮池透さんの講演が行なわれました。

以下、講演の概要をご紹介します。


蓮池透さんの講演は、「拉致問題の真の解決のために」と題して行なわれました。

蓮池さんは、拉致被害者の蓮池薫さんのお兄さんで、「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会」、略称家族会の前事務局長でしたが、現在は家族会を除名されているそうです。

まず、現在の日朝問題について、蓮池さんは最悪の状態にあると評価されました。拉致問題はなかなか進展せず、帰って来られない方がまだいらっしゃるので、未だに自分の家族が戻ってきたことを心から喜べない状態だそうです。

昨年の延坪島(ヨンピョンド)砲撃事件で、また拉致問題解決が遠のいたと蓮池さんは考えていらっしゃいます。現在も南北は休戦状態なので衝突が起こることは想定内でしたが、こんな時こそ交渉によって事態を解決していくべきなのに、その交渉のためのパイプが日本にはないということを蓮池さんは指摘されました。また、米韓は共同演習を行ないましたが、圧力で北朝鮮の挑発を抑圧するよりも、アメリカには北朝鮮とのパイプがあるのだから、交渉によって説得すべきだともおっしゃっていました。

北朝鮮の脅威を無闇にあおることもあまりよくないと蓮池さんは指摘されました。北朝鮮のウラン濃縮については、日本でも青森県六ヶ所村でやっていることであり、日本は核を持っていない国で唯一ウラン濃縮を行ない、IAEAの査察も受け、NPTにも加盟しているので、北朝鮮を諭す資格があるということもおっしゃっていました。

ですが、日本の北朝鮮との交渉は、小泉訪朝以来閉ざされてしまっています。前原外務大臣は全ての原因は北朝鮮にあると述べているそうですが、蓮池さんは外交チャンネルを構築してこなかった日本にも原因があると指摘されました。また、朝鮮学校の授業料無料化の差し止めなどは的外れだともおっしゃっていました。

北朝鮮との交渉は、北東アジア全体の平和構築のためにも必要であり、平和的解決は可能であると蓮池さんは主張していらっしゃいます。

小泉首相が訪朝し、日朝ピョンヤン宣言が出されましたが、その後9年間、何の進展もなくこう着状態が続いています。2009年に政権交代が行なわれましたが、民主党の拉致政策は旧態依然としており、むしろ状況は後退してしまったと蓮池さんは評価しています。北朝鮮の女子サッカーチームの来日を拒否したり、朝鮮学校を授業料無償化の対象から外したり、金賢姫来日のパフォーマンスを行なったりしたことが例に挙げられました。政権交代はこれまでの政策を転換する最大の機会なので、政治家には動機は問わないのできちんと対応してほしいと蓮池さんはおっしゃっていました。

鳩山元首相は、北朝鮮の核保有は国際的に認められない、日朝関係はピョンヤン宣言に則って包括的に解決すべき、拉致問題は2008年の合意をそって北朝鮮が誠意ある行動をすれば日本も対応すると述べました。菅首相も、「ボールは北朝鮮側にある」としています。しかし、蓮池さんは今はもう日本側から行動すべき時だと述べていらっしゃいます。

2008年の合意とは、北朝鮮は拉致問題の全面的な調査を再度行ない、日本は制裁の一部解除を行なうというものでしたが、日本側から調査だけで制裁解除はできないという反発が起こり、頓挫してしまいました。

民主党政権は、自民党の旧政策を検証すべきであり、したたかな交渉を行なうためには相手側の視点での分析を行なうべきだと蓮池さんは指摘されています。

経済制裁は、軍事行動ができない日本では最後の手段であり、それを行なうのであれば直接被害者救済につながる戦略的なものであるべきだと蓮池さんは考えていらっしゃいます。無闇な制裁は反日感情を高め、北朝鮮の結束を強めるだけであり、戦略的な裏づけのない経済制裁は交渉の回避、拉致問題からの逃げであり、国民向けのアピールでしかありません。政府が右往左往しているだけでは問題は解決できません。

マスコミも思考停止していると蓮池さんは指摘しています。北朝鮮経済は逼迫していると報道していますが、それが拉致問題解決に効果をもたらしてはいません。マスコミは「強硬な態度を取っていない人は日本人ではない」という風潮をつくっていますが、それは日本人を無意識に右の方へ、好戦的な方向へ傾けています。しかし、「強硬な姿勢が解決を早める」というのはマスコミのミスリードです。

また、政府の拉致問題対策本部が行なっているのは、拉致問題の啓発活動でしかないそうです。ポスターは冊子などのメッセージは抽象的であり、「どうやって被害者を救い出すか」という戦略は何もないそうです。ホームページにあった「アイデア募集」は、PRのためのアイデアだったそうです。そして、北朝鮮向けの短波放送でも情緒的な内容を流すだけで何億もかけており、それは北朝鮮で生き抜くためには北朝鮮に従わざるを得ない被害者たちを混乱させるだけだと蓮池さんは指摘しています。若い人の中には柔軟な対策のアイデアを持っている人もいるそうですが、上の方に行くにつれて削られてしまうそうです。


2002年9月17日は、拉致問題が白日の下にさらされた日であり、これで日本政府もきちんと対応するようになるだろうと蓮池さんは思っていたそうですが、今にして思うとこの日1日で拉致問題を解決としようとした恐ろしい日だったと思われるということでした。と言うのも、国交正常化を急ぐあまり、いい加減な解決をしようとしていたことがわかったからだそうです。

当時は、拉致被害者の5人が生存、8人が死亡と発表されましたが、死亡情報はあいまいであり、日本政府としては何の確認もしていない状態でした。もしも、この時の死亡情報がもっと緻密なものであったら、ここで拉致問題が終わっていた可能性もあったと蓮池さんは指摘されました。

被害者5人の帰国は、当時は「一時帰国」とされており、日本政府は2回目の帰国で家族もそろって帰って来ると説明していたそうです。被害者の方たちは北朝鮮の言いなりになって生き延びてきた経緯があり、当初は素直に北朝鮮に戻ろうとしていたそうです。それを蓮池さんは必死に引き止めたそうです。被害者の方たちは日本に残って親をとるか、北朝鮮に戻って子をとるかという選択を迫られ、親も子もとれる1%の可能性の賭け、日本に残ることを決断したそうです。

このときの北朝鮮の思惑は、拉致被害者は生きているということをアピールすることと、日本の家族を北へ呼ぶことを画策していたと蓮池さんは見ています。

今では子供達も日本へ帰って来て、被害者の方たちは日本人として生きています。蓮池さんは、この点については小泉元首相を評価するべきだと述べています。

しかし、家族会が小泉氏を批判する様子がテレビに流れてしまい、小泉氏は拉致問題解決のために行動することを止めてしまいました。家族会は唯一、拉致問題で行動した政治家を失ってしまいました。もしもあの時、家族会が小泉氏を礼賛していたら、更に訪朝を重ねて問題解決が進んでいたかもしれないと蓮池さんはおっしゃっていました。

横田めぐみさんの「遺骨」返還は、国交正常化のために世論を沈静化しようと行なわれたものであり、拉致問題の軽視であると蓮池さんは評価していらっしゃいます。「遺骨」は鑑定不可能とされていましたが、帝京大の鑑定では別人と判明しました。このことで、日本では北朝鮮批判が激化し、北朝鮮打倒論までが起こってしまいました。


菅首相はこれまでの経緯に学ぶべきであると蓮池さんは指摘しました。

制裁に拘っていては身動きがとれず、対話、交渉を行なわないと問題は解決しません。交渉をするには表面上だけでも信頼関係を築くべきです。あるいはアメリカのように、表面で対決していても裏で交渉し、邦人を助け出すことを行なうべきです。

また、拉致問題は今では大きな問題であり、日朝の長い歴史を振り返って考えるべきであり、その責任が政府にはあり、政治主導というなら政治家がやるべきだと蓮池さんは主張されています。

蓮池さんのアイデアは、2008年合意の実行をし、調査委員会の設置と制裁緩和、それが難しければ人道支援を行なうということだそうです。そして、それが軌道に乗ったら、ピョンヤン宣言を実行し、過去の清算を行ない、北朝鮮の拉致問題解決のための誠実な行動と同時進行とするということです。ですが、ピョンヤン宣言には被害者8人が死亡しているということが前提となっているので、そのジレンマをどう解決するかが問題となるそうです。

最後に蓮池さんは、拉致問題は自らの正当性を一方的に訴えたことで泥沼化したのであり、譲歩が必要な時期であり、「一刻も早い解決を」と言うならば行動すべきだと訴えました。そして、一人一人も自分の拉致問題についての考えを政府に向けて発信すべきだと提起しました。


以上で講演の報告を終わります。