もう一つの9.11 | 労働組合ってなにするところ?

労働組合ってなにするところ?

2008年3月から2011年3月まで、労働組合専従として活動しました。
現在は現場に戻って医療労働者の端くれとして働きつつ、労働組合の活動も行なっています。

あまり知られていない労働組合の真の姿(!?)を伝えていきたいと思います。

9.11と言えば、アメリカで起こった同時多発テロ事件を指すというのが現在では一般的でしょう。このテロそのものは許されない犯罪行為であり、亡くなられた方々のご遺族、そして様々な形で被害に遭われた方々、そして救助にあたって心身に影響が残ってしまっている方々に対しては、必要に応じた保障や配慮がされるべきだと思います。しかし、このテロの首謀者をアフガニスタンが支援しているとしてアメリカがアフガニスタン侵攻を開始し、多くのアフガニスタンの民間人が犠牲になっていることも忘れてはなりません。そして、その犠牲によって憎しみが新に生まれ、テロは拡大していきます。「テロとの戦い」は、結局「テロの拡大再生産」をもたらしているということを私達は認識するべきです。


この9月11日という日には、他にも重要な出来事が起こっています。

日本の現代史においても、小泉自民党が圧勝した2005年の郵政民営化が争点とされた総選挙の投票日が9月11日でした。ここで日本の新自由主義社会化は決定的になったと言っても過言ではないでしょう。

そして、世界史上での新自由主義への転換点とされる1973年のチリ軍事クーデターも、まさに9月11日に勃発しているのです。

このクーデターについては、村野瀬玲奈さんが「チリ、1973年9月11日」というエントリーで詳しくお書きになっています。ぜひお読みください。

http://muranoserena.blog91.fc2.com/blog-entry-866.html


私がこのクーデターについて知ったのは、先日9月7日の埼玉県弁護士会主催「憲法と人権を考える市民のつどい」で行われた神野直彦教授の講演においてでした。

その時、神野教授はクーデターを起こした軍部と交戦中のアジェンデ大統領が国民に対して行なったラジオ演説の一節を読み上げてくださいました。当日は4日連続学習企画の最終日で右手が疲れきってしまっていたので書き取ることができなかったのですが、アジェンデ大統領は最後までクーデターには屈しないことを表明し、自分はここで死ぬことになるだろうが、暴力が人民の運動をつぶすことは決してできないと語ったということでした。そして、神野教授が雑誌「世界」にアジェンデ大統領について寄稿した際、恩師である東大名誉教授の宇沢弘文先生からいただいたというお手紙も、ご本人了承のうえで読み上げてくださいました。このお手紙については別の講演でもお話しされている記録が見つかりましたので、その部分を引用させていただきます。引用部分は青で表記します。


2008年度埼玉大学連続寄付講座 開講の辞より

草野忠義 社団法人教育文化協会理事長

http://www.rengo-ilec.or.jp/seminar/saitama/2008/youroku01.html


  神野先生は、実はこの講演の前に『世界』という雑誌に文章を出したのですが、その後、神野先生の恩師でもある東大名誉教授の宇沢弘文先生という大変高名な経済学者がおられますが、その宇沢先生から来た手紙を神野先生は、公表していいかということで本人にお聞きしたら「結構ですよ」ということで、この話をされたのです。ここだけ少し読み上げます。
  「1973年9月11日…つまり、サルバトール・アジェンデが暗殺された日…に、私はシカゴにいました。たしか、かつての同僚たちとの集まりに出ていたとき、たまたまチリのアジェンデ大統領が殺されたという知らせが入った。その席にいた何人かの、小さな政府論を広めている、あのフリードマンの仲間たちが、歓声を上げて喜び合った。私は、その時の彼らの悪魔のような顔を忘れることは出来ない。それは、市場原理主義が世界に輸出され、現在の世界的危機を生み出すことになった瞬間だった。私自身にとって、シカゴ学派との決定的な決別の瞬間だった。」


アジェンデ大統領は労働者に圧倒的に支持された社会主義者の大統領でした。そのアジェンデ政権が倒れたことより、チリ人民は長く軍事政権の圧制の下に苦しめられることになりました。そして、このクーデターが資本主義社会の優位を否定する存在としての、選挙により正当に選ばれた社会主義国を滅ぼそうとしたアメリカの策謀によるものだったことが明らかにされてきています。

つまり、労働者のための社会を市場原理主義の社会が暴力によって打ち壊したというのがチリクーデターの構図です。それは民主主義の否定、人権の否定であることを私達は忘れてはならないと思います。


追記

このエントリーを書きながら資料を探していたら、上記の埼玉大学の講座の資料から、アジェンダ大統領の演説の邦訳が見つかりましたので引用させていただきます。


2008年度埼玉大学連続寄付講座 開講の挨拶資料

http://www.rengo-ilec.or.jp/seminar/hitotsubashi/2008/youroku02_r_kusano.pdf


『労働者諸君!私は辞めない。この歴史的な瞬間に際して、私はわが人民の忠誠に死をもってこたえなければならないということを知っている。君たちに言う。その名に値する幾千ものチリ人の心の中にまかれた種子が、根こそぎにされることはあり得ない。彼らは武力でもってわれわれを屈服させるだろう。だが、暴力をもってしても、犯罪的行為をもってしても、社会運動を押しとどめることは出来ない。歴史はわれわれの側にある。歴史をつくるのは人民なのだ。人民はみずから身を守らなければならないが、自己を犠牲にしてはならない。諸君は、自分の身を銃弾にさらしてはならないし、みずからを辱めてはならない。わが祖国の労働者よ、私はチリ人民を信じ、その運命を信じる。裏切りが勝利したからには、次には別の人々があらわれて、この暗いつらいときを乗り越えるだろう。知って欲しい。やがて大通りが再び開放されて、その上を自由な人間がよりよき社会の建設に向けて歩み出ることを。 チリ万歳!人民万歳!労働者万歳!』