「笙子(しょうこ)、もう窓を閉めて休みなさい。」
母親が心配そうに声をかけた。
それでも笙子は窓を閉める気配が無い。

「笙子!聞こえてるの?」
さっきまで心配そうだった母親の声に、強さが加わった。

「聞こえてるし、わかってる。」
少しうんざりしたような気持ちが声にありありと表れた返事をしてしまったことに
多少の罪悪感を覚えたが、笙子はそのまま頬杖をついてまた暗い空を見上げた。

細い月のおかげで夏の星座がよく分かる今夜は
笙子にとって絶好の夜更かし日和だ。
何億光年先からやってきたこの光たちが、今の笙子にとって心を開けるただひとつの存在なのだ。

たとえ、今見えてるこの星たちの光が過去の煌めきだとしても
そこに存在していたことに間違いはないのだ。
そう思うと、笙子はチカチカと揺れる星の瞬きに切なさを感じつつ
その切なさに自分をダブらせるかのように声が出ないようにゆっくりため息をついた。



瞬間、星が流れた。



笙子は、初めて流れ星を見た。
驚きと、うれしさと、さっきまでの切なさに心がいっぱいになり
知らずに涙が溢れた。
声を上げてしまいそうになるのを、隣の部屋で休んでいる両親に悟られないように
必死に堪えながら、両手で口を押さえて 泣いた。




このところ、うまく眠れない夜が続いている。
初めて付き合った男と別れたせいではない。
夏休み前に返されたテストの結果が散々だったせいでもない。
親友との約束をドタキャンしてしまい夏休みに入る前に喧嘩してしまったせい・・でもない。

心の準備もなく、一週間前に知らされた とある検査の結果のせいで
その夜から笙子はうまく眠れていないのだった。